2020年03月26日

ポイント還元策の導入効果と今後のポイント

金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹

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2消費者行動の構造変化はなぜ生じたか
前項の分析から、消費者は消費増税・ポイント還元策導入前に単価の高い耐久財・半耐久財の消費に対してキャッシュレス決済の利用を増やし、導入後に非耐久財の消費に対してキャッシュレス決済の利用を増やしたと見られる。このような消費者行動の構造変化を生んだ理由として以下の3つ考えられる。

1つ目はポイント還元策の対象となる店舗の規模を中小企業の個別店舗やフランチャイズチェーン加盟店に限定したことである。2019年10月以降は大手企業やポイント還元策に参加していない中小企業においてキャッシュレス決済を用いたとしても政府からポイント還元を受けることはできない。そのため、ポイント還元を受けられる店舗での消費をポイント還元導入後に後ろ倒しにして、ポイント還元策を受けられない店舗での消費を前倒しするインセンティブが消費者に働くことになる。そのため、大手企業での消費を中心に、ポイント還元策による消費増税の需要平準化の効果はなかったものと考えられる。

2つ目は、不正取引を防止する目的で、政府によるポイント還元策において、キャッシュレス決済手段ごとに上限(チャージ限度額や還元対象金額への上限)が設けられたことである6。例えば、クレジットカードの場合、1カ月あたりの還元額の上限を1万5,000円とするのが一般的であった。また、ポイント還元策導入前に、独自のポイント制度において上限を設ける決済サービス事業者もあった。ポイント還元額に上限を設定されたことで、単価の高い商品やサービスに対する消費を消費増税・ポイント還元策導入前に前倒しして、単価の低い商品やサービスの消費をポイント目当てに後ろ倒しにするインセンティブを高めたと考えられる。そのため、単価の高い商品やサービスであればあるほど、消費増税の需要平準化の効果が小さくなったものと考えられる。

3つ目は、ポイント還元策の対象となる商品やサービスを限定したことである。ポイント還元策では、自動車販売や新築住宅の販売はその対象から除外された。そのため、自動車や新築住宅の購入に関して、ポイント還元策による消費増税の需要平準化の効果はなかったものと考えられる。特に、これらの取引は高額でかつ借り入れを伴うことが多く、その元利返済の負担増がその後の消費を抑制する効果をもたらした可能性がある。

これらの3つの要因から、大手企業における商品・サービス(特に「百貨店」「家電量販店」「ホームセンター」)や、ポイント還元対象外となる「自動車販売」「新築住宅販売」において消費増税の平準化の効果がもたらされず、これらの購入が消費増税・ポイント還元策導入前に前倒しされたと考えられる。また、決済サービス事業者の中にはポイント還元策導入前から消費者を囲い込む目的で還元率の高いキャンペーンを実施していたところがあり、このような政府のポイント還元対象とはならない比較的単価の高い消費に対して、消費の前倒しを促進した可能性がある。

その結果として、消費増税・ポイント還元策導入前に消費者の予算が比較的単価の高い耐久財や半耐久財の消費に対して充てられたため、導入後の予算が制約され、キャッシュレス決済の利用が比較的単価の低い非耐久財を多く取り扱うスーパー、コンビニエンスストアやドラッグストアに集中したのではないかと考察される。
 
6 ポイント還元策では、店員自身のクレジットカードによる決済や、架空取引の申請でポイントを不正に受給した疑いがあるケースが少なくとも5千件見つかっており(「ポイント還元、不正疑い5千件 店員のカードや架空取引」(共同通信社 2020年2月27日、など)、ポイント還元額の上限設定は不正な取引の抑制に対して一定の効果があったと考えられる。
 

3――キャッシュレス施策における今後のポイント

3――キャッシュレス施策における今後のポイント

1新型コロナウイルスの感染拡大に対する緊急経済対策
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急経済対策において、ポイント還元策の拡充・延長が検討されているとの報道がみられる。

現状のポイント還元策では、その対象となるのが中小企業の個別店舗やフランチャイズチェーン加盟店に限定される。具体的には、ポイント還元策に参加している中小企業の個別店舗やフランチャイズチェーン加盟店で登録済みのものは、その対象となる中小企業の店舗全体の割合でみても5割強である7。この事業設計のままでポイント還元策を延長・拡充しても需要喚起の効果は一部の中小企業の店舗に限られてしまう。

