2020年01月29日

Z世代の情報処理と消費行動(1)-Z世代が歩んできた時代

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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1――若者とは誰のことか

「スノボー」、「カラオケ」、「アムラー」そして「タピオカ」と、いつの時代も流行の中心には若者がいる。変わりゆく消費文化の中で、その先頭にいたのはいつも「若者」であり、若者の消費を理解することは現代消費文化そのものの理解に繋がると筆者は考える。一概に若者といっても明確な定義はなく、例えば政府刊行物でいうと15~34歳を若者(内閣府政策統括官2005)と定義する時もあれば15~24歳(文部科学省、厚生労働省、内閣府2003)と定義されていることもある。発達心理学では、中学生から18歳までを「思春期」、18~30を「青年期」と定義したり、広告業界ではセグメンテーションとしてM1(20~34男性)F1(20~34女性)と消費者を分類したりすることもある。本レポートではZ世代を若者と位置づけ、今後シリーズにわたって、彼らの消費行動について考えを深めてみたいと思う。
 

2――Y世代(ミレニアルズ)とZ世代

2――Y世代(ミレニアルズ)とZ世代

Z世代に触れる前に、その生態の比較対象となるZ世代以前の若者について触れておきたい。Z世代以前の若者はY世代と呼ばれ1980~1995年の間に生まれた人々がこれに含まれる。彼らの多くは2000年代に成人を迎えていることから「ミレニアルズ」(millennial:千年紀の意)と呼ばれることもある。インターネットが普及した環境で育ったデジタルネイティブでもあり、他者の多様な価値観を受け入れ、仲間とのつながりを大切にする傾向があるとされている。併せてSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を使用していたさきがけの世代でもある。2002年のFriendsterの登場により本格的に普及したSNSは、2003年にはMySpaceやLinkedInが登場し、日本の一部ユーザーも利用していた。日本においては2004年にmixiが流行するとTwitter、Facebookと多様なサービスが提供されるようになり、Y世代は主に写真やブログを使用することで自身を表現し、共感を受けることで、自分らしさを構築していった世代であるといえる。彼らの、写真をSNSに投稿し「いいね!」をもらうという一連の行動も、デジタルネイティブ以前の人々からすると、Y世代もZ世代も同じような“今どき”の若者文化のように見えるかもしれないが、Z世代とY世代の価値観は大きく異なる。

Z世代は、1996~2012年の間に生まれた人々を指す。2018年の春に大卒で入社した若者がZ世代の1期生と言ったらイメージしやすいかもしれない。SNSに焦点を当てるとブロードバンド接続が整い始めた2005年頃のWeb 2.0と呼ばれる変革の中で動画共有サービスが次々と登場し、Z世代が中学生になる前にはTwitterやInstagramが存在しており、彼らは思春期を動画投稿中心にSNSを利用して過ごしている。そのため動画投稿やライブストリーミングによりSNS上に他人の経験(疑似体験)が溢れており、多くの点で、その消費や経験を自分でする必要があるか否かを考えて行動をとる傾向があるのである。
表1 Y世代とZ世代の違い

3――Z世代を飲み込んだ3つの波

3――Z世代を飲み込んだ3つの波

また、Z世代は社会変化に伴う3つの大きな波を経験している1。まず経済の波である。彼らが生まれたときにはバブルは崩壊しており「失われた20年」の真っただ中であった。2008年にリーマンショック、2011年には東日本大震災を経験しており日本経済の停滞期しか知らない世代でもある。「令和元年版高齢社会白書」の高齢年齢階層人口と現役年齢階層人口の比率をみると65歳以上人口と15~64歳人口の比率は、1950年には1人の65歳以上の者に対して12.1人の現役世代(15~64 歳)がいたのに対して、2020年には65歳以上の者1人に対して現役世代2.0人になっている(表2)。
表2 高齢年齢階層人口と現役年齢階層人口の比率
なお2065年には、65歳以上の者1人に対して1.3人で支える時代が到来すると予測されており、若者は漠然としたイメージながらも、明るい社会が待っていないことはわかっている。

