2020年02月10日

女性の生活満足度を高める要因は何か?-経済的な豊かさより時間のゆとり、20~30歳代は結婚も

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~政策立案への指標化が進む満足度、個人の生活における決定要因は何か?

近年、GDPなどの経済指標だけでなく「幸福感」を指標に国の発展を図ろうとする動きが広がっている。「世界一幸せな国」で知られるブータンでは、すでに1970年代から「国民総幸福量(GNH)は国民総生産(GDP)よりも重要」であると掲げ、経済成長を重視する姿勢を見直し、伝統的な社会・文化や民意、環境にも配慮した国づくりが進められている1。その結果、少し古いデータだが、ブータンでは、1人当たり所得は1,920米ドルにも関わらず(世界銀行、2010)、国民の97%が「幸せ」と答えるそうだ。

日本でも、現在、内閣府は「満足度・生活の質に関する指標群」を検討している。指標として、例えば、家計面では世帯の平均可処分所得や金融資産等、健康面では平均寿命等、労働面では平均労働時間や有給取得率等、教育面では大学進学率等、子育て環境面では保育所待機児童数等の活用が検討されている。

これらのマクロ指標の活用は政策立案には確かに有意義だ。一方で、個人の生活へ目を向けると、所得はもちろんのこと、家族形態(未既婚、子の有無等)やライフステージ、時間のゆとり、体力の程度、性格による感じ方の違いなど、個人の生活や特徴などの影響は大きいだろう。また、女性は男性と比べてライフコースが多様であるため、よりミクロの個人的要因の影響が大きいと考えられる。

そこで本稿では、25~59歳の女性5千名を対象とした調査2を基に、個人的要因に注目して、生活満足度へ与える影響を捉える。また、重回帰分析を用いて、生活満足度には、どのような要因の影響が大きいのかについても分析する。
 
1 外務省「わかる!国際情勢-Vo.79 ブータン~国民総幸福量(GNH)を尊重する国」(2011年11月7日)
2 ニッセイ基礎研究所「女性のライフコースに関する調査」、調査時期は2018年7月、調査対象は25~59 歳の女性、インターネット調査、調査機関は株式会社マクロミル、有効回答5,176。
 

2――女性の生活満足度への個人的要因の影響

2――女性の生活満足度への個人的要因の影響~収入や家族、住まい方、時間のゆとり等の影響は?

調査では、「現在の生活に対して、どの程度満足しているか」について、「不満だ」「やや不満だ」「どちらともいえない」「まあ満足している」「満足している」の5段階で尋ねており、このうち「まあ満足している」「満足している」の2つの選択割合の合計値を「生活満足度」とする。その結果、25~59歳の女性の生活満足度は34.2%3であった。

属性別に見ると、年齢による大きな違いは見られない(付表1)。その他の属性については、まず、収入等の経済面の影響を把握した後、家族や住まい方等の影響を捉えていく。
 
3 この値は内閣府「令和元年度国民生活に関する世論調査」における18歳以上の女性の生活満足度(75.5%)を大きく下回る。調査は、調査対象の年齢等の分布は国勢調査を基にして実施しており、未婚率や収入等の分布には政府統計等と比べて特段の偏りは見られなかった。よって、生活満足度に乖離のある理由として、選択肢の並び方の順序の違いを考えている。当調査の選択肢は「不満だ」から並ぶが、世論調査では逆に「満足」から並んでいる。
1収入や資産の影響~生活満足度とおおむね比例関係
i)就業形態や年収の影響~専業主婦の生活満足度は高いが年収500万円以上では就業女性が上回る
まず、収入への影響が大きな最終学歴について見ると、高学歴ほど生活満足度は高い傾向があり、大学卒以上では4割を超える(図表1)。
図表1 最終学歴別に見た女性の生活満足度 就業形態別には、専業主婦(42.4%)で高く、就業女性(30.8%)で低いが、就業女性では就業上の地位や年収により大きな開きがある4
図表2 就業女性の年収別に見た女性の生活満足度 就業女性の生活満足度について、就業上の地位別に見ると(詳細は付表1)、「経営者・役員」(40.0%、参考値)で最も高く、次いで、「管理職」(33.3%)、「一般社員・職員」(30.5%)、「嘱託・派遣・契約社員」(25.4%)というように、就業上の地位が高いほど生活満足度は高い傾向がある。

なお、「自営業・自由業」(32.4%)や「パート・アルバイト」(32.2%)の生活満足度は、「一般社員・職員」を若干上回ることから、仕事や生活に対する自由度が高いと、生活満足度は高まる様子もうかがえる。

