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- EU、Googleへの調査開始-Google検索についてDMA違反の可能性
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コラム
2025年11月19日
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要旨
- 欧州委員会はGoogleの検索結果表示における対応方針について調査を開始した。
- 調査対象となったGoogleの対応方針は商品紹介などを含むウェブサイトの表示順位をほかよりも劣位に取り扱うというものである。
- このような取扱いが、Digital Markets Actの定める差別的取扱いに違反しないかが今後審査される。
2025年11月13日、Googleが特定のサイトを意図的に検索結果の下位に配置している可能性があるとして、このことがDigital Markets Act(デジタル市場法、以下「DMA」)違反に該当するかどうかについて調査開始することを欧州委員会は公表した1。
Googleが導入しているサイト評価濫用対応方針(site reputation abuse policy)では、Googleは、商業パートナー(commercial partners)が提供する商品紹介等のコンテンツを含むニュースサイトなど、いわゆる“媒体社”のページを検索結果で下位に配置(demote)する方針を導入している。Googleはこの取り扱いを検索結果の不当な操作に対処するためのものと主張している。
欧州委員会はこの対応方針、および検索結果での実際の具体的取扱いが、媒体社が合法的な事業活動を行うこと、イノベーションを図ること、および第三者と協調する自由を阻害していないかについて調査することとした。
DMAについて簡単に解説すると、先のレポートで解説した通り2、欧州域内での“contestability(競争機会の確保)”を目的とした規則である。日本の独占禁止法に該当するEU機能条約101条、102条で禁止される私的独占行為などを、事前に防止するための規則として制定されている。本規則は各国での立法等を必要とせず、EU域内に直接適用されている。Google検索は2023年9月6日に欧州委員会からDMA適用対象プラットフォームとして指定され、2024年3月7日以降、DMAの全面適用を受けている。
そして、本事案に関してはDMA6条5項と6条12項の適用の是非が調査される。
DMA6条5項は、指定プラットフォームを運営する提供者(これをDMA上、Gatekeeper(以下、「GK」)と呼ぶ)が、「GK自身によって提供されるサービスや製品に関するランキングと、それに関連するウェブサイト索引付与と巡回(indexing and crawling)について、類似する第三者のサービスや商品より有利に取り扱ってはならない。GK はランキング付与等にあたって透明性、公平性および非差別的条件を適用しなければならない」とする。本条の前半部分は自社を検索結果で優遇してはならないとするものだが、後半は一般的に事業者間で差別せず、透明で公平・非差別的な検索結果表示を行うべきことを要請している。
もうひとつのDMA6条12項は、GKは「ビジネスユーザーに対して…オンライン検索エンジン…へのアクセスについて公平、合理的かつ非差別的な一般条件を適用しなければならない」とする。事業目的での利用者に対して公平なアクセスを保証する規定である。
今後はGoogleの対応方針について、(1)商用コンテンツを掲載するウェブサイトが検索上位に表示されることで生じる可能性のある弊害、(2)その弊害に対するGoogleの対応方針の合理性、について調査される。
ところで日本ではスマートフォン競争促進法がDMAに類似する法令として施行予定である3。検索エンジンに対する規定もある(9条)が、禁止される行為としては「当該指定事業者(その子会社等を含む。)が提供する商品又は役務を、正当な理由がないのに、これと競争関係にある他の商品又は役務よりも優先的に取り扱ってはならない」とするものである。これは、前述のDMA6条5項前段(自社サービスの優遇禁止)に相当する。すなわち、本件はGoogle(子会社等を含む)自体を優遇する行為ではないため、スマートフォン競争促進法の規制の対象とはならない。
結論としてはこのようになるが、デジタル社会の基盤である検索ランキングが日本のように限定的な優遇禁止でよいのかは、今後の欧州での展開を踏まえて検討の余地があると考えられる。
1 https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_2675 参照。
2 基礎研レポート「EUのデジタル市場法の公布・施行-Contestabilityの確保」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72386?site=nli 参照。
3 基礎研レポート「スマートフォン競争促進法案-日本版Digital Markets Act」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=78607?site=nli 参照。2025年12月18日施行予定。
(2025年11月19日「研究員の眼」)
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経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
2025年4月 取締役保険研究部研究理事
2025年7月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
松澤 登のレポート
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