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韓国、新型コロナ第2波の懸念高まる-韓国を「反面教師」に「気の緩み」に注意し、感染拡大の防止を-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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新型コロナウイルス再発の大きな原因は「気の緩み」
今回、梨泰院のクラブや富川の物流センターで起きた集団感染の大きな原因は「気の緩み」である。
まず梨泰院のクラブのケースであるが、クラブやカラオケでは3密が起きやすく、換気や消毒、個人間の距離の確保など感染防止対策を徹底しないと集団感染の危険性が高い。しかしながら、今回、集団感染が起きた複数のクラブでは、「気の緩み」から、マスクの着用や個人間の距離の確保など感染防止対策が講じられなかった。梨泰院のクラブ発の集団感染のスーパー・スプレッダーになった20代男性も、マスクを使わずにクラブを利用したことが確認された。さらに、約5500人のクラブ利用者のうち2000人ほどが虚偽の連絡先を記載したため、現在も連絡がとれず多くの利用者に対する検査が行われていない状況である。韓国政府は、人々の移動やビジネス活動に対する厳しい制限をせず、徹底的に検査を行い感染者を発見・隔離することで、感染の拡大を抑えてきた。そのために、感染者のスマートフォンやクレジットカードの使用履歴、監視カメラなどの情報が利用された。しかしながら、今回、集団感染が発生した梨泰院のクラブの一部が同性愛者向けの店であると知られたことから、店を利用した人たちが身を隠し、自主的に検査を受けておらず、防疫当局に混迷を与えている。韓国では性的マイノリティーに対する見方がかなり否定的であるので、該当クラブを利用したことにより、同性愛者であるとの差別や非難の標的になりやすい。主にその理由により、利用者の多くが防疫当局の調査に協力していない。
一方、富川の物流センターのケースでは、同じく「気の緩み」から、感染防止対策をおろそかにしたことが集団感染の原因となった。日本と同様に韓国でも、新型コロナウイルスへの感染防止のために、外出の自粛や在宅勤務が奨励された。その影響でインターネットショッピングの利用者は増え、物流センターの業務量は急増し、物流センターは人手不足を解消するために、パートやアルバイトを増やした。その結果、現場は3密が起きやすい環境へとリスクが高まっていった。しかしながら、感染防止対策は不徹底であり、従業員がマスクを着用しなくても管理者は注意をせず、食堂でも密接した状態で食事がとられていた。粗末な感染防止対策に加え、人々の間にも「気の緩み」が発生していたのである。
なぜ「気の緩み」が起きたのだろうか?
ユ・ウンヘ社会副首相兼教育部長官は、5月4日にブリーフィングを行い、5月6日から防疫レベルをこれまでの「社会的距離の確保」から「生活防疫」に切り替え、行動制限を緩和することを明らかにした。また、高校3年生は5月13日から登校を始め、他の学年は20日から1週間おきに3段階にわたって登校を許可すると発表した。韓国政府は「K防疫」の成果を海外に発信し続け、韓国国内では、新型コロナウイルスを乗り越えたという達成感と安堵感が広がった。
韓国政府が防疫レベルを「社会的距離の確保」から「生活防疫」に切り替えることを決定した理由としては、4月5日から4月18日の2週間に比べて、4月19日から5月2日までの2週間に、(1)1日の平均新規感染者数が35.5人から9.1人に減少したこと(2)集団感染の発生件数が4件と比較対象の2週間と変化がなかったこと(3)感染経路が不明な感染者の割合が3.6%から5.5%と大きな変化がなく安定していたこと(4)防疫網の中での管理比率(新規感染者のうち自己隔離状態で感染した人の割合) を80%以上に維持したことが挙げられる。
そこで、韓国政府は防疫レベルを「生活防疫」に切り替える基準として、1日の平均新規感染者数50人未満、感染経路が不明な感染者数5%未満、集団感染の数と規模の大きさ、防疫網の中での管理比率80%以上維持を目標として設定した。また、「生活防疫」のガイドラインの基本原則として、(1)体調が悪いときは3~4日間自宅で過ごす(2)人との距離は、両手間隔の距離を置く(3)30秒間手をしっかり洗う、咳は袖で(4)1日2回以上の換気と定期的な消毒を実施する(5)距離は離れても心は近くに、を国民に周知した。しかしながら、皮肉なことに防衛レベルを「生活防疫」に転換した5月6日の当日に梨泰院のクラブでの初の感染者が発見され、感染が広がり始めた。また、5月末には富川の物流センターで集団感染が発生し、一時は0人であった国内の新規感染者数が、5月28日には79人まで増加した。これは、制限緩和の基準とした「1日50人」の感染者数を上回る数値である。政府が対策を緩和することにより「気の緩み」が広がったと言える。
韓国政府、「行動制限」の再実施を発表
「気の緩み」以外にもう一つ注意しなければならないのが、宗教団体を中心とした集会の再開である。実際、最近では宗教団体、特に教会を中心に集団感染による感染者が続出している。防疫レベルを「生活防疫」に切り替えてから、多くの教会が礼拝場所をYoutubeなどのオンラインからチャペルなどのオフラインに戻したことが、感染拡大に繋がっている。今後、感染拡大を防ぐためには、約1356万人に達するキリスト教(プロテスタント+カトリック)の信者(宗教を持っている人口の約63%)や教会等に対する感染防止対策が綿密に実施される必要がある。
1 このレポートはニューズウィーク日本版ウェブサイトhttps://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2020/06/2-1.phpにも掲載しています。
(2020年06月05日「研究員の眼」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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