2019年11月11日

入院の短期化-平均在院期間短期化の背景には何があるのか?

保険研究部 主席研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任   篠原 拓也

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1――はじめに

入院は、医療の主要な部分を占めている。急性期の患者や重篤な患者に対して医療を行なう場合は、入院医療が前提となる。患者が入院することによって、さまざまな診療を効率的に行うことができる。入院医療の質が、退院後の患者の回復や社会復帰を左右するといっても過言ではない。それとともに、財政面からみても、入院医療が国民医療費に与える影響は大きい1

本稿では、図表データをもとに、日本の入院の状況についてみていくこととしたい。
 
1 平成29年度の国民医療費43.1兆円のうち、入院医療費は16.2兆円(構成割合37.6%)を占めている。そのあとに、入院外医療費14.6兆円(33.9%)、薬局調剤医療費7.8兆円(18.1%)、歯科診療医療費2.9兆円(6.7%)などが続いている。(「平成29年度 国民医療費の概況」(厚生労働省)より))
 

2――入院の動向

2――入院の動向

まず、日本の入院の動向をみていく。患者の入院日数総計は、(1)入院患者が新たにどれだけ発生するか、(2)入院患者が何日入院するか、の2つの要素に分解できる。それぞれ、みてみよう。
1平均在院期間の短期化により繰越入院が減っており、入院受療率は低下
入院患者の動向は、「患者調査」(厚生労働省)でみることができる。

(1)の新入院(調査日に新たに入院した患者)は、徐々に増加している。2017年に、新入院の受療率は人口10万人当たり44人となっている。その背景には、人口の高齢化の影響があるものとみられる。

一方、(2)の入院から退院までの平均在院期間は短期化している。退院患者平均在院日数1をみると、2017年には30日を下回っている。これは、繰越入院(調査日以前から引き続き入院している患者)の大幅な減少につながっている。2017年に、繰越入院の受療率は、人口10万人当たり992人となっている。

この結果、新入院と繰越入院の合計での入院受療率は徐々に低下しており、2017年には人口10万人当たり1,036人となっている。
図表1. 入院受療率(人口10万人当たりの入院患者数)と平均在院期間の推移
 
1 図表1では、退院患者平均在院日数の推移を折れ線グラフで表示している。これは、第2節の図表2でいう入院患者の平均入院日数とは、算定方法が異なっている。なお第3章以降では、平均在院期間として退院患者平均在院日数をみていく。
2国際的にみると、日本の平均在院期間は突出して長い
平均在院期間を、国際的にみるとどうなっているだろうか。平均入院日数3を、諸外国と比較してみよう。OECDの統計データをもとに比較すると、つぎの図のとおりとなった。日本は、諸外国と比べて平均在院期間が突出して長いことがわかる。
図表2. 入院患者の平均入院日数
 
3 厳密には、前節や次章以下でいう退院患者平均在院日数とは算定方法が異なる。
 

3――入院期間短期化の構造

3――入院期間短期化の構造

平均在院期間は、徐々に短期化している。その構造や背景についてみてみよう。
1平均在院期間は、男性の中高齢、女性の超高齢で大幅に減少
2002~2017年の間の変化をもとに年齢層ごとの違いをみると、男女とも、高齢になればなるほど退院患者平均在院日数は長くなる傾向がある。入院患者の高齢化は、平均在院期間の長期化につながってくる。

また、男女別には44歳以下の若齢・中齢層では女性のほうが短い一方、75歳以上の高齢層では女性のほうが長い。これは、女性のほうが男性よりも平均寿命と健康寿命の差の年数が長いことと整合的であると考えられる。この結果、全年齢でも、女性のほうが平均在院期間が長くなっている。

つぎに、年齢ごとにみていく。まず男性をみると、各年齢層とも日数は減少している。特に、45-54歳、55-64歳、65-74歳の中高齢層で、減少が大きい結果となっている。つづいて女性をみると、全年齢では、男性よりも減少幅が小さい。年齢層別には、65-74歳や85歳-の高齢・超高齢層で大きく減少している。特に、超高齢の女性患者で、平均在院期間の短期化が著しいことがうかがえる。
図表3. 退院患者平均在院日数(男女・年齢層別)
2平均在院期間は、診療報酬制度の影響を受けている部分もある
一般に、入院医療は、公的医療保険制度の対象となる。このため、この保険医療費のルールである診療報酬制度の影響を受ける。診療報酬制度上、入院医療費は、医療施設の基本的な入院医療の体制を評価した「入院基本料」に、入院環境の整備状況等に応じたさまざまな加算が上乗せされて設定される。平均在院期間に影響を与えそうな要素として、平均在院日数要件と、初期加算がある。