就業女性について年収別に見ると、年収150万円以上では高年収ほど生活満足度は高く、年収500万円以上では女性全体や専業主婦を上回る(図表2)。

一方で、年収150万円未満の生活満足度は年収150~300万円未満の値を上回るが、これは配偶者による経済的な支えがあるためだろう。妻の年収が150万円までは、夫は「配偶者控除/配偶者特別控除」によって満額38万円の所得控除が受けられる。よって、パートタイムで働く妻では年収150万円を意識して働くことが多い。なお、既婚で配偶者のいる割合は、就業女性全体では55.9%に対して、収入はない層は82.9%、150万円未満は77.1%と高くなっている。
 
4 専業主婦も多様だろうが、ここではあくまでも就業形態に注目しているため、専業主婦としてまとめた形としている。
ii)配偶者年収や世帯金融資産の影響~夫の年収1500万円以上では妻の生活満足度は約8割にも
既婚で配偶者のいる女性について、配偶者の年収別に生活満足度を見ると、収入はない層を除くと高年収ほど生活満足度は高まり、年収400万円以上で女性全体を上回り、年収1,500万円以上では約8割にもなる(図表3)。この傾向は専業主婦で見ても、共働きの就業女性で見ても、おおむね同様である。

一方で、収入はない層の生活満足度は年収400万円未満を上回るが、これは収入はない層では定年退職後の夫も多いためだろう。60歳代以上の夫の割合は、全体では6.3%に対して、収入はない層は20.3%と高くなっている。

世帯金融資産別には、世帯金融資産が多いほど生活満足度は高まり、300万円以上で女性全体を上回り、5千万円以上で6割を超える(図表4)。世帯金融資産は、本人や配偶者の年収で見られたような折れ線グラフのくぼみは見られず、単純に生活満足度と比例関係にある。

以上より、妻が夫の配偶者控除を意識して働く場合や夫が定年退職している場合などを除けば、本人や配偶者の年収も世帯金融資産も、いずれも多いほど生活満足度は高まる傾向がある。一方で、就業収入のない専業主婦の生活満足度は4割を超えて高いことが特徴的である。
図表3 配偶者の年収別に見た女性の生活満足度/図表4 世帯金融資産別に見た女性の生活満足度
2家族の影響~結婚・出産期に高まり、子どもの思春期頃や親の介護期に低下、老後に向けて再び上昇
i)未既婚や子の有無の影響~最も生活満足度が高いのは結婚して(まだ)子どものいない女性
次に、家族の影響を捉える。まず、未既婚別に見ると、生活満足度は、「既婚(配偶者あり)」(39.8%)で最も高く、次いで、「既婚(配偶者と死別)」(34.6%)、「既婚(配偶者と離別)」(22.5%)、「未婚」(22.1%)と続く(付表1)。「既婚(配偶者あり)」と「既婚(配偶者と死別)」では女性全体を上回り、「既婚(配偶者と離別)」や「未婚」と比べて10%pt以上も高い。
図表5 未既婚・子の有無別に見た女性の生活満足度 子の有無別には、「子あり」(36.5%)の方が「子なし」(31.0%)より高く、女性全体を若干上回る(付表1)。

これらの結果を見ると、配偶者がいて、子どものいる女性の生活満足度が最も高くなりそうだが、実はそうではない。

未既婚と子の有無をあわせて見ると、生活満足度が最も高いのは、「既婚(配偶者あり)・子なし」(44.6%)であり、「既婚(配偶者あり)・子あり」(38.2%)を上回る(図表5)。この理由は、次のライフステージ別の結果を踏まえて考察する。
ii)ライフステージの影響~結婚・出産期に高まり、子どもの思春期(反抗期)頃低下、子の独立で再び上昇
女性の生活満足度をライフステージに添って見ると、「結婚」や「第一子誕生」期に高まり、子育て期は「第一子中学校入学」や「第一子高校入学」の子どもの思春期頃(すなわち反抗期を迎える頃)に女性全体を下回り、子どもの独立に向けて再び高まっていく(図表6)。
図表6 ライフステージ別に見た女性の生活満足度 「既婚(配偶者あり)・子あり」の生活満足度が「既婚(配偶者あり)・子なし」を下回った背景には、子育てに関わる悩みの影響がありそうだ。

