2020年10月01日

世界各国の金融政策・市場動向(2020年9月)-「フィンセン文書」をきっかけに、ドル高が進む

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.概要:9月後半にドル高が一気に進む

9月に世界各国1で実施された金融政策および、株価・為替の動きは以下の通り。
 

【9月金融政策】
【9 月金融政策】

【9月の株価・対ドル為替レートの動き】
・9月初めから多くの国で下落し、年初水準まで戻っている(図表1)
・9月後半の「フィンセン文書」に関する報道をきっかけに、ドル高が進んだ(図表2)

(図表1)世界株価の動向/(図表2)対ドル為替レートの動向
 
1 本稿では金融政策はG20について確認する。また、株価・為替についてはMSCI ACWIの指数を構成する49か国・地域について確認する。中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除く。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。

2.金融政策:トルコでは利上げへ

9月は主要国の多くで金融政策決定の関連会合が開催されたが、金融政策の方針を変更した国はわずかだった。総じて見ると、コロナショックに伴う金融市場の緊張化や景気後退に対応するための金融緩和局面からは脱し、経済の状況を様子見する姿勢がうかがえる。

先進国では、オーストラリア準備銀行がTFF(資金調達ファシリティ)の延長と、総枠の拡大を実施した。コロナ禍が収束していないなかで、既存の資金繰り支援策を延長した形となる。

新興国ではメキシコ銀行が政策金利を引き下げ、トルコ中央銀行は政策金利を引き上げた。メキシコではややインフレ率が上昇しているが需給ギャップが拡大した状況が続き、世界的に物価が低下していることもあり、利下げ余地があると判断した形になる。一方、トルコは需要が低下しているなかでも予想以上にインフレ率が高まっているとして、利上げに踏み切った。特にトルコの場合は通貨安が急激に進んでいたことが、中銀にとっての懸念材料だったと見られる。政府が低金利を志向していたこともあり8月は政策金利を据え置いたが、9月は政権の意向には反するが、通貨安を看過できず利上げを断行したことなる。

なお、米国FRBは金融政策の方針に変更はなかったが、8月に「長期目標と金融政策戦略」を見直したこと受けて、声明文のフォワードガイダンスで物価について「平均的に2%の達成」を目指す旨を明記した。

3. 金融市場:「フィンセン文書」をきっかけに、ドル高が進む

MSCI ACWIにおける月間騰落率を見ると、全体では前月▲3.4%、先進国が前月比▲3.6%、新興国が前月比▲1.8%となった。先進国・新興国ともに上昇基調が続いていた前月からは一服し、全体の指数も年初水準程度まで低下した(前掲図表1)。
(図表3)MSCI ACWI構成銘柄の国別騰落数 国別の株価の動きを見ると、今月は前月比で上昇した国は49か国中12か国に留まっている(図表3)。主要国では先進国の米国や日本、ドイツ、英国などが下落したほか、新興国でこれまで上昇をけん引していた中国も9月に下落に転じている(図表4)。特に、米国のGAFAMなど主力ハイテクがこれまで上昇幅が大きかった分、調整が大きくなっているほか、国・銘柄を問わず幅広く売りが広がったと見られる。ただし、指数全体では9月下旬には下げ止まり、やや持ち直しの動きも見られる。
(図表4)各国の株価変動率
通貨の騰落率を見ると、対ドルの27カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Narrow)が前月比▲1.6%、60カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Broad)が前月比▲1.2%となり、ドル高となった。特に月後半に一気にドル高が進んだ形となった2(前掲図表2)。
(図表5)MSCI ACWI構成通貨の通貨別騰落数 MSCI ACWIの構成通貨別に見ると、今月は38通貨中11通貨が対ドルで上昇(ドル安方向)、28通貨で下落(ドル高)となった(図表5)。9月のドル高は、コロナ禍後に弱含みが目立っていた新興国通貨に対して進んだだけでなく、多くの先進国通貨に対しても進んでいる(図表6)。
ドル高は、米財務省の資金情報機関「金融犯罪取締ネットワーク」に提出した内部資料(いわゆるフィンセン文書、資金洗浄に関連すると見られる取引が記載されている)の分析結果が公表されたことをきっかけに進んでいる。欧州を中心にコロナ再拡大が進んでいることと合わせて、リスク回避的な動きからドル志向が進んだと見られる。
(図表6)各国の対ドル為替レート変動率
 
2 名目実効為替レートは9月28日の前月末比で算出。

 
(参考)主要国の新型コロナウィルス拡大後の金融政策一覧
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年10月01日「経済・金融フラッシュ」)

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