(1) 平均在院日数要件
入院基本料には、病院の病棟や診療所ごとにいくつかの種類がある4。ここでは、病院の一般病棟のケースをみていこう。従来、入院患者何人に1人の割合で看護職員が配置されているかをもとに、7対1、10対1、13対1、15対1等に分けて設定されてきた5。入院1日当たりの入院基本料は、7対1は15,910円。10対1は13,320円。13対1は11,210円。15対1は9,600円などとされている6。この設定には平均在院日数要件があり、7対1は18日以内。10対1は21日以内。13対1は24日以内。15対1は60日以内であることとされている。通常、各病院は、入院基本料を確保するために、この要件を強く意識するものとみられる。
 
4 病院は、一般病棟、療養病棟、結核病棟、精神病棟、特定機能病院(一般病棟、結核病棟、精神病棟)、専門病院、障害者施設等。診療所は、有床診療所、有床診療所療養病床に対して、それぞれ入院基本料が設定されている。
5 2018年の診療報酬制度改定では、7対1は急性期一般入院料1。10対1は、急性期一般入院料2~7。13対1は、地域一般入院料1~2。15対1は地域一般入院料3に細分されている。
6 10対1は急性期一般入院料7、13対1は地域一般入院料2の場合の金額。
(2) 初期加算
病院の一般病棟や精神病棟、特定機能病院、専門病院等では、入院初期の患者について初期加算が行われる。病院の一般病棟の場合、加算額は、1~14日は入院1日当たり4,500円。15~30日は1,920円とされている。各病院は、初期加算を上乗せするために、これらの日数も意識することとなる。

ちなみに、退職患者の入院日数別の分布をみると、70%が14日以内の入院となっている。
図表4. 入院日数別の分布割合
3高齢化が進むと平均在院期間が下げ止まる可能性がある
病気の種類ごとに、平均在院期間の変化をみてみよう。

平均在院期間が50日を超えている病気では、精神及び行動の障害が、やや短期化してはいるものの280日程度と長い。脳血管疾患は短期化が進んで80日程度となっている。これに対して、アルツハイマー病は、250日程度でほぼ横這いで推移している。今後、アルツハイマー病等の認知症患者が増加するにつれて、疾病全体の平均在院期間に影響を与える可能性がある。
図表5-1. 疾病種類ごとの平均在院期間(50日超)/図表5-2. 疾病種類ごとの平均在院期間(50日以下)
つづいて、平均在院期間が50日以下の主な病気をみていこう。おおむね、どの病気も平均在院期間は短期化の傾向にある。特に、悪性新生物については、この15年間で、大幅な短期化となっている。診断技術の向上によるがんの早期発見や、内視鏡手術、抗がん剤などの効果的な治療法の導入により、入院が短期化していることが考えられる。

なお、比較的高齢者に多い消化器系の病気や、高血圧症、糖尿病、関節症などの病気は、短期化傾向にはあるものの、平均在院期間が30日を超えている。今後、高齢化の進展とともに、これらの病気の患者が増加すると、疾病全体の平均在院期間が下げ止まる可能性がある。
4退院後の行き先は、自宅が減る一方、介護施設への入居が増加
退院するためには、退院後の行き先も重要な要素となる。ここで、退院した患者の行き先について、みてみよう。図をみると、8割を超える退院患者が家庭に移っているが、その割合は、徐々に低下しつつある。一方、介護老人保健施設や介護老人福祉施設などの介護施設に入居するケースは徐々に増えている。人口の高齢化とともに入院患者も高齢化しており、退院のためには、在宅療養の体制整備、介護施設等の拡充などが重要となるものとみられる。
図表6. 退院患者の退院後の行き先割合(推移)

4――おわりに (私見)

4――おわりに (私見)

本稿では、図表をもとに、日本の入院の状況をみていった。在院期間は短期化してきているが、人口の高齢化の動きを反映して、入院患者の年齢分布や、病気の種類が変化しつつあるものとみられる。

その結果、高齢層の認知症や、フレイル(加齢により心身が老い衰えた状態)に伴う入院など、入院は多様化している。また、患者が退院後に移り住む先を整備することも重要なポイントとなる。

現在、国と地方は、地域医療構想の実施に向けた準備を進めている。患者のQOLに配慮しつつ、入院期間を短期化して、入院医療費の抑制を図る取組みには、紆余曲折が予想される。

その進展状況について、引き続き注意していくこととしたい。
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保険研究部   主席研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

(2019年11月11日「基礎研レター」)

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