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国の破産も招きかねない韓国における家計債務の実態

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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OECD加盟国における家計債務の対可処分所得に対する比率を見ると、韓国は186.0%と、データが利用できるOECD加盟国の中で6番目に高く、日本の107.3%を大きく上回っている(図表1)。しかも、過去10年ほどの上昇率も他の国を上回っている。韓国政府がOECDにデータを提供し始めた2008年と直近2017年のデータを比較してみると、2008年から2017年の間の韓国の家計債務の増加率は29.8%で、スロバキアの57.9%に次いで2番目に高く、OECD加盟国の平均増加率2.4%を大きく上回っている。
債務が多いのは40代と自営業者の世帯及び高所得世帯
また全世帯を5等分した所得五分位階級別に見ると、所得が最も多い第V階級が44.8%、次に所得が多い第Ⅳ階級が24.9%で、所得上位40%の世帯が家計債務の69.7%を占めることが明らかになった。家計債務の内訳は、住宅購入などの住宅担保貸出が57.9%と最も多く、次いで賃貸保証金(27.2%)(家を借りる時にまとまった保証金を家主に預けると月々の家賃が免除される独特のシステム)、信用貸付(9.9%)の順であった。
債務増加の第一の原因:低金利
債務増加の第二の原因:住宅ローン貸し出し規制の緩和
その結果、家計債務が増え続け、不動産投機によって不動産価格が高騰すると、韓国政府は2017年6月に「6.19不動産対策」を発表し、2017年7月からLTVは既存の70%から60%に、DTIは既存の60%から50%に引き下げ、貸出審査を厳しくした。また、2017年8月には「8.2不動産対策」を発表し、「投機過熱地区」に指定された地域に対してはLTVとDTIの基準を40%に引き下げるなど貸出基準をより強化した。さらに、金融委員会は、DTIには反映されない信用貸出、自動車ローンなどすべての金融圏貸出の元利金返済能力を表す指標である「DSR」を2018年10月から銀行圏(一般銀行、地方銀行、特殊銀行)に導入し始めた。DSRとはDebt Service Ratioの頭文字で、債務返済額(元利金)が可処分所得に占める比率である。金融委員会は、DSRが70%を超える場合を「高リスク」と分類し、一般銀行の場合、新規貸出金額のうちDSRが70%を超える貸出は全貸出の15%以内、DSRが90%を超える貸出は全貸出の10%以内に制限するように勧告している。さらに、金融委員会は、2021年末までの平均DSRを、一般銀行は40%、地方銀行と特殊銀行は80%以内に下げる方針である。
このように、現在では貸し出し規制は厳格化されているが、過去の緩和期に増加した家計債務が依然として尾を引いている。
債務増加の第三の原因:早期退職者の自営業開業資金
金融危機の原因にもなりうる
1 本稿は、金 明中(2020)「曲がり角の韓国経済 第49回 政府の大きな悩み、増え続ける家計債務」2020年1月10日、東洋経済日報を修正・加筆したものである。
(2020年01月30日「基礎研レター」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
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