2020年10月08日

2020・2021年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.283]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―過去最大のマイナス成長

2020年4-6月期の実質GDPは、前期比▲7.9%(前期比年率▲28.1%)となり、GDP統計で遡ることができる1955年以降で最大のマイナス成長となった。

新型コロナウィルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言の発令に伴う外出自粛や店舗休業の影響で、民間消費が前期比▲7.9%の大幅減少となったほか、企業収益の悪化や先行き不透明感の高まりから設備投資が同▲4.7%と2四半期ぶりに減少した。。新型コロナウィルス感染回避のため医療機関の利用が急減し、政府消費も前期比▲0.6%と減少した。この結果、国内需要は前期比・寄与度▲4.9%の大幅減少となった。

また、海外経済の急激な悪化やインバウンド需要の消失から輸出が前期比▲18.5%の大幅減少となり、外需も前期比・寄与度▲3.0%と成長率を大きく押し下げた。

実質GDPは、消費税率引き上げや新型コロナウィルス感染症の影響で2019年10-12月期から2020年4-6月期までの3四半期で▲10.1%落ち込んだ。これは、リーマン・ショック前後の2008年4-6月期から2009年1-3月期まで(4四半期)の▲8.6%を上回る落ち込み幅である。

2―景気はすでに底打ち

このように、2020年4-6月期は過去最大のマイナス成長となったが、5月下旬に緊急事態宣言が解除されたことを受けて、生産、輸出、消費などの主要経済指標は2020年5月を底に持ち直している。景気動向指数のCI一致指数は、2020年3月から5月にかけて▲22.9ポイントの急低下となったが、6月に前月差+3.2ポイントと5ヵ月ぶりの上昇となった後、7月も同+1.8ポイントとなった。2018年11月 に始まった景気後退局面はすでに終了し、2020年5月が景気の谷となる可能性が高い。

緊急事態宣言下で極めて大きな落ち込みを記録した個人消費は、6月から持ち直している。緊急事態宣言の解除に伴うペントアップ需要(抑制されていた需要)の顕在化に加え、1人当たり10万円の特別定額給付金の支給が消費の押し上げ要因となった。総務省統計局の「家計調査」によれば、勤労者世帯の実質可処分所得は6月が前年比18.9%、7月が同11.7%の大幅増加となった。勤め先収入などの経常収入は低迷しているが、特別定額給付金の支給によって特別収入が急増したためである。特別収入の実額(一世帯当たり)は6月が15.5万円(前年差14.7万円)、7月が6.6万円(前年差5.8万円)であった[図表1]。
[図表1]特別定額給付金が家計の可処分所得を押し上げ
総務省によれば、給付総額12.73兆円のうち7月末までに12.32兆円(96.8%)が支給された。8月以降は特別定額給付金の支給がほとんどなくなるため、景気悪化に伴う勤め先収入の減少が可処分所得の減少に直結する形となるだろう。

個人消費は全体としては持ち直しているが、外食、宿泊、娯楽などのサービス消費は引き続きコロナ前の水準を大きく下回っている。日本銀行が作成している実質消費活動指数を形態別に見ると、耐久財、非耐久財は緊急事態宣言の影響で4、5月には大きく落ち込んだものの、6月にはペントアップ需要の顕在化によって大きく反発し、感染症の影響が顕在化する前の2020年1月の水準を上回った。一方、外出自粛の影響を強く受けたサービスは、緊急事態宣言中の落ち込み幅が財を大きく上回ったことに加え、6月以降の戻りも小さい。7月のサービス消費の水準は1月を▲20%近く下回っている。また、6月の財消費が大きく増加したのは、4、5月に外出自粛、店舗休業の影響で購入できなかったものを、緊急事態宣言解除後にまとめて購入したことが一因だったため、7月にはその反動から弱めの動きとなった[図表2]。
[図表2]実質消費活動指数(財別)の推移