また、電通若者研究部の「若者まるわかり調査2015」によると高校生の51.9%が受験や進学を、大学生の60.3%が就職について「不安」と感じている。このような短期的な不安と日本の社会そのものに対する長期的な不安をZ世代は抱えているといえる。

2つ目として教育制度の波が挙げられる。「詰め込み教育」と言われる知識量偏重型の教育方針を是正し、思考力を鍛える学習に重きを置いた経験重視型の教育方針を目指した“いわゆる”「ゆとり教育」が本格的に施行されたのが2002年から2010年であり、小中学校の学習内容が3割半減したり、完全週休2日制が導入されたりした時期でもある。円周率が3.14ではなく一時期「3」が用いられていたという話は教育関係者でなくとも聞いたことがあるかもしれない。この「ゆとり教育」の影響を最も受けたのはY世代である。しかし、Z世代もその名残である「絶対評価」の影響を大きく受けている。脱ゆとり教育に向け学習指導要領が改訂され、授業時間、授業内容ともに増加はしているが、「絶対評価」による成績判定を継続して導入されている学校も多いのである。そのためZ世代は小さいころから競うことではなく協調や助け合うことを身に着けてきた世代であるといえる。

3つ目として情報変化の波が挙げられる。2020年、世界のデジタルデータの年間生成量は40ZB(ゼダバイト)を越え、2025年には175ZBに到達すると予想されている。我々の馴染み深いGB(ギガバイト)で換算すると1ZB=1兆GBとなり175ZBが途方もない数字であることは言うまでもないだろう3,4,5
表3 デジタルデータの年間生成量予測
莫大な情報源の中でもSNSの担う役割は大きく変化し、Z世代はSNS漬けになっている日常が当たり前であると考えている世代なのである。SNSを通じた自己表現はY世代も行っていたが、特にInstagramにおいては文字ではなく画像や動画によって自身が発信されているため、自身の生活や嗜好が視覚化されていく特徴がある。A Picture Tells A Thousand Words(一枚の写真は一千語に匹敵する)という決まり文句があるように 、Z世代は日々の何でもない動画から異国で食した怪しい料理まで他人と共有することで、自分がどのような人間なのか発信しているのである。また、SNSがインフラ化したことで二重の意味で「切れなくなっている」こともSNS漬けになっている要因である。二重の意味とは(1)人間関係が途切れないということと(2)常時接続されていることを意味する。まず、(1)人間関係が途切れないという点であるが、SNSによって従来ライフステージごとで切れることの多かった人間関係が途切れにくくなったことが挙げられる。総務省の「平成29年情報通信白書」6によるとTwitterの利用率は10代で61.4%、20代で59.9%、Instagramは10代で30.7%、20代で45.2%であり、Z世代の多くは何らかのSNSを使用している。Z世代はSNSにおいて自身の実社会での交友関係に基づいて繋がる“本アカウント”と呼ばれるアカウントを保有し、ネット上で実社会における人間関係の延長線として交流する傾向がある。そのため、小学校や中学校などの旧友とSNS上で再び繋がり合うことも不思議ではない。

次に(2)常時接続されていると言う点に関してだが、mixiやFacebookは主にブログと呼ばれるネット上の日記や近況報告に対してコメントをすることでコミュニケーションがとられていたため、誰かが近況について更新しない限り新しい情報が入ってくることはなかった。しかしTwitterやInstagramなどは、実社会における人間関係と繋がるというよりかは、面識がなくとも興味がある情報を発信する人と繋がり、情報収集としての位置づけで使われることが一般的である。そのため常に新しい情報がタイムライン上に溢れ、情報の波が途切れることはないのである。
表4 3つの変化の波とそれに伴うZ世代への影響

4――まとめ

Z世代は、それ以前の若者と比較して特殊な時代を歩んでおり、それにより彼らの価値観や意識も特徴的である。次回は主に現代市場の側面からZ世代の消費に対するスタンスについて考察する。
表5 Z世代が生まれた頃の情勢
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

(2020年01月29日「基礎研レター」)

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