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被用者の心身のストレス反応-働く目的、職場環境の影響

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
1――心身のストレスは、性・年齢・職業によって違いがある
その結果、6つの指標すべてでストレスが「ふつう~低」だったのは全体の3割弱であり、残る7割の被用者は、いずれかの指標でストレスが「高~やや高」だった。男性と若年で「抑うつ」「身体愁訴」、女性と中年層で「活気」が高いことの他、「不安感」「抑うつ」「身体愁訴」は、若年ほど高いこと、男性は職業や年収によってストレス状況が異なっていたが、女性は職業や年収による顕著な差は見られなかったこと等、性・年齢によって特徴があった。
基本属性別の特徴も重要だが、ストレス要因があった場合に、それをどのように受け止め、それがもたらす心身のストレス反応にどのような影響を及ぼすかは、会社の都合を優先したいのか家庭を優先したいのか、収入を得ることが目的なのかキャリアを積むことが目的なのか、休暇を取得できる職場なのか等、就労目的や職場環境でも異なると考えられる。
2――「心身のストレス反応」は、働く目的や職場の制度・風土の影響も受ける

今回の調査では、職業性ストレス簡易調査票と同じ質問項目のほか、就労に対する意識に関しての質問項目を多く含む。そこで、本稿では、「心身のストレス反応」を目的変数とし、(1)基本属性、(2)「ストレスの原因」や「周囲のサポート」のほか、(3)「就労についての考え方や職場の制度・風土」を説明変数とした重回帰分析を行った(図表1)。
目的変数である「心身のストレス反応」は、「職場ストレス簡易調査票」の結果から所定の算定方法に基づいて得点化した(点数が小さいほどストレスが高い)3。
説明変数は以下のとおりとした。(1)基本属性は、前稿の結果をふまえて、性4、年齢5、配偶関係6、職業7、本人年収8とした。(2)職場におけるストレスの状況として、「ストレスの原因」、および「周囲のサポート」面でのストレス度合を、「職場ストレス簡易調査票」の結果から所定の算定方法に基づいて得点化した(点数が小さいほどストレスが高い)9。さらに、(3)就労についての考え方や現状は、「働く目的」を「自己成長」「収入・世間体」「社会貢献」の3つの因子に、「働き方に対する考え方」を「権利重視 」「会社重視」「 家庭重視」「 キャリア重視」「 仕事負担回避」の5つの因子に、「職場の制度・風土」を、「制度充実」「業績で評価」「 帰宅風土」「 ハラスメント体質」の4つの因子に、それぞれ集約し、その結果を使った(因子得点が高いほどその志向が強い)。説明変数の詳細は、Appendixをご参照いただきたい。
3 「職場ストレス簡易調査票」の57項目の質問のうち29項目を使って、「心身のストレス反応」は、「活気」「イライラ感」「疲労感」「不安感」「抑うつ感」「身体愁訴」の6つの指標に整理することができる。6つの指標をそれぞれ所定の算定方法に基づいて得点化(ストレスが高い方から1~5点)し、その合計値を「心身のストレス反応得点」とする(ストレスが高い方から6~30点)。
5 18~64歳
6 未婚=1、既婚(配偶者有)=2、既婚(離別)=3、既婚(死別)=4
7 公務員=1、会社員=2、有期雇用(フルタイム)=3
8 300万円未満=1、300~700万円未満=2、700万円以上=3、わからない・答えたくない=4
9 「職場ストレス簡易調査票」の57項目の質問のうち17項目を使って、「ストレスの原因」は「心理的な仕事の負担(量)」「心理的な仕事の負担(質)」「自覚的な身体的負担度」「職場の対人関係でのストレス」「職場環境・風土によるストレス」「仕事のコントロール度」「技能の活用度」「仕事の適正度」「働きがい」の9つの指標に整理することができる。9つの指標はそれぞれ所定の算定方法に基づいて得点化(ストレスが高い方から1~最大5点)し、その合計値を「ストレスの要因得点」とする(ストレスが高い方から9~43点)。また、同調査の9項目を使って、「周囲のサポート」として「上司からのサポート」「同僚からのサポート」「家族・友人からのサポート」の3つの指標に整理することができる。それぞれ所定の算定方法に基づいて得点化し、その合計値を「周囲のサポート得点」とする(ストレスが高い方から3~15点)。

前稿において、若年で心身のストレス反応が全般的に高く、高年齢で全般的に低い等、年齢による差が大きかったことから、30歳未満と50歳代に分けて重回帰分析を行った。その結果、50歳代の心身のストレス反応は、全年齢計(図表2)と比べて、働く目的や職場制度・風土における多くの因子と関連していた。一方、30歳未満では、全年齢計や50歳代と比べて働く目的や働き方に対する考え方や職場制度・風土と関連する因子は少なかった。
3――まとめ
全年齢計の働く目的では、「仕事を通じて新たなことに挑戦したい」「キャリアや資格、能力を仕事に活かしたい」等、その仕事をすることに価値を見出している人ではストレスは相対的に低く、「人並みの生活ができるぐらいに収入を得たい」「働かないと家族に迷惑がかかる」等の「収入・世間体」を目的としている人ほどストレスは高かった。職場の制度・風土をみると、「制度充実」「業績で評価」でストレスは低く、「ハラスメント体質」の職場でストレスが高かった。
30歳未満と50歳代を比較すると、30歳未満は、心身のストレス反応に影響する要因は「ストレスの原因」や「周囲のサポート」の他、職場が「ハラスメント体質」かどうかに関連し、全年齢計と比べて、働く目的や職場制度・風土に影響されない傾向が見られた。一方、50歳代では、働く目的や職場の制度・風土にも影響される傾向があった。
心身のストレス反応の軽減には、ストレスの原因を減らすことや周囲のサポートを充実させること、ハラスメント体質の解消の他、仕事を単なる収入を得る手段というだけでなく、仕事に対する価値を見出せるよう働きかけること、業績で公平な評価を行うことや、両立支援制度等の職場の制度の充実等が有効と考えられる。若年は、全年齢計と比べて働く目的や職場の制度・風土との関連が低かったことから、全年齢計と比べてよりストレスの原因を減らすことや周囲のサポートを充実することに力を入れることが肝要である可能性がある。
Appendix――「働く目的」「働き方に対する考え方」「職場制度・風土」の因子分析結果
(2019年12月17日「基礎研レポート」)

03-3512-1783
- 【職歴】
2003年 ニッセイ基礎研究所入社
村松 容子のレポート
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