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- 英国金融政策(9月MPC)-英EU通商交渉の決裂リスクも浮上
2020年09月18日
1.結果の概要:政策変更なし
9月17日、英中央銀行のイングランド銀行(BOE:Bank of England)は金融政策委員会(MPC:Monetary Policy Committee)を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・政策金利を0.1%で維持(変更なし)
・国債および投資適格級社債の購入を総額7450億ポンドまで実施する(変更なし)
【議事要旨(趣旨)】
・最近の国内経済データは8月の報告書での見通しよりもやや強いが、不確実性も高い
・成長率とインフレ率は封じ込め政策のほか、英EUの新たな貿易協定に依存する
・マイナス金利に関する実務課題について、健全性規制機構と組織的な連携を開始する
2.金融政策の評価:英EUの通商交渉もリスク、マイナス金利は実務課題の検討開始へ
今回のMPCでは、市場の予想通り、8月のMPCに引き続いて金融政策の維持を決定した。
景気に関する評価としては、8月に公表した金融政策報告書(MPR)よりもやや強いものの、不確実性も高く、今後の見通しについては不透明である点を強調している。特に今回は、不確実性の要因として、声明文に前回までの「新型コロナウイルスの封じ込め政策」だけでなく、EUからの離脱(Brexit)に関連した「新しい貿易協定の種類や移行方法」を記載している。MPCでは、貿易交渉の経過がポンド安を招いていることも議論されており、現実的には、経済活動の再開が続けられている新型コロナよりも、交渉にほとんど進展が見られない英EUの貿易交渉の方が目下のリスクとしては高いと見られる。
イングランド銀行では、資産購入策の枠を拡大した6月に、年始(around the turn of the year)にかけてプログラムを完了させると言及し、現在もこの計画を維持している。年末にかけては、追加刺激策についての議論が高まると見られるが、英EU貿易交渉が、イングランド銀行の想定する「包括的かつ秩序だった移行を即時に実施する」という前提と異なる形で決着した場合は、次回11月のMPCで、経済見通しを下方修正し、資産購入の追加に踏み切る可能性もあるだろう。
追加緩和策については、マイナス金利政策の議論を深め、実務課題で健全性規制機構(PRA)との連携をしていく旨も示されたため、ベイリー総裁がこれまで「使う予定はない」としているマイナス金利についても、導入への関心が高まっていくものと見られる。
景気に関する評価としては、8月に公表した金融政策報告書(MPR)よりもやや強いものの、不確実性も高く、今後の見通しについては不透明である点を強調している。特に今回は、不確実性の要因として、声明文に前回までの「新型コロナウイルスの封じ込め政策」だけでなく、EUからの離脱(Brexit)に関連した「新しい貿易協定の種類や移行方法」を記載している。MPCでは、貿易交渉の経過がポンド安を招いていることも議論されており、現実的には、経済活動の再開が続けられている新型コロナよりも、交渉にほとんど進展が見られない英EUの貿易交渉の方が目下のリスクとしては高いと見られる。
イングランド銀行では、資産購入策の枠を拡大した6月に、年始(around the turn of the year)にかけてプログラムを完了させると言及し、現在もこの計画を維持している。年末にかけては、追加刺激策についての議論が高まると見られるが、英EU貿易交渉が、イングランド銀行の想定する「包括的かつ秩序だった移行を即時に実施する」という前提と異なる形で決着した場合は、次回11月のMPCで、経済見通しを下方修正し、資産購入の追加に踏み切る可能性もあるだろう。
追加緩和策については、マイナス金利政策の議論を深め、実務課題で健全性規制機構(PRA)との連携をしていく旨も示されたため、ベイリー総裁がこれまで「使う予定はない」としているマイナス金利についても、導入への関心が高まっていくものと見られる。
3.金融政策の方針
今回のMPCで発表された金融政策の概要は以下の通り。
1 8月3-31日に実施された政策であり、月-水曜日限定で、飲食店での店内飲食が10ポンド上限で50%割引となる
2 インフレ率が目標から乖離した理由と今後のインフレ見通し、インフレ目標を達成するための金融政策手段について説明する書簡(インフレ率が目標(2%)から1%以上乖離した場合に公開が要求される)。
- MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、経済成長と雇用を支援する
- Covid-19のパンデミックによる経済・金融への影響にどのように反応するかが課題
- 政策金利(バンクレート)を0.1%で維持する(全会一致で決定)
- 国債および投資適格級の非金融機関社債の総額で7450億ポンドの購入を続ける(全会一致で決定)
- 経済見通しは依然として極めて不透明といえる
- 8月の金融政策報告書(MPR)では、Covid-19による経済への影響は次第に消えていくことを前提としていた
- また、21年1月1日には、EUとの包括的なFTAに即時かつ秩序だった形で移行することも前提としていた
- こうした前提のもとで、英国のGDPは回復を続けるだろうと予想した