現在参加していない企業も含めて需要喚起の効果を幅広くもたらすには、大手企業や現在登録していない中小企業に対してもポイント還元策への登録を促す必要が出てくる。キャッシュレス決済導入済みの大手企業の店舗であれば、登録までにかかる準備期間はそれほどかからないのかもしれない。しかしながら、現在キャッシュレス決済を導入していない店舗では、キャッシュレス決済端末を導入するための準備期間が必要になる。
 
7 ポイント還元策の対象となる店舗数の全体は約200万店舗といわれており、登録済みなのはそのうちの107万店舗(2020年3月21日時点)である。
2JPQRの全国利用の開始
今後、中長期目線でキャッシュレス決済の利用者がさらに増えることになると、店舗サイドの手数料負担や資金繰りコストも徐々に重くのしかかることになる。その意味で、店舗に対して手数料低廉化のメリットを提供するJPQR(QRコードの統一規格)の普及事業が注目される。

2019年3月にキャッシュレス推進協議会においてJPQRが策定された。店舗提示型のQRコード決済では、各決済サービス事業者のQRコードが店舗のレジ周辺に乱立して煩雑になるなどの問題が指摘されていた。規格を統一して1種類のQRコードを各決済サービスで共用することで、消費者の利便性が向上することが期待されている。また、店舗サイドにもJPQRの採用にあたって、決済手数料の低廉化(最大1.8%)だけでなく、複数の決済サービス事業者への一括申し込みができるなどのメリットがある。

2019年にJPQRによるキャッシュレス化を検証する目的で先行して5県(岩手県、長野県、栃木県、和歌山県、福岡県)で利用が開始された。2020年に全国展開が予定されている。2019年時点では決済サービス事業者の参入は8社のみであったが、店舗提示型で11社の参加が確定している(2020年3月時点)。銀行系、流通系、通信系、ECサービス系の各分野における主な決済サービス事業者の参加が確定したことで、QRコード決済では、中小企業の個別店舗を中心に徐々に店舗提示型のJPQRを利用した決済方法が一般的になっていく可能性が高いだろう。
3マイナポイント事業の導入
2020年9月に、キャッシュレス決済を利用した際にポイントが還元される「マイナポイント事業」の導入が予定されている(2021年3月終了予定)。マイナポイント事業とは、マイナンバーカードの取得後に、キャッシュレス決済にチャージ、または決済として利用するとマイナポイントが最大25%(上限5,000円相当)還元される制度である。また、マイナポイントに参加する店舗に対して、端末導入費用の2分の1が政府より補助される。

マイナポイント事業の導入の背景として、キャッシュレス決済比率のKPI達成があるが、引き続き消費者の需要対策や全住民の約15%に留まるとされるマイナンバーカードの低い取得率の引き上げたいとする政府の思惑もあるとみられる。

ただし、経済的なインセンティブに働きかけるという意味では、ポイント還元策との比較で考えると、還元率が高い水準(25%)に設定されているものの、総額で5,000円相当のポイント還元額でどの程度の消費者が経済的なインセンティブを感じてマイナンバーカードの取得に動くのかという問題点が指摘できるだろう。マイナポイント事業と比べて、ポイント還元策は還元率が5%(または、2%)と相対的に低かったものの、多くの決済サービス事業者においてポイント還元額の上限が1か月当たり15,000円程度に設定されたため、総額ベースで考えると、消費者のキャッシュレス決済を利用するインセンティブが相対的に高い政策であったと言える。さらに、日本の消費者は他国と比較して個人に関わる情報を国や企業に提供することに対して肯定的ではないとする国民性も影響するだろう。

ポイント還元策終了後も、キャッシュレス化による経済効果を継続・拡大できるかどうかを占う意味でも、これらの政策の導入効果について注視していく必要があるだろう。
 
 

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金融研究部   金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任

福本 勇樹 (ふくもと ゆうき)

研究・専門分野
金融市場・決済・価格評価

(2020年03月26日「基礎研レポート」)

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【ポイント還元策の導入効果と今後のポイント】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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