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若年女性のヘルスリテラシーと妊娠や出産、不妊治療に関する情報源

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
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1――はじめに
日本医療政策機構「働く女性の健康増進調査報告書2018」には、女性のヘルスリテラシーが高い人は低い人と比べて、自分が望む時期に妊娠・出産をしているとの報告がある。また、前稿「女性のヘルスリテラシーと疾病不安、不妊症検査・受診の動向」では、20~34歳の子どもがいない女性において、(1)女性のヘルスリテラシーが高いことと、女性特有の疾病をはじめとして、あらゆる疾病を身近に感じることは正の相関にあること、(2)子どもがいない既婚女性で、不妊等の不安を感じたことがあっても、不妊症や不育症が身近に感じられていなかったり、リテラシーが不足していると、医療機関の受診が遠のいている可能性があることを確認した。これらのことから、体調に不安がある場合の対処においても、希望の時期に出産するためにも、疾病に関心を持つことやヘルスリテラシーの醸成が重要であると考えられる。
近年、女性特有の疾患や妊娠・出産、不妊症等の体験談をはじめ、疾病に関する話題がインターネットや雑誌等にあふれている。しかし、リテラシーが不足している場合は、そういった多くの情報に関心がなかったり、正しい情報を選べない可能性がある。そこで本稿では、妊娠や出産、不妊治療に関する情報利用を例に、女性のヘルスリテラシーの高低による情報利用の違いを確認し、どういった情報源で情報を提供するのが望ましいのか考えたい。利用したデータは、(株)ニッセイ基礎研究所が2019年に実施した「女性の妊活に関する調査1」の個票データである。
1 20~34歳の子どもがいない女性、および20~34歳の娘を持つ45~64歳の母親を対象とするインターネット調査。2019年3月実施。サンプル数はそれぞれ6000、2000サンプル。
2――女性のヘルスリテラシー分布

本稿においては、妊娠や出産、不妊治療に関する情報利用について分析をするため、20~34歳の女性のうち、子どもを持つことを考えている4,419人を対象に分析を行った3。対象者の得点の分布は図表1のとおりである。本稿では、得点に応じて、概ね同じ人数になるように対象者を4つのグループ(「高」「やや高」「やや低」「低」)に分類した。
リテラシーを測定するための質問やリテラシーの高低による特徴は「女性のヘルスリテラシーと疾病不安、不妊症検査・受診の動向」をご参照いただきたい。
2 河田らによる性成熟期(20~30歳代の妊娠・出産期)にある女性の女性特有の疾患の予防、早期発見と治療を目的として開発された「女性のヘルスリテラシー 」尺度を使った(河田 志帆他「性成熟期女性のヘルスリテラシー尺度の開発 女性労働者を対象とした信頼性・妥当性の検討」日本公衆衛生雑誌2014年 第61巻第4号)
3 理想とするライフコースが「両立」「再就職」「結婚・出産退職」である人を分析対象。「シングル」「DINKS」「その他」である人を分析から除外した。
3――リテラシー別の妊娠や出産、不妊治療に関する情報源

因子別の特徴をみると、「医療機関」は、リテラシー「高」で特に高い。「友人・家族」は、「低」が特に低い。「テレビ・新聞」は、「高」から「やや低」まで大きな差はなく、「低」のみ低い。一方、「自治体・職場」は、リテラシー「低」で他の因子と比べて相対的に高く、「高」から「低」までの差が小さい。
前稿で、不妊について不安に感じた場合に、リテラシーが高い人で医療機関での検査・治療経験が高かったことから、リテラシーが高いほど医療機関での情報を得ていると考えられる。
また、「友人・家族」で、リテラシー「高」と「低」の差が比較的大きかったことについて、参考のため、母親世代4に健康について抱えている悩みや不安について、娘と話をすることがあるかを尋ねた結果をみた。「悩みや不安の話をすることはない」と回答した割合は、母親のリテラシー「高」で12.1%であるのに対し、「やや高」では13.5%、「やや低」では14.7%、「低」では26.7%と、リテラシーが高い母親ほど、自分の健康について抱えている悩みや不安について娘と話していた。女性特有の症状等についても「生理前や生理中の不調」については「高」の母親が15.0%娘と話をしているのに対し、「低」では4.2%とあまり話をしていない。「更年期障害」についても、「高」の母親が19.2%娘と話をしているのに対し、「低」では13.6%と低かった。家庭内での体調に関する話の有無も、娘世代の関心の高さやリテラシーに影響する可能性がある。
4 20~34歳の娘を持つ女性。母親世代の年齢は45~64歳だった。今回分析対象の20~34歳の女性の母親ではない。
4――リテラシー「低」の情報収集力や症状を説明する力はとても低い
5――おわりに
情報源別にみると、テレビや新聞等の媒体は、リテラシーが「高」~「やや低」まで同様に利用していたが、「低」のみ、利用が少なかった。また、友人や家族の話は、リテラシーが「低」では特に利用されていなかった。一方、自治体や職場における冊子や公報誌、セミナーの利用状況は、リテラシーの高低による差が小さい傾向があったが、これらの情報は図表1によると、そもそも妊娠や出産、不妊治療の情報源としての利用が低かった。
テレビや新聞等のマス媒体や、友人・家族、インターネットによる情報、雑誌類でリテラシーの高低による差があった。これらの媒体による情報は、内容が正確なものか、自分に合ったものか判断を必要とする場合があるため、ある程度関心が高く、知識もある人にとっては、より多くの情報を得ることができる一方で、自ら情報を得られなかったり、判断にとまどう人にとっては活用するのが難しい可能性がある。
それに対して、医療機関や自治体・職場における冊子等は、正確かどうかの判断は必要ない場合が多いと考えられ、リテラシーが不足していても比較的使いやすと思われる。また、現在、自治体や職場における冊子等は、情報源としてあまり利用されていないが、これらの媒体は、地域の特性や自社の状況・従業員の年齢層等をふまえた情報を取り扱うことができるうえ、利用状況にリテラシーの高低による差が小さい。こういった媒体を、疾病に対する関心やリテラシーが低い人も対象とした情報提供の場としてこれまで以上に活用することが考えられるのではないだろうか。
(2020年02月04日「基礎研レター」)

03-3512-1783
- 【職歴】
2003年 ニッセイ基礎研究所入社
村松 容子のレポート
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