2020年09月23日

認知症の人の意思決定(2)-後見・保佐・補助 

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任   松澤 登

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1――はじめに

認知症の人の意思決定においては、可能な限り本人の意思が尊重されるべきであり、そのために必要な支援・配慮をすべきことは、基礎研レター「認知症の人の意思決定(1)」で述べた。

このような支援・配慮を行ってもなお、やはり何らかの法的な支援が必要となるケースもある。本人がまったく意思が表示できない場合や、現実に本人の利益に大きな支障が生じている場合などである。

このような場合に民法が用意している制度として、後見、保佐、補助という三つの制度がある。本稿では、これらの制度、およびこれらの制度と金融機関の関係について紹介したい。本稿では、三つの制度を総称して言うときは「成年後見制度」と呼ぶ。

また保佐や補助と区別される「後見」という用語であるが、民法では、未成年者の後見と分けるため成年後見の用語を使うときと、単に後見の用語を使うときがある。煩雑さを避けるため、すべて後見(後見事務を行う人を後見人、後見保護を受ける人を被後見人)で統一する。

なお、任意後見など、判断能力が十分でなくなる前に、本人が準備できる制度については、本稿とは別に解説を行いたい。
 

2――成年後見制度

2――成年後見制度

1|基本的な考え方
上述した「認知症の人の意思決定(1)」で説明した通り、法律上の行為の意味(効果)を判断できない人が行った法律行為は、意思能力なしに行われた行為としてその効果が認められない。法律行為とは契約の申込みといった意思表示のように、法律上の意味を持つ行為のことを言う。ただし、意思能力がないことについては、無効を主張する側が、そのことを主張・立証しなければならない。たとえば、高価な衣類や布団などを、繰り返し店に足を運んで必要量を大幅に超えて買い込んでしまうなどの行為がみられることがあるが、その都度、販売業者に無効を主張・立証するのは、支援をする者の負担が重い1。また、本人にとって不利な契約を結んでしまうが、必ずしもまったく意思能力がないとまでは言えないということも考えられる。

そこで、民法では、精神上の障害2により、判断能力がない、あるいは判断能力が不十分な人の保護のため、特別な制度を用意している。具体的には、判断能力の全くない人や、判断能力の不十分な人の意思表示を第三者が代わって行ったり、本人が行った意思表示を取り消せるようにしたりしている。これが成年後見制度である。成年後見制度により、本人が有効な法律行為を行おうとするときに、第三者が関与する必要のある人のことを制限行為能力者という。
 
1 ただし、訪問販売と電話勧誘販売では事業者がこのような過量販売を行った場合は取り消しができる(特定商取引法第9条の2、第24条の2)。
2 「障害」の用語は民法上のものであり、本稿ではそのまま表記する。
2|民法の用意する三つの制度
民法は、判断能力の程度により三つの制度を用意している。判断能力を常に欠く人のためには後見、判断能力が著しく不十分な人には保佐、判断能力が不十分な人には補助という制度を用意している。判断能力を欠く程度により、後見、保佐、補助のうち、どの制度が適用されるか定まる。後見と保佐・補助のイメージは図表1の通りである。
(図表1)民法の用意する三つの制度
後見では、家庭裁判所が後見人を選任する(民法第843条)。後見人は、本人に代わって意思表示を行う(=代理する)。また、本人が行った、日常生活に必要な行為を除くすべての行為の取消をすることができる(民法第9条)。

保佐でも同様に家庭裁判所が保佐人を選任する(民法第86条の2)。保佐人は元本の受領、借金や遺産分割など民法第13条に定められている行為について、同意を行うこととされている。保佐人の同意がない行為は取消すことができる(民法第13条第4項)。保佐人に代理権は法律上、付与されてはいない。ただし、申し立てに基づいて家庭裁判所が定めた行為については、保佐人は代理することができる(民法第876条の4)。

補助でも同様に家庭裁判所が補助人を選任する(民法第876条の7)。補助人は民法第13条の定める行為のうち、家庭裁判所が定めた行為について、同意を行う。補助人の同意のない行為は取消すことができる(民法第17条第4項)。また、保佐人と同様、家庭裁判所の定めた行為については代理することができる(民法第876条の9)。(図表2)
(図表2)三つの制度の役割
3|三つの制度の相違
上記でみたとおり、判断能力の程度の違いによって適用される制度が異なる。後見は、本人が判断能力を常に欠く状態にあるため、後見人が代理権を行使して法律行為を行うことが前提とされる。言い換えると、本人の意思および本人の心身の状態、生活の状況を尊重・配慮しつつも、後見人がイニシアティブをもって取引を行うことのできる制度である。この点については難しい問題があり、後述する。

