2020年09月16日

貿易統計20年8月-輸出の水準はコロナ前の9割程度まで回復

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.輸出の減少幅が縮小

財務省が9月16日に公表した貿易統計によると、20年8月の貿易収支は2,483億円の黒字となり、事前の市場予想(QUICK集計:▲200億円、当社予想は67億円)を上回る結果となった。輸出が前年比▲14.8%(7月:同▲19.2%)、輸入が前年比▲20.8%(7月:同▲22.3%)といずれも前月から減少幅が縮小したが、輸入の減少幅が輸出の減少幅を上回ったため、貿易収支は前年に比べ4,005億円の改善となった。

輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比▲14.9%(7月:同▲21.9%)、輸出価格が前年比0.1%(7月:同3.5%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比▲11.6%(7月:同▲14.0%)、輸入価格が前年比▲10.4%(7月:同▲9.7%)であった。
貿易収支の推移/貿易収支(季節調整値)の推移
輸出金額の要因分解/輸入金額の要因分解
原油価格(ドバイと入着ベース)の推移 季節調整済の貿易収支は3,506億円と2ヵ月連続の黒字となり、7月の413億円から黒字幅が拡大した。輸出が前月比5.9%と3ヵ月連続で増加する一方、輸入が前月比0.1%の低い伸びにとどまった。

8月の通関(入着)ベースの原油価格は1バレル=43.4ドル(当研究所による試算値)となり、7月の32.7ドルから上昇した。原油価格(ドバイ)は4月に20ドル台前半(月平均)まで下落した後、足元では40ドル程度まで持ち直している。通関ベースの原油価格は、9月以降も40ドル台で推移することが見込まれる。

2.輸出はコロナ前の9割程度まで回復

20年8月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比▲20.1%(7月:同▲21.5%)、EU向けが前年比▲27.5%(7月:同▲36.7%)、アジア向けが前年比▲7.3%(7月:同▲11.3%)、うち中国向けが前年比7.6%(7月:同8.5%)となった。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移 0年8月の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前月比▲2.8%(7月:同47.6%)、EU向けが前月比9.9%(7月:同▲0.7%)、アジア向けが前月比0.9%(7月:同6.7%)、中国向けが前月比▲1.8%(7月:同7.5%)、全体では前月比12.7%(7月:同3.2%)となった。

8月は米国、中国向けが弱めの動きとなったが、20年7、8月の平均を4-6月期と比較すると、米国向けが36.4%、EU向けが2.7%、アジア向けが3.1%、中国向けが7.0%、全体では9.4%高くなっている。

輸出数量指数(季節調整値)は3月から5月までの3ヵ月で20%以上落ち込んだ後、6~8月の3ヵ月でその約6割を取り戻した。輸出の水準は金額、数量(いずれも季節調整値)ともにコロナ前(20年2月)の9割程度の水準まで回復した。世界的な経済活動の再開を受けて、輸出は最悪期を脱したと判断される。ただし、世界的に新型コロナウィルス感染収束が見えない中で、経済活動の水準が元に戻るまでには時間を要するため、先行きの輸出の回復ペースは急激な落ち込みの後としては緩やかなものにとどまることが予想される。
 
一方、輸入数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、20年7、8月の平均は4-6月期よりも▲5.9%低い。20年4-6月期のGDP統計では、財貨・サービスの輸出が前期比▲18.5%と急速に落ちこむ一方、財貨・サービスの輸入が前期比▲0.5%と小幅な減少にとどまったため、外需寄与度が前期比▲3.0%(年率▲10.9%)と成長率を大きく押し下げた。7-9月期は輸出が急激な落ち込みの後としては物足りないものの高めの伸びとなる一方、輸入の低迷が続くことから、外需が成長率を大きく押し上げることが見込まれる。
 
 

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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2020年09月16日「経済・金融フラッシュ」)

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