2020年06月29日

米個人所得・消費支出(20年5月)-現金給付の減少で所得は前月比▲4.2%となった一方、消費支出は同+8.2%の大幅増に転換

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:個人所得は市場予想を上回る一方、個人消費は前月から増加も予想は下回る

6月26日、米商務省の経済分析局(BEA)は5月の個人所得・消費支出統計を公表した。個人所得(名目値)は前月比▲4.2%(前月改定値:+10.8%)と+10.5%から小幅に上方修正された前月から大幅な減少に転じた一方、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の▲6.0%は上回った(図表1)。個人消費支出は前月比+8.2%(前月改定値:▲12.6%)と、▲13.6%から上方修正された前月から大幅な増加に転じた一方、市場予想(+9.3%)は下回った。また、価格変動の影響を除いた実質個人消費支出(前月比)も+8.1%(前月改定値:▲12.2%)と、▲13.2%から上方修正された前月から大幅な増加に転じたものの、市場予想(+8.7%)は下回った(図表5)。貯蓄率1は23.2%(前月:32.2%)と、前月から▲9.0%ポイント低下した。

価格指数は、総合指数が前月比+0.1%(前月:▲0.5%)と前月からプラスに転じ、市場予想(横ばい)を上回った。また、変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数も+0.1%(前月:▲0.4%)とこちらも前月からプラスに転じ、市場予想(横ばい)を上回った(図表6)。前年同月比では、総合指数が+0.5%(前月改定値:+0.6%)と+0.5%から上方修正された前月を下回った一方、市場予想(+0.5%)に一致した。コア指数は+1.0%(前月:+1.0%)と前月に一致、市場予想(+0.9%)を上回った(図表7)。
 
1 可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率。

2.結果の評価:経済活動の再開で消費は回復

(図表1)個人所得・消費支出、貯蓄率 5月は、後述するように連邦政府からの現金給付額が前月から減少したことから、個人所得が減少に転じたものの、個人消費は外出制限の緩和など段階的に経済活動が再開されたことを反映して、前月の2桁の落ち込みから増加に転じた(図表1)。また、貯蓄率も1959年の統計開始以来最高となった前月から低下した。もっとも、貯蓄率は依然として20%超の異常に高い水準を維持しており、所得対比で消費余力を残している。

6月以降も個人消費の回復基調が継続するかは新型コロナの感染動向が鍵を握っている。足元で経済活動を早期に再開した南部や西部の州で感染者数が大幅に増加しており、一部経済活動の再開を見直す動きもでている。このような動きが広がれば、雇用や消費の回復に水を差されよう。

一方、FRBが物価指標としているPCE価格指数(前年同月比)は、総合指数、コア指数ともにFRBの物価目標(2%)を大幅に下回っているほか、総合指数が15年12月(同+0.4%)以来、コア指数は11年1月(同+1.0%)以来の水準に低下している。また、先日発表されたFRBの物価見通しでも22年末が+1.7%と、物価目標を下回る水準に留まるとの見方が示されており、物価目標の達成時期が非常に不透明となっている。

3.所得動向:現金給付の支給減少で、移転所得が大幅減少

個人所得は前月から減少したが、政府による社会保障関連の補助金などの移転所得が前月比▲17.2%(前月:+90.1%)と大幅に減少したことが大きい(図表2)。実際に、金額ベースで移転所得は前月比年率で▲1.1兆ドル(前月:+3.0兆ドル)の大幅な減少となったが、1人最大1,200ドルなどの現金給付支給額は4月から減少し、これらを含む移転所得の「その他」は同▲2.0兆ドル減少した。もっとも、移転所得のうち「失業保険給付」は同+0.8兆ドル増加し、減少を一部相殺したようだ。

一方、賃金・給与は前月比+2.7%(前月:▲7.6%)と前月の大幅な減少から増加に転じた。これは、雇用者数が5月に増加したことを反映する結果と言えよう。
個人所得から税負担などを除いた可処分所得(前月比)は、5月が▲4.9%(前月:+13.1%)となったほか、価格変動の影響を除いた実質ベースも▲5.0%(前月:+13.6%)となった(図表3)。いずれも1959年の統計開始以来最大の伸びとなった前月から大幅な減少に転じた。
(図表2)名目個人所得(前月比寄与度)/(図表3)可処分所得(名目、実質)

4.消費動向:財、サービスともに前月比で統計開始以来最大の伸び

5月の名目個人消費(前月比)は、財消費が+14.1%(前月:▲13.5%)、サービス消費が+5.4%(前月:▲12.2%)と前月の反動もあって、いずれも統計開始以来最大の伸びとなった(図表4)。財消費では、耐久財が+28.6%(前月:▲12.4%)、非耐久財も+7.7%(前月:▲14.0%)と前月の2桁の減少から増加に転じ、いずれも統計開始以来最大の伸びとなった。

耐久財では、自動車・自動車部品が+38.2%(前月:▲9.8%)となったほか、家具・家電が+23.4%(前月:▲13.9%)、娯楽財・スポーツカーが+24.0%(前月:▲4.0%)と2桁の増加となった。

非耐久財では、衣料・靴が+40.1%(前月:▲28.6%)、ガソリン・エネルギーが+19.4%(前月:▲38.1%)、食料・飲料も+3.2%(前月:▲12.2%)といずれも前月から増加に転じた。

サービス消費は、住宅・公共料金が横ばい(前月+1.4%)となった一方、外食・宿泊が+24.8%(前月:▲35.4%)、医療サービスが+23.8%(前月:▲27.3%)、輸送サービスが+20.6%(前月:▲33.0%)、娯楽が+5.2%(前月:▲42.4%)と前月から増加に転じた。
(図表4)名目個人消費(前月比寄与度)/(図表5)個人消費支出(名目、実質)

5.価格指数:エネルギー価格は前年同月比で物価押し下げ幅が拡大

価格指数(前月比)の内訳をみると、エネルギー価格指数が▲1.7%(前月:▲9.2%)と押し下げ幅は縮小したものの、5ヵ月連続で物価押し下げとなった(図表6)。食料品価格指数は+0.8%(前月:+2.4%)とこちらはエネルギー価格とは対照的に5ヵ月連続で物価押し上げとなった。

前年同月比では、エネルギー価格指数が▲18.5%(前月:▲17.6%)と3ヵ月連続で物価押し下げとなったほか、前月から押し下げ幅が拡大した(図表7)。これは15年10月(同▲18.6%)以来の水準である。一方、食料品価格指数は+4.5%(前月:+3.9%)とこちらは17年7月以来35ヵ月連続のプラスとなったほか、12年2月(同+4.1%)以来のプラス幅となった。
(図表6)PCE価格指数(前月比)/(図表7)PCE価格指数(前年同月比)
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年06月29日「経済・金融フラッシュ」)

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