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老後資金の取崩し(1)-運用方法と取崩し方法をセットで考える

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 高岡 和佳子
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4――効果検証の結果

生存期間を30年と仮定した場合の基準構成比別、想定収益率別の取崩し率を図表5の上段に示す。全資産を預貯金とする場合、並びに想定収益率が0%の場合は、退職時における保有資産を30年間で等分するので、取崩し率は3.3%となる。株式への投資割合が高いほど、想定収益率が高いほど取崩し率は上昇し、株式への投資割合が50%、想定収益率が4%の場合で4.5%となる。
取崩し率が3.3%と4.5%とでは大差ないと考えるかもしれないが、毎年の取崩し額が一定ならば、退職時点で用意すべき必要額は26%少なくて済む(図表5の下段)。
例えば、取崩し率が3.3%で必要な老後資産額が2,000万円であるならば、取崩し率が4.5%の場合は500万円も少ない1,500万円で済む計算である。逆に、もし老後に2,000万円保有していれば、取崩し率4.5%だと毎年90万円取り崩すことができ、取崩し率3.3%だと毎年66万円しか取り崩せないこととなり、差は大きい。
検証の主眼は「二つの財布法」と「リバランス法」との比較なので、各指標の大小関係にのみ着目する。結果を図表6に示すが、数値や水準自体は参考にすべきでない。理由は、シミュレーション上、株価が概ね想定収益率に沿って変動することを仮定しているからである。
つまり、株価の変動パターンはいずれも、各年の収益率は様々だが、30年間の平均収益率は想定収益率とほぼ一致し、今後30年間の平均収益率自体が想定収益率と大きく乖離する可能性を加味していない。例えば今後30年間の平均収益率が想定収益率と大きく乖離する可能性を加味すれば、想定収益率が6%で全資産を株式に投資した場合、30年内に資産が枯渇する確率が9.4%よりも高く、資産寿命が28年間より短い可能性が高い。なお、株式の価格変動の程度(標準偏差)は、想定収益率によらず約20%(年率)で、過去データから推測される値と同水準である。これらを踏まえてのシミュレーションの結果が図表6である。
「リバランス法」だと、株式への投資割合が少ないほど、資産寿命短命化リスクは低い。一方、株式への投資割合が少ないほど、取崩し率の改善効果も低いので、いわゆる「ハイリスク・ハイリターン」の原則が成立する。
「二つの財布法」と「リバランス法」との比較では、想定収益率が2%以上かつ株式25%の場合を除いて、資産寿命短命化リスクは「二つの財布法」の方が低い。「二つの財布法」と「リバランス法」では取崩し率の改善効果は等しいので、株式への投資割合さえ適切に設定すれば、「二つの財布法」の方がより効率的といえる。
「二つの財布法」は、相対的価格水準が高い状況が継続し、株式が底をついた場合、株式の相対的価格水準に関わらず預貯金を取崩す。これが、株式への投資割合が低いと「二つの財布法」のリスクが高い理由である。「リバランス法」では資産が枯渇しなかったのに、「二つの財布法」で資産が枯渇した株式の変動パターンを3つ示す(図表7)。
いずれも退職後の市場環境が好調で、その結果10年~14年後には株式が底をつく。取崩し率は期間を通して株価上昇の恩恵を受ける「リバランス法」に基づき算出しているのに、その後の株価上昇の恩恵を受けられないからである。
以上から、「株式」か「預貯金」の二者択一の取崩しルールではなく、株式の相対的価格水準の程度や、残された期間を考慮した取崩しルールを設定する等の改善余地があるといえる。
5――総括と今後の課題
しかし、(ア)今後30年間の平均収益率が想定収益率と大きく乖離する可能性を加味する、(イ)株式への投資割合の適切な設定方法を検討する、(ウ)取崩しルールの改良、(エ)生存確率も加味する、(オ)株式の価格変動の程度が「二つの財布法」の効果に与える影響評価など、今後の検討課題も多い。引き続き、退職後のより良い老後資産の取り崩し方法についての調査を進めていきたい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年04月10日「基礎研レポート」)
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03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
高岡 和佳子のレポート
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