- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- ジェロントロジー(高齢社会総合研究) >
- 高齢者世帯の家計・資産 >
- 老後資金の取崩し(3)-運用収益率の見通しが甘いと、どうなるか
老後資金の取崩し(3)-運用収益率の見通しが甘いと、どうなるか

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 高岡 和佳子
このレポートの関連カテゴリ
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
「二つの財布法」において株式の売却タイミングへの影響がプラスに働くのは、実現収益率が想定収益率を下回るほど、株式の売却タイミングを逸し、結果として株式の長期保有となりやすいからである。当然、投資期間が一定ならば収益率が高いほど投資により得られる収益総額は大きく、また長期的にプラスの収益率が確保できるならば、投資期間が長いほど投資により得られる収益総額は大きくなる。実現収益率が想定収益率を下回り、想定したほどの収益が得られない場合、株式の売却タイミングを逸することで投資期間が長くなり、結果として収益の不足を補う効果を生む。このため、実現収益率が想定収益率を下回ったのに運よく30年間資産が枯渇しなかった場合に残る平均的な資産額も、総じて「リバランス法」よりも「二つの財布法」の方が高い(図表5)。当然のことながら、投資期間が長いほど収益が高くなるのは、その投資期間において実際にプラスの収益率が確保できる場合に限られるので、実現収益率が0%の場合、株式を長期保有してもプラスの効果はない。図表3~図表5をよく見ると、「リバランス法」が優れているケースは実現収益率が0%の場合に偏っていることが分かる。
実現収益率が想定収益率を上回る場合、「二つの財布法」は株式の売却が進みやすいので投資期間が短くなり、30年後に残る平均的な資産額は「リバランス法」より少なくなる。しかし、年金受給開始後も資産を運用する目的が、より多くの資産を子孫に残すことではなく、より確実に資産を確保し、老後の生活水準維持と、生存中に資産が枯渇するリスクの軽減の両立にある限り、問題視する必要はない。
以上より、たとえ実現収益率が想定収益率を下回ったとしても、株式の収益率が長期的にプラスである限り、「二つの財布法」には生存中に資産が枯渇するリスクを軽減する機能があり、「リバランス法」より優れていると言えるのではないだろうか。
4――総括と今後の課題
資産寿命の短期化を軽減する効果が表れるのは、実際の収益率がプラスである場合に限られる。しかし、株式のようにリスクを伴う資産の長期的な収益率が0%となる可能性は低い。大多数の人はリスクを避けたがるので、リスクを伴うのに収益率が0%ならば買い手がいない。市場で取引されているということは、プラスの収益率が期待できることを意味する。過去のデータを確認すると、投資期間によって収益率は異なるが、30年間の収益率(キャピタル収益率+配当利回り)がプラスにならない期間は、1989年のバブルの絶頂期に投資を開始した場合に限られる。更に言うと、仮にリスクを伴う資産の収益率が0%であっても、「二つの財布法」と「リバランス法」との差は軽微であるので、やはり「二つの財布法」を実践することが老後の資産運用と資産取崩しに有益であると考えている。
尚、「二つの財布法」は「リバランス法」よりも優れているとは言えるが、運用収益率の見通しが甘いと、資産寿命の短期化を招く。資産寿命の短期化の軽減を目指して、取崩しルールの改良など、引き続き検討していきたい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年04月24日「基礎研レポート」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
高岡 和佳子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/30 | ふるさと納税のピットフォール-発生原因と望まれる改良 | 高岡 和佳子 | 基礎研レポート |
2025/04/03 | 税制改正でふるさと納税額はどうなる? | 高岡 和佳子 | 研究員の眼 |
2025/02/26 | ふるさと納税、確定申告のススメ-今や、確定申告の方が便利かもしれない4つの理由 | 高岡 和佳子 | 研究員の眼 |
2025/02/18 | ふるさと納税、事務負荷の問題-ワンストップ特例利用増加で浮上する課題 | 高岡 和佳子 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年05月01日
日本を米国車が走りまわる日-掃除機は「でかくてがさつ」から脱却- -
2025年05月01日
米個人所得・消費支出(25年3月)-個人消費(前月比)が上振れする一方、PCE価格指数(前月比)は総合、コアともに横這い -
2025年05月01日
米GDP(25年1-3月期)-前期比年率▲0.3%と22年1-3月期以来のマイナス、市場予想も下回る -
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【老後資金の取崩し(3)-運用収益率の見通しが甘いと、どうなるか】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
老後資金の取崩し(3)-運用収益率の見通しが甘いと、どうなるかのレポート Topへ