コラム
2020年03月16日

各国中央銀行、危機対応モードに転換~今後の焦点は財政政策

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

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1――FRBがゼロ金利・量的緩和再開へ、日銀もETFの購入を倍増

3/15の日曜日、米国連邦準備制度理事会(FRB)は臨時の連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利を1.00%引き下げて0.00%~0.25%とした。米国債などを買い入れる量的金融緩和を再開することも発表した。3/3にも緊急利下げを実施したばかりであり、新型コロナウイルスによる金融・経済への影響を抑えるべく異例の対応に打って出ている。また、日本銀行やFRB、欧州中央銀行(ECB)等が協調して、金融市場に対する米ドルの流動性供給を拡充することも発表された。世界的な金融市場の混乱や流動性不足、信用不安への懸念に対して、世界の中央銀行が動きを加速している。

FRBがゼロ金利政策・量的緩和再開を決めた翌日の3/16、日銀は3/18-19に予定していた金融政策決定会合を前倒して開催した。現在マイナス0.1%の政策金利の引き下げは見送ったが、年6兆円の購入目標を掲げる上場投資信託(ETF)は12兆円と目標を倍増した。

先週は「コロナ・ショック」が金融市場に吹き荒れ、各国の株式市場が大きく値を下げた。米国の長期金利は史上初めて1%を割り込み、投資家の先行き不安を表すボラティリティー・インデックス(VIX指数)は急騰した。利回りが高く信用格付けが低いハイ・イールド債に投資するファンドから資金が流出する等、これまで「クレジット・バブル」とも指摘されてきたクレジット市場への懸念も高まっている。新型コロナウイルスや原油の急落に端を発する信用不安、流動性不安を封じ込めるべく、各国中央銀行がどのような対応をとるのか、市場の注目も集まっている。

2――今回の危機対応は厄介

今回の新型コロナウイルスへの危機対応は非常に厄介だ。感染力が比較的強いと言われ、現時点では新型コロナウイルスの治療薬がない。その封じ込めには人々の移動制限やイベント・店舗営業の自粛等、経済活動そのものを停止する「原始的」な手法に多くを頼らざるを得ない。感染の収束に向けた不確実性が高い上に、感染拡大の封じ込めを強化すればするほど、経済活動が停滞するというトレードオフの関係がある。アジアから欧米に感染が拡大する中、経済へのダメージは図りしれない。

リーマンショックの際には、金融危機に端を発して、その後実体経済に大きく影響が波及した。当初、今回のコロナ・ショックにおいて、感染拡大封じ込めに伴う経済活動の急停止によって実体経済が先んじて悪化し、その後に金融危機のリスクが高まっていくという見立てもあった[図表1]。しかしながら、足もとで流動性危機や信用不安への懸念は急速に高まっている。相次いで打ち出される各国の移動制限や経済活動の自粛によって需要は急速に消滅し、金融危機への恐れは「前倒し」されている(原油価格下落も加わる)。新型コロナウイルス拡大による公衆衛生上の危機、実体経済の悪化、流動性危機、信用不安がすべて重なってしまっている。
[図表1]危機時における金融市場と実体経済への影響
今後、感染拡大の封じ込めにむけた対策が、各国で一気に進められるだろう。感染拡大はいずれ収束に向かっていくとしても、収束するまでにどれだけ時間がかかるのか、ピーク(最悪期)がいつになるのか、といったことが現時点では見通せない(治療薬開発のニュースなどが出れば話は一変するが)[図表2]。緊急の金融政策で流動性危機や信用不安を抑え込みにいっても、それをいつまで継続すれば実体経済が上向くのか、そもそもこうした金融政策で実体経済がどこまで持ちこたえられるのか、先が読みづらい状況だ。
[図表2]累積感染者数

3――金融政策の対応では「時間が買えない」、次の主役は財政政策

今回のコロナ・ショックのインパクトは、景気悪化がどの程度の「深さ」と「長さ」になるかによる。現時点で出ている経済指標を見る限りにおいては、まだ米国は景気後退とは決めつけられないが、仮に米国が景気後退に陥ったとなれば、ここ数年世界の景気と金融市場を牽引していただけに、世界的にも大きな悪影響が避けられない[図表3]。経済指標にはまだ現れてきていないが、各国で経済の急速な悪化が予想される。
[図表3]景気動向指数とS&P500
世界的な感染拡大を防止することが最優先の課題となるが、各国とも財政政策の位置付けが極めて重要な局面になってきた。まずは危機対応が優先されるが、感染が収束に向かい、抑制されていた需要が戻り始めるタイミングで、需要を力強く喚起するする政策も必要になる。消費者や企業が動き出した時、お金を使うことにメリットが出てくる政策、つまり投資減税や消費減税等が議論の俎上に載るだろう。

金融政策は経済改革等を行う上での「時間を買う政策」とも言われる。今回のコロナ・ショックは、各国の中央銀行の政策余地が限られる中、各国とも経済活動が停滞して需要が急速に失われており、もはや金融政策で「時間を買う」ことは難しい。次の主役は財政政策だ。政策決定に時間を有することができないことを前提に、前倒しで政策を決定していくことが極めて重要だ。
 
 

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総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

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