- また、経済活動は充実した財政・金融政策によっても支えられた
- にもかかわらず、健康への懸念が経済活動を阻害することから、需要の回復には時間を要している
- 失業率は生産力余剰の拡大に伴い急激に上昇し、緩やかに低下していくと予想されている
- 市場金利から計測される2年後の期待CPIインフレ率は2%前後を示している
- 世界経済に関する指標は、8月のMPC時点の見通しに概ね一致している
- ポンド為替相場は、一部は英国離脱(Brexit)を材料に2%近く下落した
- 英国の7月GDPは4月の谷を約18.5%上回っているものの、19年10-12月期の水準を11.5%ほど下回っている
- 高頻度決済データは、夏の間に消費の回復が続き、年初の水準まで付近に達しており、これは8月の報告書よりも強いことを示唆している
- 投資意欲は依然として非常に弱く、企業をとりまく不確実性は増している
- 総じてみると、20年7-9月期のGDPは19年10-12月期よりも7%ほど低いと予想される。これは8月の報告書で期待されていたよりも弱くない。
- 行政データによれば、給与所得者は2月から8月の間に約70万人減少した
- 一時休業者は低下を続けているが、政府の雇用維持政策が終了すれば労働市場にかなりの不確実性が残るだろう
- CPIインフレ率は7月の1.0%から8月には0.2%まで低下し、これは政府の外食支援策(Eat Out to Help Out scheme1)と飲食・宿泊・娯楽に対するVAT(付加価値税)の一時的な引き下げの影響に伴うものである
- そのため、MPCの声明と同時に公表された中銀総裁から財務相への公開書簡2を交換した
- インフレ率は2021年初までは1%を下回ると予想されるものの、8月の報告書の予想よりも若干高い
- 成長率とインフレ率はパンデミックの進展と実施される公衆衛生保護策、およびEUと英国の間の新たな貿易協定の種類や移行方法に依存する
- また、家計、企業、金融市場がこれらの進展にどのように反応するかにも依存する
- 最近の国内経済データは8月の報告書よりもやや強いが、不確実性を考慮すると今後の経済回復の強さを示す材料としては不透明と言える
- 最近の、英国を含むいくつかの国におけるCovid-19の感染拡大は、年初よりもおそらく規模は小さいものの経済活動のさらなる重しとなる可能性がある
- 8月の報告書で示したように、上昇した失業率が中央予測よりも高止まりするリスクを依然として抱えている
- MPCは引き続き状況を注視し、権限沿って金融政策を調整する準備がある
- MPCは目的を達成するために必要な行動を広く検討する
- MPCは生産力余剰の解消と、2%のインフレ目標の安定的達成への著しい進展についての確証が得られるまでは、金融政策を引き締めるつもりはない
- 委員会は今回の会合で、現在の金融政策を続けることが適切であると判断した
1 8月3-31日に実施された政策であり、月-水曜日限定で、飲食店での店内飲食が10ポンド上限で50%割引となる
2 インフレ率が目標から乖離した理由と今後のインフレ見通し、インフレ目標を達成するための金融政策手段について説明する書簡(インフレ率が目標(2%)から1%以上乖離した場合に公開が要求される)。
4.議事要旨の概要
議事要旨の概要(上記金融政策の方針以外の部分)において注目した内容(趣旨)は以下の通り。
(国際経済)
(金融環境)
(需要、生産、通貨、信用)
(供給、費用、価格)
(当面の金融政策決定)
(国際経済)
- 5月・6月は封じ込め政策が緩和されたため、世界経済は急激に回復した
- 最近の回復ペースは鈍化している
- 世界GDPは20年7-9月期で4.75%回復したと思われ、これは8月見通しと概ね一致しており、19年10-12月期の水準よりも7.75%低い
- 7月・8月の指標では、ユーロ圏GDPがペースは鈍化しているものの回復が続いていることが示された
- 欧州、特にスペインとフランスでは致死率は低いものの感染者数がかなり増加してきた
- ユーロ圏のGDPは20年7-9月期で6.5%程度回復する見通し
- 米国では、高頻度指標が8月報告書の見通しよりもやや早い回復を示唆している
- 感染者数は依然として多いが、7月下旬のピークと比較して大きく減少し、感染者の多さによる影響を受けていた州でも支出が回復している
- 米国GDPは20年7-9月期で5%程度回復する見通しで、8月時点の見通しよりやや強い
- 米国ではここ数か月雇用が増加し、失業率は予想以上に低下したが、2月から4月までに失われた雇用の半分しか戻っていない
- 米国では多くのCARES法による直接的な財政支援は失効したが、失業保険拡充の延長(上乗せ率はCARES法の約半分)などの大統領令に署名した
- 議会は追加の財政支援交渉を続けている
- 中国の経済回復は工業生産と輸出にけん引され続いているが、国内支出の回復は弱い
- 中国以外の新興国では、回復の兆しのようなものがある
- しかし、移動量の指標やサービス産業活動は、年初の水準より低い
- ユーロ圏のインフレ率はやや変動し、7月の0.4%から8月には▲0.2%まで低下した
(金融環境)
- 主要国の株価指数は8月会合以来、まちまちの動きとなった
- FTSE全株指数は8月会合からやや上昇したが、他の主要指数より下回った
- 先進国の国債金利は8月会合から上昇している。
