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新型コロナ対策で日韓が再対立-ともにこの危機を乗り越えよう!-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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韓国政府はこのような日本政府の措置に対して、6日、「日本の措置は非友好的で非科学的だ」などと批判した上で、対抗措置として、9日から日本人に認めている90日以内のビザ免除措置を中止し、発効済みのビザの効力も停止すると発表した。日韓両国のこのような措置により、暫くの間、休戦状態であった日韓対立は再点火されることになった。
日韓政府の今回の措置により、日韓両国の経済協力や民間交流はさらに難しくなった。最近、日韓関係が悪化されたことにより、日韓の間の輸出入額は2018年の851億ドルから2019年には760億ドルまで急減した。9日から韓国からの航空便は成田空港と関西空港の2つの空港のみに制限されることにより、一時は「ドル箱」と呼ばれていた日韓路線は大きく減少し、毎日の運航は、大韓航空の「仁川~成田~ホノルル線」の1往復、チェジュ航空の「仁川~成田線」の1往復と、「仁川~関西線」の1往復だけになった。アジアナ航空は1990年の運航以降30年ぶりに日韓路線を中断した。
新型コロナウイルスが日韓経済に与えるマイナス影響は大きい。韓国政府が4段階に分類される感染症に関する危機警戒レベルを2段階の「注意」に引き上げた1月20日に2,262であった韓国総合株価指数(KOSPI)は、3月9日には1,954まで下落した。同期間の日経平均株価も24,083から19,698まで下落しており、下落幅は韓国より大きい。今後、検査数の増加により、感染者数が増加すると株価にさらなるマイナスの影響が出る可能性が高い。
保守系の朝鮮日報は、「日本の措置を非難しながらも、中国の顔色をうかがおうと韓国だけが防疫の扉を開け放っていた結果、韓国だけが全世界で孤立させられている。」と韓国政府の対策を非難した。
日本では、朝日新聞は、「またも唐突な方針転換である。その必要性や効果について、納得のいく説明もない。「国民の不安感の解消」を目的に掲げながら、これではかえって混乱を助長しかねない。」と日本政府の措置を非難した。
一方、読売新聞は、韓国政府の対応について「政権が日本政府による入国制限に対抗措置を取ることを決めたのは、新型コロナウイルスの感染拡大で政権が逆風を浴びる中、日本に強い態度を見せなければ一層批判が高まり、4月の総選挙に響きかねないと判断したためとみられる。」と意見を述べた。
日韓関係の改善を求める筆者にとって、今回の日韓政府の措置にはいくつかの疑問点がある。まず、日本政府に対しては、なぜ新規感染者の1日の増加数がピーク(2月29日)を過ぎた時点で入国制限の強化を発表したのかを聞きたい。一方、韓国政府に対しては、なぜ日本政府の措置に対してそこまで感情的に対応したのか、また、なぜ韓国人を強制的に隔離している中国の地方政府や日本以外の他の国には大きな反発をしなかったのかなどを疑問に感じる。また、入国制限措置を発表する前に、日本と韓国政府の間に公式チャンネルまたは非公式チャネルによる事前協議があったのかなかったのかも聞きたい。事前協議に関しては日韓政府が異なる主張をしており、発表内容に食い違いが発生している。
日韓における新型コロナウイルスの感染はまだ進行形である。韓国における新規感染者の1日の増加数は、2月29日の909人をピークに減少し始めているものの、まだ1日の増加数は100人を超えている状況にある。一方、日本では検査数が増加することにより北海道を中心に新規感染者数が増加している。日韓のデータを見ながら一つ分かったのは、新型コロナウイルスの検査を受けた人に占める感染者の割合が韓国より日本が高いことである。実際、日本における3月8日時点のPCR検査実施人数は8,176人で、このうち408人の感染が確認された(クルーズ船を除いた結果)。一方、韓国では3月9日0時時点で196,618人に対する検査が行われ、7,478人の感染が確認された。検査者に占める感染者の割合は日本が4.99%で韓国の3.80%を上回る。さらに、クルーズ船を含めると日本の割合は9.29%まで上昇する。なぜ、このような結果が出ただろうか。検査方法の違いによるものなのか、検査の精度の違いによるものなのか。この点は筆者の専門分野を超えているので、専門家に今後の分析をお願いしたい。
但し、問題は検査を受けた人が増えると、その分感染者数も増加するので、これに対する対策が必要である。この点は幅広く検査を行い、感染者数が増加した韓国の対策を参考することはどうだろうか。今回のコロナ問題のような未曽有の危機に対しては、日本と韓国が、積極的に情報交換を行って対処していくべきではないか。もちろん、韓国の対策がすべて正しいとは言えないので、韓国の成功事例や失敗事例をよく研究し、日本の今後の対策に活用していくことが、有効性を高め時間や費用の節約にも役に立つと考えられる。今後、新型コロナウイルスが日韓関係の悪化の火種にならず、日韓関係改善の糸口になることを願うところである。ともにこの危機を乗り越えよう!
(2020年03月10日「研究員の眼」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
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