コラム
2020年04月08日

投信市場では冷静な投資家が多かった~2020年3月の投信動向~

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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外国株式に大規模な資金流入

2020年3月の日本籍追加型株式投信(ETFを除く。以降、ファンドと表記)の推計資金流出入をみると、外国債券こそ資金流出していたが、その他の資産クラスにはすべて資金流入があった【図表1】。特に、外国株式には3,200億円の資金流入があり、ファンド全体でも3月は2,700億円超の資金流入と3カ月連続の流入なった。
 
外国株式では、3月3,200億円の資金流入と2月の1,900億円の資金流入から大きく増加した。外国株式のアクティブ・ファンドへの資金流入が2月の1,300億円から3月1,900億円に、インデックス・ファンドへの資金流入が2月の600億円から3月1,300億円に増加した。タイプによらず外国株式が買われた様子である。3月は新型コロナウイルスの感染拡大やそれに伴う景気減速が懸念され世界的に株式が大きく下落する中、投資家は積極的に投資していたことがうかがえる。
【図表1】 2020年3月の日本籍追加型株式投信(除くETF)の推計資金流出入
資金流入が大きかったファンドをみても、上位10本のうち6本(赤太字と緑太字)が外国株式ファンドで、そのうち1本(緑太字)は米国株式のインデックス・ファンドであった【図表2】。この1本を含め、3月のインデックス・ファンドの資金流入1,300億円のうち900億円が米国株式のインデックス・ファンドへの資金流入でありかなりのウェイトを占めた。
【図表2】 2020年3月の推計純流入ランキング
米国株式のインデックス・ファンドの日次の資金流出入の推移をみると、米国株式が急落した2月下旬以降、インデックス・ファンドへの資金流入が2月中旬までと比較して大幅に増加していることが分かる【図表3】。2月中旬まで米国株式は史上最高値圏で推移しており、一部では割高感が指摘されていた。そのため、それまで投資することを控えていた投資家もいたと思われるが、株価下落を受けて投資家が積極的に米国株式に投資していることが分かる。
【図表3】 米国株式インデックス・ファンドの推計資金流出入

国内株式や内外REITも買われる

国内株式も、2月は200億円弱の資金流出をしていたが、3月は1,100億円の資金流入に転じた。150億円以上の資金流入があった国内株式のインデックス・ファンドが2本(【図表2】青太字)あり、インデックス・ファンド全体でも1,600億円の資金流入があった。2月の450億円の資金流入から大きく増加しており、3月は国内株式も大きく下落したが、インデックス・ファンドを用いた逆張り投資は健在であった。

国内株式のアクティブ・ファンドでも資金流出こそ継続していたが、流出金額は2月の650億円から3月150億円と鈍化していた。その他、確定拠出年金専用のファンドにも100億円ほど資金流入があったが、その一方でSMA専用ファンドからは500億円の資金流出があった。
 
また、国内REITには300億円弱、外国REITには200億円弱と内外株式と比べて流入金額こそ小さかったが、市場規模を考えるとかなりの資金流入があった。3月中旬にREIT価格は内外問わず大きく下落したが、REIT価格が一旦底を打った下旬に国内REIT、外国REITともにまとまった資金流入があった。国内REITでは3月24日から31日にかけて累計で400億円を超える資金流入があり、特に大きかった。底値とみて買う動きがあったといえよう。

外国債券よりもバランス型の方が足元の相場の影響を受けた可能性

その一方で唯一、外国債券からは資金流出があり、流出金額も2,200億円と大規模であった。2月の1,100億円の資金流出にくらべて倍増した。外国債券では、SMA専用ファンドから900億円に迫る資金流出があったことが大きかった(ちなみに2月は100億円の資金流出)。それに加えて、3月は為替こそやや円高に振れたが、米国など世界的に金利が低下(債券価格は上昇)したため、為替ヘッジしているファンドを中心に、下落していない外国債券ファンドも多かった(【図表4】赤字)。そのため足元、金融市場の不透明感が増す中、下落していないうちに売却しようとする投資家やより一層の金利低下が見込みにくい状況として利食いのため売却しようとする投資家も多かったのかもしれない。つまり、外国債券からの資金流出は大きかったが、比較的、投資家は冷静に判断して外国債券を売却していた模様である。
 
むしろ、外国債券よりもバランス型の方が足元の相場の影響を受けた印象がある。バランス型には昨年5月から2月まで毎月1,000億円を超える資金流入が続いていたが、3月は20億円の資金流入と資金流入が止まった。3月はリスク性資産の価格が総じて下落し、バランス型の特徴である分散効果が効かない展開となったため、バランス型といえども大きく下落するファンドが多かった。バランス型ではこれまで投資初心者からの人気が高かっただけに、急な下落を目の当たりにして投資することを躊躇する、もしくは売却する投資家が多かったと思われる。実際に個別ファンドでみても、価格変動が小さい、いわば投資初心者向けのバランス型ファンドの一部で大規模な資金流出があったことからもそのことがうかがえる。それに加えて、3月は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため投信の窓口販売が難しかったと思われる。これまでバランス型の窓口販売に力を入れている金融機関もあっただけに、バランス型の販売鈍化には窓口販売がストップした影響もあったかもしれない。

3月は外国債券や空売りを使用しているファンドなど収益率がプラスを維持、つまり下落しなかったファンドも一部ではあったが【図表4】、多くのファンドが下落し、下落幅が二桁になるファンドも少なくなかった。そのような投資環境でも、あまり投げ売りなどは見られず、全体的には冷静な投資行動を行っている投資家が多かったようだ。
【図表4】 2020年3月の高パフォーマンス・ランキング

ラップ口座からは資金流出?

なお、国内株式や外国債券で大規模な資金流出があったSMA専用ファンドであるが、国内債券のSMA専用ファンドには資金流入がみられた。つまり、ラップ口座などでは国内株式や外国債券から国内債券に組み替える動きがあったといえよう。ただ、国内債券のSMA専用ファンドへの資金流入は300億円程度と国内株式(500億円)と外国債券(900億円)の流出金額より小さく、SMA専用ファンド全体では1,300億円の資金流出であった。SMA専用ファンドの資金動向のみでは分かりかねる部分もあるが、もしかすると3月にラップ口座などでは解約が相次いていたのかもしれない。今後の動向に注意していきたい。
 
 

(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資信託の勧誘するものではありません。
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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

(2020年04月08日「研究員の眼」)

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