2020年01月30日

【1月米FOMC】市場の予想通り、政策金利を据え置き。当面の据え置き方針を維持

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:政策金利を据え置き、政策金利の当面の据え置き方針を維持

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が1月28-29日(現地時間)に開催された。FRBは、市場の予想通り、政策金利を据え置いた。一方、民間銀行がFRBに預ける超過準備預金金利(IOER)について、フェデラル・ファンド金利の誘導目標レンジに収めるために技術的な措置として0.05%引き上げられた。

今回発表された声明文では、景気の現状判断で家計支出に関して下方修正されたほか、金融政策ガイダンス部分で2%の対称的な目標にインフレ率が前回の「近い」から「戻る」に変更された。

金融政策決定では前回(12月)会合に続き、全会一致での会合となった。今回の会合から地区連銀総裁の投票メンバーが、前回までのセントルイス連銀のブラード総裁、シカゴ連銀のエバンズ総裁、カンザスシティ連銀のジョージ総裁、ボストン連銀のローゼングレン総裁から、フィラデルフィア連銀のハーカー総裁、ダラス連銀のカプラン総裁、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁、クリーブランド連銀のメスター総裁に交代した。

2.金融政策の評価:パウエル議長は政策金利の当面の据え置き方針を維持

政策金利の据え置きは当研究所の予想通り。今回発表されたFOMC会合後の声明文で、今後の金融政策ガイダンス部分に関し、金融政策スタンスの変更がなかったことも当研究所の予想通りであった。

パウエル議長の記者会見では、声明文でインフレに関する記述が変更されたことや、超過準備預金金利の引き上げなどについて質問されたが、同議長から、これらの変更が従前の金融政策方針を変更することではないことが示された。また、今回の記者会見ではコロナウイルスなどの新たなリスク要因は示されたものの、マクロ経済への影響を判断するには時期尚早とされ、経済見通しなどについて、前回会合からの変更は示されなかったため、新味に欠ける記者会見となった。

当研究所は、引き続き金融政策がトランプ大統領の通商政策に左右されると判断しているが、米中貿易摩擦は緩やかながら緩和方向に向っていることや、インフレ率も底打ちがみられることから、追加緩和は見送られ、今年は政策金利が据え置かれるとの見通しを維持している。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを1.5%-1.75%に据え置くことを決定した(変更なし)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は、経済活動の持続的拡大、力強い労働市場、インフレ率が委員会の2%で対称的な目標に戻るのを支えるために現行の金融政策スタンスが適切であると判断している(インフレ率について2%で対称的な目標に「近い」“near”から「戻る」”returning to”に表現変更)。
  • 委員会はFF金利の目標レンジの適切な経路を評価しつつ、今後入手する情報が海外経済や抑制されたインフレ圧力を含む経済見通しに及ぼす影響について引き続き注視してゆく(変更なし)
  • これらの判断に際しては、雇用情勢、インフレ圧力、期待インフレ、金融、海外情勢など幅広い情報を勘案する(変更なし)
 
(景気判断)
  • 労働市場は引き続き力強く、経済活動は緩やかなペースで拡大してきた(変更なし)
  • 最近数ヵ月を均せば雇用増加は底堅く、失業率は低位に留まった(変更なし)
  • 家計支出は緩やかなペースで伸びたが、民間設備投資と輸出は弱いままである。(家計支出の伸びに関する表現を「力強い」“strong”から「緩やかな」”moderate”に下方修正)
  • 前年比でみたインフレの総合指標、および、食料品とエネルギーを除いたインフレ指標は低下し、2%を下回っている(変更なし)
  • 市場が織り込む物価見通しは低位に留まっており、調査に基づく長期物価見通しはほとんど変化していない(変更なし)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 本日の会合で、政策金利を据え置くことにした。我々はいつものように、「最大の雇用」と「物価の安定」という議会が我々に与えた目標を達成する最善の方法の判断に基づいて決定を下した。
    • 我々は、金融政策が経済活動の持続的拡大、力強い労働市場、2%で対称的な目標に戻るのを支援することにより、米国民に貢献するための適切な位置にあると信じる。
    • 我々は現在の金融スタンスは、持続的な経済成長、力強い労働市場、インフレが我々の対称的な2%という目標に戻ることを支えるために適切であると考える。
    • もちろん、見通しを大きく見直すような動きがあれば、それに応じて対応する。政策はあらかじめ決められた経路を辿る訳ではない。
    • フェデラル・ファンド金利と短期金融市場の状況が全般的に安定したことを考慮し、フェデラル・ファンド金利が目標レンジ内で取引されることを確保するため、管理金利に若干の技術的な上方修正を行うことにした。この措置は短期金融市場が不安定であった9月に行われた小幅な下方修正を元に戻すものである。
    • 現在の予測によれば、基調的な準備水準は今年の第2四半期のいずれかの時点で十分な水準に達すると予想される。その時点が近づくにつれて、買い入れのペースを減速させ、レポを積極的に活用せずに、十分なレベルの準備を維持する、小規模な準備管理買い入れのプログラムに移行する予定だ。
 
  • 主な質疑応答
    • (声明文でインフレに関する記述が小幅に変更されたことについて)表現変更は誤った解釈がされることを防ぐため。委員会はインフレ率が対称的な2%の目標を持続的に下回ることを良しとしないことを示すために変更を行った。
    • (物価目標の見直しに関して、過去の下振れ分を今後の物価上振れで相殺するとの考え方について)政策フレームワーク見直しの背景として、世界的にインフレ率が低下している新常態、平坦なフィリップスカーブ、自然利子率の低下、などへの対応がある。現状では議論を続けており、今年半ばには結論を出したいと思っている。
    • (IOERを引き上げたことについて)IOERをフェデラル・ファンド金利の範囲に保つことが目的。IOERは範囲の下限から5ベーシス・ポイントや上限から5ベーシス・ポイントの水準ではいけない。
    • (コロナウイルスの影響)ここまでのウイルスの蔓延と、すでに課されている旅行制限、事業閉鎖により、中国および世界的に活動の混乱が生じる可能性がある。状況はまだ初期段階にあり、それがどこまで広がるのか、中国、その直接の貿易相手国や近隣諸国、そして世界中でマクロ経済的な影響がどのようなものになるのかは非常に不確実である。どのような影響が出るかを予測するのは時期尚早だ。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年01月30日「経済・金融フラッシュ」)

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