コラム
2020年06月23日

新型コロナ 第2波襲来の脅威-第1波を上回る大波は来るのか? 

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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新型コロナウイルスの感染拡大が始まって、すでに数か月が経過した。

世界では、死亡者数で、アメリカが11万人、ブラジル、イギリスが4万人に達している。感染者数では、アメリカが224万人、ブラジルが106万人、ロシアが59万人を超えている。今後はアフリカの紛争地など、医療体制が脆弱な地域での感染爆発が懸念されている。

世界全体で感染者は886万331人、死亡者は46万5740人。日本の感染者は1万7916人、死亡者は953人(横浜港に停留したクルーズ船を含まない)に達している(6月22日現在/世界保健機関(WHO)調べ)。

日本では、緊急事態宣言が5月25日に全面解除された。感染症の状況を把握したうえでウイルスとの共存・共生を図る、「ウィズコロナ」をどのように確立するのか、その模索が始まっている。
 
ここで、気がかりなのは、再び感染拡大を引き起こす「第2波」が本当にやって来るのかということだろう。もちろん新薬やワクチンの開発など、第2波への備えは着実に進められている。

しかし、緊急事態宣言解除後に、クラスターとみられる複数の新規感染者の発生が確認されており、第2波への懸念が高まっているのも事実だ。

では、第2波はどのように襲来する可能性があるのか。過去の事例などをもとに、考えてみたい。

なお、過去の事例については、つぎのレポートなどを参考にすることとしたい。

“Reviewing the History of Pandemic Influenza: Understanding Patterns of Emergence and Transmission”Patrick R. Saunders-Hastings and Daniel Krewski (Pathogens v.5(4), 2016 Dec,  https://www.mdpi.com/2076-0817/5/4/66 )

◆20世紀のパンデミックは「第2波」の被害が甚大だった

感染症の過去の拡大事例として参考になるのは、インフルエンザのパンデミックだ。コロナウイルスとインフルエンザウイルスはいずれも、肺炎を引き起こすRNAウイルスで、変異が起きやすいとされる。どちらも飛沫感染と接触感染を主な感染経路としている。

ウイルスの感染開始時に免疫を持っている人がおらず、世界中に急速に感染が拡大した点も類似している。さらに、不顕性感染者(症状がまったく認められない感染者)からの感染が起こるとされる点も共通している。

インフルエンザのパンデミックは20世紀に3回、21世紀に1回発生している。これらのパンデミックを振り返ってみよう。

【スペイン・インフルエンザ】
1918年3月にアメリカで流行が始まった。世界のすべての地域で感染拡大の時期や波の回数が同じだったというわけではないが、大きくは1918年の春に第1波、秋に第2波、冬から翌年にかけて第3波と、3つの波が襲来した。このうち、第2波がもっとも大きく、世界中に破滅的な大惨事をもたらしたといわれている。

【アジア・インフルエンザ】
1957年に、世界中に感染が拡大した。1957年の春に第1波、11月以降に第2波がやって来た。このときも、第2波のほうが大きな被害をもたらした。感染の2つの波の間にあたる夏季にも、人々の間で感染はあったと考えられるが、その拡大は限定的だった。秋の学校再開とともに、感染が拡大したとみられている。

【香港・インフルエンザ】
1968年に、感染の拡大が始まった。1968年~1969年の第1波と、1969年~1970年の第2波が起こった。注目されるのは、地域によって第1波と第2波の被害が異なる点だ。アメリカとカナダでは、死亡者の大半が第1波で発生した。一方、ヨーロッパ、アジア諸国では、死亡者の多くは第2波で発生した。2つの波の間に抗原連続変異と呼ばれるウイルスの小さな変異が発生して、地域ごとに感染率が異なったことが原因との見方が出ている。

◆新型インフルエンザは国によって感染の波に違い

それでは、2009年にパンデミックとなった【新型インフルエンザ】ではどうだったか。じつは、このときは国によって感染の波に違いがみられた。

感染が始まったメキシコでは、2009年の春、夏、秋の3回の波が到来した。波の回を重ねるごとに、被害の規模は大きくなっていった。

もう1つの感染開始の国であるアメリカでは、2つの感染の波がやって来た。6月に感染がピークを迎えた後、徐々に減少した。しかし、9月に入るころ、再び増勢に転じた。10月後半の第2波のピーク時には、第1波のピークを2倍以上も上回る新規感染者を出した。