- 米国、英国、ユーロ圏では短期金利より長期金利が上昇し、イールドカーブはスティープ化した
- 米10年国債の金利上昇は米国のインフレ期待の回復によるもので、FRBのパウエル議長が平均インフレ目標に言及したことに関連している
- この間に米国実効為替レートは下落した
- コロナショックによる期待インフレ率の変化を先進国で比較すると、英国の期待インフレ率は他国よりも強靭である
- 5年先5年物インフレスワップは、米国やユーロ圏での低下幅より小さく、急速に回復、6月までには1月の水準まで戻り、概ねそのレベルを維持している
- 8月会合以降、3年物瞬間フォワードレートOISはやや上昇し、2022年中ごろまで政策金利は0.2%以下であると示唆されている
- MPCはこの会合で金融政策の変更を予想されていなかった
- ポンドの実効為替レートは8月会合から2%ほど下落している
- ユーロ高を反映したもので、英国とEUの貿易協定の交渉に焦点があたっている
- 為替レートに関する不確実性の指標は上昇している
- 英国の卸売(銀行間)無担保調達金利は低下し、19年のレンジまで戻っている
- 住宅ローン固定金利は低LTVで10bpほど上昇し、高LTVでは信用リスク懸念などを反映してより上昇した
(需要、生産、通貨、信用)
- 米国のGDPは20年7-9月期に20%近く減少し、8月見通しと概ね一致している
- 家計消費は23%近く減少し、8月見通しよりやや弱い
- 企業投資は31%近く減少し、8月見通しよりやや落ち込んでいる
- 月次GDPは5月+2.4%、6月+8.7、7月+6.6%で、生産が次第に回復するとした見通しと一致しているが、2019年10-12月期の水準を回復するのは、2021年となると見られる。
- 特に、外食促進策は8月の外食支出の増加に寄与した
- 住宅市場からは耐久消費財の強さがうかがえる
- MPCでは年を通じての家計消費の持続性について議論した
- 耐久消費材や、不急の商品への需要の強さは、ペントアップ需要と社会・労働関連需要(の落ち込み)を代替している可能性がある
- ここ数週間は社会消費の一部が大きく増加したが、感染リスクの低下や外食促進策がどの程度反映されているかは不透明と言える
- こうした動きとは対照的に消費者信頼感は依然として低く、失業への懸念は高まっている
- デジタル・技術投資関連への見通しは改善したものの、設備投資意欲は依然として非常に弱い
- 非金融機関のネット資金調達は7月に鈍化し、2019年並みの水準まで戻った
- 政府保証策からの調達は需要の鈍化に合わせて、緩和された
(供給、費用、価格)
- 労働力調査基準の失業率は5-7月平均で4.1%まで上昇したが、労働市場の弛み(slack)は失業率が示す以上に増加している可能性が高い
- 行政データによれば、雇用維持政策の利用は5月の900万人弱がピークだった
- 民間の一時休業者は8月後半には16%まで低下し、350万人に相当するとみられる
- 8月の失業率見通しは20年10-12月期に7.5%まで上昇すると予想しているが、公式統計データの解釈は難しく、この見通しを変更させる情報は限定的である
- 5-7月期の週当たり賃金は前年同月比1.0%減で、雇用維持制度を低賃金で利用している人が減少するにつれ、減速は緩和されているが、基調は弱い
- CPIインフレ率は、9月には外食促進策の終了により上昇すると見られるが、その後、年内は1%を割る水準で推移すると見られる
- 企業物価関連の調査は弱い結果を示しているが、家計のインフレ期待は比較的安定している
(当面の金融政策決定)
- (金融政策の方針は第3節に記載の通り)
- 9月16日現在、資産購入規模は6840億ポンドにたっし、3月19日および6月18日に公表された資産購入策のもとで2390億ポンド増加した
- 2300億ポンドが英国債、93億ポンドが非金融機関の投資適格級社債にあてられた
- 委員会は引き続き年始(around the turn of the year)に資産購入量が7450億ポンドとなるよう、プログラムを完了させる予定である
- 流動性環境が安定したことから、市場機能不全に陥った当初よりも遅いペースでの購入が可能となった
- しかし、市場環境が再び悪化すれば、金融政策の効果的に波及させるために購入ペースを拡大させる準備がある
- 委員会では8月の報告書にある金融政策手段、特にマイナス金利の効果について、世界的な均衡金利が低下していることに照らして、議論した
- MPCは低い均衡金利の状況にあって、インフレ率や成長率の見通しが、政策金利のマイナス化を正当化するのか、効果的に実施できるのかについてイングランド銀行の見解を説明された
- イングランド銀行と健全性規制機構(Prudential Regulatory Authority:PRA)は2020年10-12月期から実務課題に関する組織的な連携を開始する予定である
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年09月18日「経済・金融フラッシュ」)
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経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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