2020年01月20日

韓国に経済危機は再来するか?

生活研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任   金 明中

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はじめに

最近、韓国経済が危ないというニュースが日本のマスコミなどから流れている。一部のマスコミでは1997年のアジア経済危機が再来する可能性が高いとまで報道している。実際、韓国経済はどうなっているのだろうか?
 

減少する輸出と伸びない経済成長率

減少する輸出と伸びない経済成長率

マスコミが韓国経済の危機説を報道している主な理由は、昨今、韓国経済の現状を表す経済指標が悪くなったからである。まず、経済成長率の見通しが段々低下している。国際通貨基金(IMF)は、10月15日に発表した世界経済見通し(World Economic Outlook)で、今年の韓国の経済成長率の見通しを4月の2.6%から2.0%へと下方修正した。韓国銀行(中央銀行)も11月29日に、2019年の経済成長率見通しを2%と発表した。今年7月時点の前回予想の2.2%を下回る数値である。国際通貨基金(IMF) や韓国銀行などが経済成長率の見通しを下方修正した理由は、米中貿易戦争の長期化によるグロバール経済の鈍化、最大輸出相手国である中国の景気鈍化、半導体市況の回復の遅れなどにより、韓国のGDPの大きな割合を占めている輸出が減少したからである。実際、韓国の輸出額は昨年の12月から今年の11月まで12カ月連続で前年同月を下回っている。輸出が前年同月に比べて12カ月連続で減少したのは2015年1月から2016年7月まで19カ月連続以降初めてのことである。11月の輸出実績を品目別に見ると、半導体(-30.8%)、ディスプレイ(-23.4%)、二次電池(-17.7%)、繊維(-12.3%)、石油化学(-19.0%)、石油製品(-19.0%)、船舶(-62.1%)の減少が目立つ。特に、輸出金額の20%以上を占めている半導体の輸出金額の減少が韓国経済に打撃を与えている(図表1)。
図表1 韓国の輸出金額に占める主要品目の割合
輸出の減少は経済成長率にもマイナスの影響を与えている。2019年第1四半期の経済成長率は対前期比マイナス0.4%と、世界金融危機だった2008年第4四半期の経済成長率がマイナス3.3%になって以降、およそ10年ぶりの最低値を記録した。民間および政府の消費支出は増加したものの、輸出は半導体をはじめとする主力製品の不振が続いた結果減少した。また、第2四半期と第3四半期の経済成長率もそれぞれ1.0%と0.4%に止まっており、第4四半期の実績が大きく改善されないと年間経済成長率2%すら達成することは難しい状況である(経済成長率はすべて実質、図表2)。
図表2 実質経済成長率(対前四半期比)の推移
経済成長率が公式に集計された1954年以降、年間経済成長率(実質)が2%を下回ったのは、凶作があった1956年(0.6%)、第2次オイルショックがあった1980年(-1.6%)、アジア経済危機があった1998年(-5.1%)、リーマンショックがあった2009年(0.8%)の4回のみで、2%を下回ることに対する韓国国内での心理的不安感は大きいと言える(図表3)。
図表3 実質経済成長率(対前年比)の推移

「セルコリア」、「エクソダスコリア」?

「セルコリア」、「エクソダスコリア」?

一方、韓国株式市場において、外国人投資家の韓国株の売りが続いたことや、外国人投資家の韓国国内への投資が2018年に比べて大きく減少したことで、韓国のメディアでは「セルコリア」や「エクソダスコリア」という見出しで、韓国からの資本の急速な引き上げと、韓国経済の危機を書き立てた。

外国人投資家の韓国株の売り越しは11月7日から12月5日まで、営業日基準で21日間続いた。この期間、外国人投資家の売り越し金額は5兆ウォンを超え、韓国総合株価指数も同期間に2,144から2,060まで3.92%下落した。このように外国人投資家の韓国株の売り越しが続いた主な理由としては、米中貿易摩擦が長期化している中で、アメリカが中国に対して12月15日に対中追加関税リストの発動を予定していたことで中国への輸出依存度が高い韓国経済がさらに悪化すると予想されたこと(幸い、米国通商代表部(USTR)が12月13日に、米国と中国が貿易交渉で第1段階の合意に達したと発表したことにより、対中追加関税リストの発動は見送ることになった)、香港事態と関連した不安感が拡大したこと、米朝関係の悪化により韓国の地政学リスクが高まったことなどが挙げられる。