3―雇用所得環境の悪化が消費を 下押し

経済活動の急激な落ち込みを受けて、これまで改善が続いていた雇用情勢は悪化している。有効求人倍率は、2019年4月の1.63倍をピークに2020年7月には1.08倍まで低下し、2%台前半の推移が続いていた失業率は2%台後半まで上昇した。新型コロナウィルスの影響を受けて、企業の人手不足感は大きく後退している。日銀短観の雇用人員判断DI(過剰-不足)は長期にわたりマイナス(不足超過)が続いているが、2020年6月調査では3月調査から+22ポイント上昇の▲6となり、不足超過幅が大きく縮小した。雇用人員判断DIと失業率の連動性は高く、雇用人員判断DIにやや遅れて失業率が変動する傾向がある。雇用調整助成金の拡充などによって倒産、失業の増加がある程度抑制されることを考慮しても、失業率の大幅な上昇は避けられないだろう。失業率は2020年度末にかけて4%まで上昇すると予想する。

感染症の影響は賃金面にも強く表れている。2020年の春闘賃上げ率(厚生労働省)は前年から▲0.18ポイント低下の2.00%となった。業績との連動性が高いボーナスは基本給以上に厳しい。企業収益は、海外経済の減速、消費税率引き上げの影響ですでに悪化していたが、2020年度は新型コロナウィルスの影響で赤字企業が続出し、減益幅はリーマン・ショック並みの大きさとなることが見込まれる。ボーナスは2020年冬以降、減少幅が拡大する可能性が高い。雇用者数、一人当たり賃金がいずれも減少することから、2020年度の雇用者報酬は前年比▲3.4%と8年ぶりの減少となることが予想される。

一方、特別定額給付金の支給が家計の可処分所得を押し上げる。マクロベースでみた特別定額給付金の支給額は12.7兆円で、2020年度の雇用者報酬の減少額▲9.9兆円を上回る。このため、2020年度の家計の可処分所得は前年比1.6%の増加となり、消費の落ち込みを緩和する役割を果たすだろう[図表3]。ただし、特別定額給付金による押し上げは一時的で、2021年度の可処分所得はその反動で大きく落ち込むことが避けられない。長い目でみれば、雇用所得環境の悪化が消費の回復を遅らせる要因となる可能性が高い。
[図表3]家計・可処分所得の増減要因

4―実質GDP成長率の見通し

日本経済は2020年5月を底に持ち直している。2020年7-9月期の実質GDPは、前期比年率14.0%の高成長になると予想する。ただし、外食、宿泊などのサービス消費の持ち直しが限定的にとどまっていること、7月以降、新型コロナウィルスの陽性者数が再び増加したことを受けて自粛を求める動きが強まっていることから、経済活動の正常化は遅れている。7-9月期の実質GDPは表面的には高い伸びとなるが、4-6月期の落ち込みの約4割を取り戻すに過ぎず、その後の回復ペースも緩やかなものにとどまる公算が大きい。

その理由としては、「新しい生活様式」の実践が恒常的に外食、旅行などのサービス支出の抑制要因となることが挙げられる。また、経済活動の収縮が一定期間継続し、倒産、失業者の大幅増加が不可避となったことで経済基盤が損なわれ、経済活動の制限がなくなったとしても需要が短期間で元の水準に戻ることは難しくなった。雇用者所得の減少、企業収益の悪化は長期にわたって個人消費、設備投資の下押し要因となるだろう。もちろん、コロナ後の新しい生活様式によってこれまでなかった需要が新たに生み出されることは期待できる。しかし、従来型の需要の消失分を短期間で取り戻すことは難しい。実質GDP成長率は2020年度が▲5.8%、2021年度が3.6%と予想する。今回の予測期間末である2021年度末(2022年1-3月期)の実質GDPは直近のピーク(2019年7-9月期)と比べて▲2.9%低い水準にとどまる。実質GDPが元の水準に戻るのは2022年度以降となろう。
[図表4]実質GDP成長率の推移
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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2020年10月08日「基礎研マンスリー」)

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