2020年01月29日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(2)-EIOPAの2019年報告書の概要報告-

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3―措置毎の国別の適用状況(適用会社及びSCR比率への影響等)-MA-

1|適用会社
MAについては、英国とスペインの34社が適用しており、これは前回の報告書から変化していない。会社は複数のマッチング調整ポートフォリオを保有することが認められており、各ポートフォリオは別々の承認を必要とする。これまでと同様に損害保険会社の適用はないが、事業会社別の内訳で、スペインの1社が生命保険会社から生損保兼営会社に移行している。

技術的準備金の市場シェアでは、EEA全体の15%であるが、英国国内では53%、スペイン国内では59%の会社が適用している。
MAの国別適用状況
さらに、MAとTTP(技術的準備金に関する移行措置)を併用している会社の技術的準備金の市場シェアでは、EEA全体の15%(英国の保険会社だけで13%)であるが、英国国内では50%、スペイン国内では 27%の市場シェアを有する会社が併用している。

英国では、MAを適用している19社のうち18社がTTPも適用しており、スペインでは15社のうち9社がTTPを適用している。
MAとTTPを併用している会社の国別状況
なお、MAの適用状況をグループで考えると、18グループが適用し、その国別内訳は、英国が11、スペインが6、オランダが1となっており、こちらの数は前年度に比べて英国で3減少している。
2|MA率の分布
MA率の分布は、以下の通りとなっている。

また、加重平均ベースでは、スペインで70bps、英国で116bps、EEA全体では106bpsとなっている。
図表 MA率の国別分布
3|SCR比率への影響
MAを適用しなかった場合のSCR比率は、英国では154%から58%に96%ポイント低下し、スペインででも238%から170%に68%ポイント低下する。
図表 MA適用によるSCR比率への影響
以下の図表は、MA適用した全ての会社のSCR比率に対するMAの非適用の影響を示している。 図中の各点は、個々のSCR比率をMA非適用の場合の推定SCR比率と比較した1つの会社を表している。各会社の種類は点の色で示される。SCR比率では、77%の会社が0%から100%の間の絶対的な影響を報告した。MAを適用している会社の56%が、MA非適用のSCR比率が100%を下回っていると報告した。また、MAを適用している会社の9%が、MA無しでSCRをカバーするための負の適格自己資本を報告した。
図表 MA非適用によるSCR比率への影響(会社別)
4|技術的準備金への影響
MA非適用による適用会社における技術的準備金への影響は、以下の通りであり、英国では3.9%、スペインでは4.7%増加する。
図表 MA非適用による技術的準備金への影響
5|会社毎の影響の分布
以下の図表は、MA非適用によるMCR、SCR、技術的準備金及び適格自己資本への会社毎の影響度合いの分布を示している。
図表 MA非適用による会社毎の影響の分布
6|会社の投資への影響
MA適用会社と非適用会社の国債と社債のポートフォリオの信用の質は以下の通りとなっている。これによれば、MAを適用している会社と適用していない会社との間で、債券の信用の質に若干の違いがあることが示されている。ただし、それ以上に「カントリー効果」の差異が大きく、スペインや英国でMAを適用している会社の部分集合は、MA非適用の保険会社とは異なる資産配分を行っている可能性があることから、この差異の因果関係を証明することはできない、としている。
MA適用会社と非適用会社の国債と社債のポートフォリオの信用の質
MA適用会社と非適用会社の国債と社債のポートフォリオの信用の質
また、以下の図表は、MA適用会社と非適用会社の国債と社債のデュレーションの差異を示している。
MA適用会社と非適用会社の国債と社債のデュレーションの差
7|商品や消費者への影響
次の図表は、各保険種類(1列から6列)、生命保険と生命再保険事業の合計(7列)、損害保険と再保険事業の合計(8列)について、MAを適用した会社の総収入保険料に対する割合を示している。
MA適用会社の収入保険料割合
スペインでMAを適用する保険会社によって提供される保険商品に関して、以下の特徴がNSA(監督当局)によって報告されている。

・商品の目的は老後のための貯蓄
・商品の保険義務はソルベンシーIIの商品種類の「その他の生命保険」に該当する。
・商品は終身年金または一時金を保証
・商品には保証利率がある。

英国では、MA適格負債は主に 「個人」 年金と 「一括購入」 年金から構成される。基本的なレベルでは、年金は、前払いの保険料支払いに対して、契約者に所得を支払う契約であるが、他の契約と同様に、この中核的なテーマの変形(例えば、場合によっては、所得の流れはインフレ指数に沿って増加する)がある。個人年金は、通常は退職時に個人の保険契約者に販売される。「一括購入」 年金は、一般に年金基金に販売される商品であり、年金基金の負債の一部または全部をカバーするために年金型資産を購入する。
 

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAの報告書に基づいて、ソルベンシーIIにおける欧州保険会社のLTG措置や株式リスク措置の適用状況とその財政状態に与える影響について、主として第3のセクションから、UFRの使用及びMAの適用状況について、その国別の適用会社数やSCR比率への影響等を報告してきた。

MAの適用は英国とスペインの2カ国の会社に限定されている。ただし、前回のレポートで報告したように、これら2カ国、特に英国の保険会社がMAの適用によって受けている影響は、VA適用会社全体に匹敵するものとなっており、これらの2カ国、特に英国におけるMAの位置付けの重要性が際立った形になっている。

次回の3回目のレポートでは、EIOPAの報告書の第3のセクションから、VA(ボラティリティ調整)の適用状況について、その国別の適用会社数やSCR比率への影響等を報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2020年01月29日「保険・年金フォーカス」)

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レポート紹介

【EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(2)-EIOPAの2019年報告書の概要報告-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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