さらに、外国人直接投資の金額は2018年の269億ドルから2019年第3四半期現在135億ドルまで大きく減少している。第4四半期に大きな投資が行われなければ前年を大きく下回ることが確かである(図表4)。ムーディーズが半導体、自動車、鉄鋼、通信、流通、石油精製、化学など主要業種の信用見通しを「否定的」と評価したことも、外国人投資家の韓国への投資減少に影響を与えている。では、本当に「セルコリア」や「エクソダスコリア」が発生し、1997年のような経済危機は再来するだろうか?
図表4対韓外国人直接投資の推移

韓国発の経済危機は起きるのだろうか?

韓国発の経済危機は起きるのだろうか?

確かに、最近、韓国の経済状況を表す経済指標はよくない。従って、韓国政府が適切な景気対策を緻密に行わないと1997年の経済危機が再来する可能性は十分ある。但し、その可能性はマスコミで騒ぐほど高くはないだろう。取引日基準で21日間続いた外国人投資家の韓国株の売り越しは止まり、韓国総合株価指数も12月27日現在、2,204まで回復している。そして、外国人投資家の対韓投資金額の減少が懸念されていたものの、この点はより長期的な観点から見る必要がある。つまり、上記の「対韓外国人直接投資の推移」を見ると、2018年の対韓投資金額が群を抜いて多かったことが分かる。特に、フランスや中国における2018年の対韓投資金額が大きく増加した(図表5)。
図表5 主要国の対韓投資金額の四半期別推移
そして、経済危機があった1997年と比べると、韓国経済は大きく成長した。サムスン電子、LG、SK、現代自動車など韓国を代表する企業が現れた。1997年に89億ドルにすぎなかった外貨準備高は、2018年時点で4,037億ドルまで増加した。また、1997年の経済危機の大きな要因であった短期対外債務の対外貨準備高比も1997年の286%から2019年には28%まで低下している。さらに、2019年第3四半期の失業率も3.3%まで改善(政府の財政投入拡大により公共事業の仕事が増えているものの)している。このような数値からは、確かに韓国経済は1997年に比べると、格段によくなっていると言える。現在、韓国における経済指標は確かによくないものの、世界経済が同時減速している点や韓国経済が1997年のアジア経済危機の時より質量ともに成長したことを考慮すると、韓国に経済危機が再来する可能性は低いと考えられる。

もっとも、油断はできないだろう。経済全般に関する構造改革を急がないと、経済危機に直面する可能性は高くなる。マスコミでは外国人投資家の韓国離れだけが報道されているが、実際には韓国企業や若者の韓国離れの方が深刻だ。韓国企業の韓国への投資金額の減少が強まる中で、韓国企業の海外への投資は増加傾向にある(図表6)。このままだと韓国政府の雇用創出政策は失敗に終わる可能性が高い。
図表6韓国企業の海外への直接投資の推移
また、若者の多くが国籍を放棄している。韓国における国籍放棄者(国籍離脱者や国籍喪失者の合計)は2018年現在33,593人で、2017年の21,269人に比べて1万人以上も増加した。日本の2,262人(2018年)を大きく上回る数値である。日本に比べて韓国の国籍放棄者が多い理由としては、1)海外への留学生数が日本より多いこと(2017年基準、韓国:239,824人、日本:66,000人)、2)日本より労働市場が狭く、就職することが難しいこと、3)男性の場合、兵役の義務があることなどが考えられる。

世界的に貿易の伸びが低下し、過去のような爆発的な経済成長は期待できないのが現状である。今後は2%前後の経済成長が続くという見通しが多い。今後、韓国政府が国の富を増やし、国民の生活の質を高めるためにどのような経済対策を実施するのか注目したい1
 
1 本稿は、ニューズウィーク日本版に掲載された 金 明中(2019)「韓国を読み解く:韓国に経済危機は再来するか?」2019年12月31日を修正・加筆したものである。https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2019/12/post-6.php 
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金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

(2020年01月20日「基礎研レター」)

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