- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 社会保障制度 >
- アジアの社会保障制度 >
- 日本が韓国の新型コロナウイルス対策から学べること──(2)マスク対策
日本が韓国の新型コロナウイルス対策から学べること──(2)マスク対策

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
マスク不足は日本だけの問題ではない。新型コロナウイルスの感染が拡大すると、平素はマスクを着用しないアメリカやヨーロッパでもマスクを着用する人が増えはじめるなど、全世界的にマスクに対する需要は急増している。2月中旬に感染がピークであった韓国でもマスク不足が深刻であった。特に、医療現場のマスク不足が懸念された。韓国政府は1月30日時点で1日平均659万枚であった韓国国内のマスク生産量を増やすために2月12日に「緊急需給調整措置」を行った。その結果、マスクを生産する企業数は2月3日以前の123カ所から3月1日には140カ所まで増え、1日平均約1,000万枚のマスクが韓国国内で生産されることになった。これは国民の5分の1が1日に使用できる量である。しかしながら生産量が増えたにもかかわらず、マスクの品薄状態は続き、韓国は「マスク大乱」の危機に瀕した。需要が急増したこともその要因ではあるが、生産されたマスクの約90%が公式・非公式ルートにより中国に搬出されたからである。
マスクが買えないことに対する国民の不満が爆発寸前に至ると、韓国政府は2月26日から保健用マスクの輸出を制限したことに加え、3月6日からは保健用マスクの海外輸出を原則的に禁止する措置を実施した。さらに、3月9日からは国民1人あたりのマスク購入量を1週間に2枚まで制限する「マスク5部制」を実施した(出生年度(生まれた年の末尾)によって指定曜日に一定数のマスクが購入できる制度)。マスクの購入を希望する人は、自分に該当する曜日に薬局などを訪ねてマスクを購入し、薬局は重複購入を防ぐために購入履歴をオンラインシステムに記録する。療養施設や病院の入院患者の場合は病院などの関係者が、高校生までは親が、代理でマスクを購買することが可能である。
「住民登録番号」とは、朴正熙政権時代に北朝鮮からのスパイを選び出す目的で作られ、13桁の番号で構成されている個人を識別するための番号である。出生の届けと同時に個人番号が与えられ、満17歳になると個人のIDカードとも言える「住民登録証」が発給される。韓国では運転免許証と同時に個人の身分を証明する際に使われる。今回もマスクを購入する際に、本人確認用として使われた。
一方、「医薬品安全使用サービス(DUR:Drug Utilization Review)システム、以下DURシステム」とは、医薬品の重複処方による副作用を防止するために、医薬品の処方、調剤など医薬品の使用に関する情報をリアルタイムで提供するシステムで、24時間365日体制で運営される。医者は患者の処方情報を健康保険審査評価のDURシステムに入力・転送し、医薬品の濫用や重複調剤有無を確認する。患者の情報を入力してから結果が出るまで、かかる時間はわずか0.5秒で、ほぼリアルタイムで患者の情報が確認できる。韓国政府は最初、このDURシステムをマスクの重複購買防止に活用しようとしたものの、マスクが医薬品ではないことと、マスクの購入履歴管理によりシステムにトラブルが発生した場合、医薬品の事前点検システムが停止してしまう恐れがあることを考慮し、DURシステムを応用して作った療養期間業務ポータルの「マスク重複購買確認システム」を利用することを決めた。このシステムが稼働されたことにより公的マスクを販売する全国の薬局、郵便局、ハナロマート(農協のスーパーマーケット)でマスクの重複購買に対するチェックが可能になった。
1 このレポートはニューズウィーク日本版ウェブサイトhttps://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2020/04/2.php)にも掲載されたものです。
(2020年04月13日「研究員の眼」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/18 | グリーン車から考える日本の格差-より多くの人が快適さを享受できる社会へ- | 金 明中 | 研究員の眼 |
2025/03/17 | 「共に民主党」の李在明代表の大統領の夢はどうなるのか?-尹錫悦大統領の釈放で政局は不透明な状況へと突入- | 金 明中 | 研究員の眼 |
2025/03/10 | なぜ退職代行サービスの利用が増えているのか?-退職時に会社へ伝えた理由と、実際の退職理由との間のギャップの解消を- | 金 明中 | 研究員の眼 |
2025/02/27 | なぜ韓国の出生率は9年ぶりに上昇したのか?-2024年の出生率は0.75に上昇- | 金 明中 | 基礎研レポート |
新着記事
-
2025年03月18日
長期投資の対象、何が良いのか-S&P500、ナスダック100、先進国株式型で良かった -
2025年03月18日
中国で求められる、働きやすく、子育てしやすい社会の整備【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(68) -
2025年03月18日
グリーン車から考える日本の格差-より多くの人が快適さを享受できる社会へ- -
2025年03月18日
気候変動:アクチュアリースキルの活用-「プラネタリー・ソルベンシー」の枠組みに根差したリスク管理とは? -
2025年03月18日
EUがIRRD(保険再建・破綻処理指令)を最終化-業界団体は負担の軽減とルールの明確化等を要求-
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【日本が韓国の新型コロナウイルス対策から学べること──(2)マスク対策】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
日本が韓国の新型コロナウイルス対策から学べること──(2)マスク対策のレポート Topへ