ヨーロッパ諸国でも、アメリカと同様、春から夏にかけての穏やかな第1波の後、秋にそれを上回る被害をもたらす第2波が襲来するというパターンがみられた。

アジアではどうだったか。インドでは、2009年9月、12月、2010年8月と3回の波があった。感染者数は2009年、死亡者数は2010年が多かった。特に、3回目の波は、WHOが、パンデミック宣言を解除した後に起こったもので、インドではまだ感染拡大が進んでいた。その後、2015年にも感染拡大が起こり、多くの感染者と死亡者が出た。

中国では、新型インフルエンザの感染の波は、2009年11月をピークとする1回しか起こらなかった。現在の新型コロナへの対策でみられているような、強力な入国管理を徹底したことが、第2波の襲来を防いだと考えられている。

日本では、どうだったか? 日本も2009年11月をピークとする1回の波だけだった。新型インフルエンザの死亡者数が少なく、世界から「日本の奇跡」と言われた。その背景として、公的医療保険制度の確立、公衆衛生の徹底、入浴や箸を使った食事等の清潔な生活習慣など、さまざまな要因があったと研究者の間で指摘されている。

◆新型コロナ感染の「3つのシナリオ」

現在、新型コロナでは、感染が落ち着いた国で外出禁止などの規制を緩和する動きが進んでいる。日本でも緊急事態宣言が全面解除され、外出自粛要請が取り下げられている。

一方、世界の疫学や公衆衛生学の専門家の間では、第2波の襲来を確実視する見方が広まっている。そして、第2波の大きさがどれくらいになるかが注目されている。

4月末に、アメリカのミネソタ大学感染症研究政策センターは、新型コロナの今後の流行に関する報告書を公表した。その中で、インフルエンザのパンデミックデータをもとに、3つのシナリオを示している。その内容をみてみよう。
感染の3つのシナリオ(イメージ)
【シナリオ1】小波の連続
現在の第1波の後に、少し小さな第2波がやって来る。その後1~2年、こうした波が繰り返しやって来て、やがて小さくなっていくという。
 
【シナリオ2】第1波を上回る第2波の襲来
スペイン・インフルエンザやアジア・インフルエンザのように、2020年秋から冬に、より大きな第2波が襲来するという。そして、2021年以降も小さな波がやって来るというものだ。
 
【シナリオ3】明確な波が起こらない
2020年夏に第1波が収まった後、明らかな波は起こらずに、感染は徐々に小さくなっていく。各地域で感染の拡大と収束を繰り返しながら、流行が続いていくという。
 
報告書によると、これらの3つのシナリオのどれになるかは見通せない。少なくとも1年半から2年間は、ウイルスの動向に備えなくてはならない。パンデミックが弱まってくると、他のコロナウイルスによる季節性の感染症と同期してくるだろう──とのことだ。
 
3つの予測のうち、【シナリオ2】は何としても避けたいところだ。スペイン・インフルエンザのような、第1波を上回る第2波の襲来は、再生に向かう生活や社会経済活動の歩みを止めてしまう。

何回も小波が来る【シナリオ1】も、あまり好ましくない。感染の波が来るごとに、生活や社会経済活動に制限がかかってしまうからだ。

できることなら、第1波のあとに明らかな波が起こらずに、感染が徐々に小さくなる【シナリオ3】が望ましいだろう。そのためには、これまで同様「3密を避ける」「こまめに石鹸で手を洗う」といった1人ひとりの行動がどこまで継続できるかもカギになる。
 
4月に、緊急事態宣言に至った第1波の状況を、少し思い起こしてみよう。このときは、3月以降、全国各地でクラスターが発生していた。今後、第2波が襲来する場合も、まずあちこちでクラスターが起こり、それが大きな流行につながっていくというパターンが考えられる。
 
新型インフルエンザに続いて、今回の新型コロナでも、「日本の奇跡」が再現できるかどうか、これからが正念場と言えそうだが、いかがだろうか。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2020年06月23日「研究員の眼」)

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