ライフステージが「結婚」以降の女性について、日常生活で悩みやストレスのある割合を見ると、やはり、子どもの思春期頃に比較的高くなっている5。また、悩みの内容は「子どもの教育」の割合が高い傾向がある(全体19.3%に対して、「第一子中学校入学」62.1%、「第一子高校入学」55.0%)。
 
5 日常生活において悩みやストレスがある割合(「ない」「ほとんどない」「ときどきある」「しばしばある」「常にある」の5段階で尋ねて得た「しばしばある」「常にある」の選択割合の合計値)は、全体49.2%に対して、未婚(独身)58.6%、結婚47.3%、第一子出産42.2%、第一子小学校入学49.4%、第一子中学校入学48.6%、第一子高校入学51.8%、第一子大学入学46.3%、第一子独立46.5%、末子独立41.2%、孫誕生43.4%。
iii)家族の健康状態の影響~最も生活満足度を下げるのは子の病気、次いで、自分、配偶者
病気がち・療養中の家族の有無別に見ると、最も生活満足度が低いのは、療養中の家族が「子ども」(20.9%)の場合であり、僅差で「自分」(21.7%)、「配偶者」(24.6%)と続く(図表7)。
図表7 病気がち・療養中の家族(同居あるいは近居)の有無別に見た女性の生活満足度 なお、ライフステージ別において、「第一子大学入学」以降では、「第一子独立」の生活満足度が若干低いのだが、これは親の介護に直面している女性が多いためのようだ。ライフステージ別に病気がち・療養中の家族の割合を見ると、「第一子独立」で「親」の割合が最も高くなっている(全体17.2%に対して26.1%)。

以上より、女性の生活満足度は結婚や出産期に高まり、子どもの思春期(反抗期)頃の教育問題や親の介護問題に直面する時期に低下するものの、これらから解放されるに伴って再び上がっていくという流れが見える。
3住まい方の影響~実家と程よい距離を保ち、社宅やマンション住まいの女性で生活満足度は高い
女性の生活満足度への住まい方の影響について居住形態別に見ると、生活満足度は「社宅、官舎」(44.2%)で最も高く、次いで、「持ち家(集合住宅)」(40.4%)、「持ち家(戸建て)」(35.3%)、「賃貸住宅」(29.4%)と続く。「社宅、官舎」や「持ち家(集合住宅)」では4割を超えて高くなっている(付表1)。
図表8 実家・義理の実家との距離別に見た女性の生活満足度 これは居住形態というよりも、家族や経済状況による影響のようだ。「社宅、官舎」や「持ち家(集合住宅)」に住む女性では、配偶者のいる女性が多く、本人や配偶者の年収が高い傾向がある。

また、実家や義理の実家との距離別には、未既婚によらず、近居や別居で高く、同居で低い傾向がある(図表8)。

これらを見ると、実家や義理の実家と程よい距離を保ち、福利厚生の整った組織に勤め(あるいは勤める配偶者を持ち)、社宅やマンションに住む女性で生活満足度が高い様子がうかがえる。
4その他の影響~時間のゆとりや体力があるほど、開放性の高い性格で生活満足度は高い
その他、調査で得られた個人的要因の影響について見ると、女性の生活満足度は、時間のゆとりがあるほど、また、体力があるほど高まる(図表9)。

また、性格特性の5因子6別には、女性の生活満足度は、外向性(社交的・話好きなど)や情緒不安定性、非調和性(短気・自己中心的など)が低いほど、非誠実性(ルーズな・いい加減ななど)は中程度、開放性(進歩的な・多才のなど)が高いほど高い傾向がある(図表10)。なお、外向性が高いほど生活満足度は低くなることは意外なようだが、これは外向性の高い層では低い層と比べて、悩みやストレスのある割合が若干高いことが影響しているようだ。
図表9 時間のゆとりや体力の程度別に見た女性の生活満足度/図表10 性格特性の5因子別に見た女性の生活満足度
 
6 パーソナリティを「外向性」「誠実性」「情緒不安定性」「開放性」「調和性」という5つの性格因子で捉える既存研究に基づき、当調査では「外向性」は社交的、話好き、陽気など、「誠実性」は逆転項目の「非誠実性」としてルーズな、いい加減な、成り行きまかせなど、「情緒不安定性」は心配性、不安になりやすい、弱気になるなど、「開放性」は進歩的、多才の、独創的ななど、「調和性」は逆転項目の「非調和性」として怒りっぽい、短気、自己中心的などへの合致具合を尋ねた。

(2020年02月10日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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