保佐および補助では、本人に判断能力が全くないわけではないので、本人が行おうとする行為への保佐人または補助人の同意を要求する制度である。言い換えると、本人がイニシアティブをもって行う法律行為について、保佐人・補助人が同意または取り消すという制度である(図表2)。もっとも上述の通り、保佐や補助についても家庭裁判所への申し立てにより、代理権が付与されるので、これらの制度間でその性格は近づくこととなる。

いずれにしても、本人の意思については、十分な配慮が払わなければならない。
 

3――成年後見の手続き

3――成年後見の手続き

1|後見開始の審判
後見を受けるには、家庭裁判所に審判の申し立てを行う。この申し立ては、本人、4親等以下の親族等の関係者が行う(民法第7条)。家庭裁判所は、明らかに鑑定が不要な場合を除き、医師等を鑑定人として指定して、本人の鑑定を行う(家事事件手続法第119条)。鑑定の結果、支援を受けても契約等の意味・内容を理解し判断することができない状態であると判断される場合には、後見開始の審判を行う。

家庭裁判所は後見開始の審判を行い、後見人を選任する(民法第843条)3。この際に、後見監督人を併せて選任することがある(民法第849条)。実務的には本人の現預金などが1000万円を超える場合や、後見人が専門職の助言を必要とする場合などに選任される。後見監督人はその名の通り、後見人を監督し、助言を行う。

後見開始の審判がなされると、後見人に審判書の謄本が送付される。後見人に審判書が到着した後、2週間で審判は確定する4。後見については法務局に登記され、後見人の立場を証明するものとして、法務局により登記事項証明書が発行される。
 
3 後見人には専門職が就くことが多い。これは親族が行うと利益相反になる場合や本人が嫌がる場合などがあるためとされている。https://www.courts.go.jp/tokyo-f/vc-files/tokyo-f/kouken_report_vol.21.pdf 参照。ただし、弁護士などの専門職後見人が選任された場合は所定の手数料を後見終了時まで支払わなければならない。
4 この2週間は抗告期間で、本人または親族が後見人選任の審判に不服を申し立てられることができる期間である。
2|後見人の職務
後見人は本人の財産とお金の収支を把握し、管理する。具体的には、就任後一か月以内に、財産を調査し、財産目録を作成しなければならない(民法第853条)。あわせて年間収支予定表(民法第861条)、およびこれらの参考となる資料を家庭裁判所に提出する。

後見人の仕事の原則は民法第858条に定められている。すなわち、「後見人は、被後見人(本人)の生活、療養看護および財産の管理に関する事務を行う」。ここで事務とは契約行為などを指し、食事や入浴介護などの事実行為は含まれない(図表3)。また、療養看護の事務も、病院や施設への入院・入所契約は事務に該当するが、どのような治療を受けるか、特に手術への同意は後見人の権限ではないとされている。
(図表3)後見人の職務
そして、後見人がこれらの事務を行うにあたっては、本人の「意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」とされる。

本人は判断能力を常に欠く人ではあるが、その人の望むこと、およびその人の心身・生活への配慮を第一として後見事務を行わなければならない。ただし、往々にして本人の意思と、後見人が考える本人への配慮が相反することがある。その場合、どちらを優先するかは悩ましい問題である。英国では本人意思を優先すべきことが原則とされている。たとえば、本人が酒を飲みたいときに、後見人は飲酒が本人の利益にならないと考えていたとする。この場合、本人の健康に大きな障害が生じるような場合等を除き、本人の意思が原則として優先されることになるとのことである。

療養看護については悩ましい問題がある。上記の通り手術をするかどうか、あるいはどのような治療をするかといった本人の身体や生命に関することを、決定する権限を後見人は持たない。家族に権限があるというわけでもないので、現実には現場の医師が判断せざるを得ない状況も考えられる。この場合でも、あくまで本人の意思を尊重すべきであり、過去の意思表示や、現在、仮に判断能力があったとした場合に推定される本人意思、および本人をよく知る親族の意向などを総合的に判断して、本人意向と考えられるものに従って行うことになる5

本人の財産の管理権限に従って、後見人は財産管理を行うが、投資商品など、リスクをとってまで資産運用を行うことは後見人の権限には含まれないとされている。

後見人は一年ごとに、後見の事務の状況を記載した後見等事務報告書と、被後見人の財産目録を家庭裁判所に提出する。また、被後見人の死亡により後見が終了した場合には、裁判所に死亡連絡をし、財産の清算をして相続人に引き継ぐべく財産を確定し、相続人に引き継ぎを行う。
 
5 英国の意思決定能力法では、特定の治療法を拒否する意思表示が事前にできるとする規定がある(法第24条)。
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保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

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