2020年08月17日

データで確認する新型コロナ感染拡大の背景-グローバル化と都市化がもたらした感染拡大

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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1――はじめに

世界の不確実性が高まっている。佐久間(2020)1では、その要因として、(1)世界の社会・経済・環境などのシステムの脆弱化、ならびに(2)ヒト・モノ・カネ・情報のネットワークの拡大や複雑化の進行を指摘した(図表 1)。その中でも、今回の新型コロナウイルスの世界的かつ急速な感染拡大をもたらしたのは、ヒトのネットワークにおけるグローバル化と都市化である。なぜなら、新型コロナウイルスは飛沫と接触によって感染するので、人々が密集して接触する機会が増えるほど、感染が拡大していくからである。以下では、新型コロナウイルスの感染拡大の背景となったグローバル化と都市化について、データをもとに確かめたい。
図表 1:不確実性の高まる世界
 
1 佐久間誠(2020)「不確実性の高まる世界において。不動産投資を再考する(1)-新型コロナウイルス出現は必然か?感染拡大により顕在化した不確実性」(不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所、2020年5月28日)。また同レポートをまとめたものとして、佐久間誠(2020)「新型コロナが顕在化させた不確実性の高まる世界-想定外の不確実性をもたらす世界の脆弱性とネットワーク化」(基礎研REPORT(冊子版)、ニッセイ基礎研究所、2020年8月7日)がある。
なお、本稿は「不確実性の高まる世界において。不動産投資を再考する」と題したシリーズの第5弾である。
 

2――ヒトのネットワークのグローバル化がもたらした国際間の感染拡大

2――ヒトのネットワークのグローバル化がもたらした国際間の感染拡大

国際間の人の移動は、航路を始めとした交通網の急速な発達と好調な経済を背景に活発化した。2019年の世界の国際観光客到着数は14.6憶人と、2000年から2.1倍になった(図表 2)。特に中国を中心にアジア諸国の中間所得層が増加したことにより、地域別に見ると、国際観光客到着数はアジア太平洋地域3.3倍>アフリカ2.6倍>中東2.5倍>欧州1.9倍>米州1.7倍となった。
図表 2:世界の国際観光客到着数の変化率(2000 年から2019 年)
日本においては、2019年の訪日外客数は3,188万人と、2000年から6.7倍に増加した(図表 3左図)2。そのうち中国、韓国、台湾、香港の寄与度は全体の73%を占め、中でも牽引役となったのが27倍に増加した中国である(図表 3右図)。
図表 3:訪日外客数と出国日本人数の変化率(2000 年から2019 年)
石(2018)によれば、今後、世界を巻き込んだパンデミックの震源地となると予想されていたのが、中国とアフリカである。また、中国とアフリカは経済的な結びつきを強めているため、アフリカの感染症は中国に持ち込まれやすい3。国際間の人の往来が増えたことで、中国が国内での感染封じ込めに失敗すると、同国を起点もしくは経由して、グローバルに感染症が広がりやすくなっている。
 
2 2019年の出国日本人数は2,008万人と2000年から13%の増加にとどまっている。2000年以降の日本におけるヒトのネットワークは、アウトバウンドではなくインバウンド観光客の増加によって拡大した。
3 石弘之(2018)『感染症の世界史』、KADOKAWA
 

3――ヒトのネットワークにおける都市化がもたらした国内の感染拡大

3――ヒトのネットワークにおける都市化がもたらした国内の感染拡大

産業のサービス化などを背景に世界で急速に都市化が進んでいる。国際連合によれば、2018年の世界の都市化率は55.3%となり、半数以上の人々が都市に住むようになった。2000年から2018年にかけて、都市人口は+47%増加した一方、農村人口は+4%の増加にとどまっている(図表 4左図)。また、都市圏の人口規模別の人口変化率を確認すると、メガシティと呼ばれる人口1000万人以上の都市圏の人口が+116%の増加(2.1倍)となり、2000年には16都市しかなかったメガシティが2018年には33都市へと倍増した(図表 4右図)。
図表 4:世界の都市と農村の人口変化率(2000 年から2018 年)
日本においては、2000年から2020年にかけて人口が▲1%減少するなか、東京都の人口は+16%増加した(図表 5左図)。東京都における人口変化率は、大きい順に、23区+20%>市部+10%>郡部▲7%>島部▲20%となっている。さらに、東京23区の人口変化率を確認すると、伸び率の上位3区は大きい順に、中央区+141%>千代田区+86%>港区+68%と、マンションの供給や共働き世帯の増加などを背景に、都心部の人口増加が顕著である(図表 5右図)。都市化が進展したことで、一度感染が発生すると、都市部を中心に国内でも感染が拡大しやすくなっている。
図表 5:日本と東京の人口変化率(2000 年から2020 年)

4――おわりに

4――おわりに

新型コロナウイルスの感染拡大をもたらしたのは、中国を中心としたアジアの国際観光客の増加と産業構造の変化などに伴う都市化であり、いずれもコロナ前から続く長期トレンドである。新型コロナにより、グローバル化や都市化が転換するのではないかといったニューノーマルを予想する声がある。同様に、2001年の米国同時多発テロでは高層オフィスビルの需要減退や飛行機利用が減少するのではないか、2011年の東日本大震災では東京の湾岸マンションの需要が減少するのではないか、といったニューノーマルを予想する声が聞かれた。しかし、実際はこうした予想に反する結果となった。これらの予想が長期トレンドに逆らうものであったことが、ニューノーマルとして現実化しなかった一因であろう。今回も、グローバル化や都市化といった長期トレンドの転換を予想するニューノーマルについては、特に慎重に見極める必要がある。

グローバル化と都市化の長期トレンドが早期に逆回転することがなければ、今後、感染症のパンデミックが数年または10年といったサイクルで定期的に繰り返し発生する可能性がある。新型コロナウイルス感染症が終息に向かったとしても、次のパンデミックへの中長期的な懸念が依然として残る。金融市場や不動産市場においても、中長期的に感染症の不確実性に向き合っていくことが現実として求められるのではないだろうか。
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2020年08月17日「不動産投資レポート」)

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