2020年08月31日

鉱工業生産20年7月-7-9月期の増産は確実だが、急激な落ち込みの後としては回復ペースが鈍い

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.7月の生産は市場予想を上回る高い伸び

経済産業省が8月31日に公表した鉱工業指数によると、20年7月の鉱工業生産指数は前月比8.0%(6月:同1.9%)と2ヵ月連続で上昇し、事前の市場予想(QUICK集計:前月比5.8%、当社予想は同6.9%)を大きく上回る結果となった。出荷指数は前月比6.0%と2ヵ月連続の上昇、在庫指数は前月比▲1.6%と4ヵ月連続の低下となった。
鉱工業生産・出荷・在庫指数の推移 鉱工業生産は6、7月の2ヵ月で10.0%の高い伸びとなったが、2~5月の落ち込み(累計で▲21.1%)の4割弱を取り戻したにすぎない。また、直近のピークである18年10月と比較すると▲18.0%低い水準にとどまっている。

7月の生産を業種別にみると、国内外の自動車販売の底入れや生産体制の正常化を背景に、自動車が6月の前月比28.6%に続き、同38.5%の高い伸びとなったほか、自動車産業との関連が深い鉄鋼(前月比10.0%)、非鉄金属(同8.2%)も高い伸びとなった。
財別の出荷動向を見ると、設備投資のうち機械投資の一致指標である資本財出荷指数(除く輸送機械)は20年4-6月期の前期比▲8.4%の後、7月は前月比▲0.9%となった。また、建設投資の一致指標である建設財出荷指数は20年4-6月期の前期比▲7.0%の後、7月は前月比0.8%となった。20年7月の水準を4-6月期と比較すると、資本財(除く輸送機械)は0.2%、建設財は0.4%高いが、4-6月期の急激な落ち込みの後としては弱い。
財別の出荷動向 GDP統計の設備投資は20年4-6月期に前期比▲1.5%と2四半期ぶりに減少した。景気はすでに底打ちしているとみられるが、企業収益の悪化や景気の先行き不透明感の高まりを背景に設備投資は7-9月期も減少する可能性が高い。

消費財出荷指数は20年4-6月期の前期比▲15.4%の後、7月は前月比8.7%となった。耐久消費財が前月比24.7%(4-6月期:前期比▲37.8%)、非耐久消費財が前月比0.4%(4-6月期:前期比▲3.3%)となった。

消費関連指標は、緊急事態宣言が5月下旬に解除されたことを受けて6月には明確に持ち直したが、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて再び自粛の動きが強まったことから、7月はやや足踏み状態となった。ただし、4-6月期の水準が極めて低いため、7月の消費水準は4-6月期を大きく上回っている。

GDP統計の民間消費は、20年4-6月期の前期比▲8.2%の後、7-9月期ははっきりとした増加に転じることが予想される(現時点では前期比4.9%を予想)。

2.7-9月期の増産は確実だが、回復ペースは鈍い

製造工業生産予測指数は、20年8月が前月比4.0%、9月が同1.9%となった。生産計画の修正状況を示す実現率(7月)、予測修正率(8月)はそれぞれ▲1.0%、▲0.4%であった。

予測指数を業種別にみると、6、7月に大幅増産となった輸送機械は8月が前月比7.8%、9月が同8.6%と高い伸びが続くものの、勢いは鈍っている。この計画が実現したとしても、直近のピークである20年1月よりも1割以上低い水準にとどまる。最悪期は脱したものの、フル稼働には至らない。
最近の実現率、予測修正率の推移/輸送機械の生産、在庫動向
20年7月の生産指数を8、9月の予測指数で先延ばしすると、20年7-9月期の生産は前期比9.4%(4-6月期:同▲16.9%)となる。国内外の経済活動の再開を背景に2四半期ぶりの増産となることが確実だが、8、9月の生産計画が実現したとしても7-9月期の増産幅は4-6月期の減産幅の4割強にとどまる。急激な落ち込みの後としては回復ペースが鈍い。

世界的に新型コロナウィルス感染症の収束が見えない中で、国内外ともに経済活動の水準が元に戻るまでには時間を要する公算が大きい。生産の回復ペースは急激な落ち込みの後としては緩やかなものにとどまることが予想される。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2020年08月31日「経済・金融フラッシュ」)

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