2019年11月07日

J-REIT市場の収益見通し。今後5年で分配金6%成長を見込む~シナリオ別の分配金レンジは▲2%~+14%の見通し~

金融研究部 不動産調査室長   岩佐 浩人

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賃貸マンションはテナント入替時の賃料が直近1年で4%上昇
これまで賃貸マンションは良くも悪くも賃料のアップサイドが期待できない資産として認識されてきた。しかし、最近は都市部への継続的な人口流入を背景に賃料が上昇している。リーシング・マネジメント・コンサルティングによると、東京都心5区に所在する賃貸マンションの募集賃料(月坪)は上昇基調にあり、リーマンショック後に付けたボトムからの上昇率は5区平均で24%に達する(図表―9)。こうした賃料の上昇はJ-REITが保有する賃貸マンションでも確認することができる。住宅系REIT主要5社の開示資料によると、テナント入替時の賃料変動率は各社とも右肩上がりで推移し、直近1年間の上昇率は5社平均で+4%となった(図表―10)。エリア別では都心部に近いほど、住居タイプ別では住居面積の大きい物件ほど上昇率が高い傾向にある。そこで、こうした市場動向を勘案し一定の前提条件(稿末に記載)のもと、テナント入替時に4%の賃料上昇(賃料ギャップ▲4%)を想定することとする。
[図表-9] 賃貸マンションの募集賃料(東京都心5区)
[図表-10] 賃貸マンションのテナント入替時の賃料変動率(住宅系REIT主要5社)
借入利率の変動によるDPS寄与度(今後5年間)は、メインシナリオでゼロ(4%~+4)の見通し
FRBが7月から10月にかけて3会合連続で利下げを発表し、ECBも9月理事会で追加緩和と量的緩和再開を決定するなど世界は再び金融緩和局面に突入している。国内においても10年国債利回りが一時、日銀の設定する下限(マイナス0.2%)を下回って推移するなど極めて低い金利環境にある。こうしたなか、J-REIT各社は引き続き好条件でデット資金を調達できている。2019年(1~9月)にJ-REITが発行した投資法人債の平均利率は0.46%(期間7.4年)で、現在のJ-REIT全体の負債利子率(融資関連費用を含む)が0.79%のため、今後も金融コストの低減が期待できる(図表―11)。
[図表-11] :負債利子率、10年国債利回り、投資法人債利率の推移
ところで、ニッセイ基礎研究所の中期経済見通し2によると、「日銀は現行の金融緩和を長期にわたって続けざるを得ず、10年国債利回りは米長期金利の持ち直しが波及することで若干上昇するが、超低金利が長期間にわたって継続する(メインシナリオ)」としている(図表―12)。この金利見通し「メイン、景気楽観、景気悲観」を利用して、一定の前提条件(稿末に記載)のもと借入利率の変動に伴うDPSへの寄与度(今後5年間)を計算した。結果は、メインシナリオで0%、景気楽観(金利上昇)で▲4%、景気悲観(金利低下)で+4%となった。メインシナリオでは、当面は借入利率の低下がDPSにプラス寄与するもののその後は緩やかな金利上昇を受けて5年間ではゼロとなった。また、金利がさらに低下するシナリオではDPSに4%プラスに寄与する一方で、金利が早期に上昇するシナリオでは4%マイナスに寄与する結果となった。
[図表-12] 10年国債利回りの見通し(2018年度~2023年度)
取得利回りの低下が続くものの、外部成長はDPSにプラス寄与する見通し
J-REITによる物件取得(外部成長)は、2013年に2.3兆円と過去最高を記録しその後も高い水準(1.3兆円~1.8兆円)を維持している(図表―13)。2019年(1-9月)の取得額は1.2兆円(前年同期比▲25%)と昨年を下回るものの、概ね例年並みの水準を確保できている。一方で、取得利回りは一段と低下しており、2016年以降、既存ポートフォリオの利回りを下回る水準での取得が続く。

そこで、現在の取得環境を踏まえて、今後の外部成長について以下のシナリオを想定しDPSへの寄与度(今後5年間)を計算した(毎年1.5兆円取得、取得利回り4.4%、借入比率50%、増資PBR1.5倍3、借入利率:メインシナリオの金利)。結果は、取得利回りが既存ポート利回り(5.0%)を下回るもののプレミアム増資(高PBR)の効果によりDPSを2%押し上げる見通し4である。しかし、プレミアム増資はREIT価格の水準に大きく依存することに留意したい。
[図表-13] :Jリートによる物件取得額と取得利回り
 
3 9月末の市場平均PBR(株価純資産倍率)は1.6倍である。
4 取得利回りの低下に伴う総資産利益利率(ROA)の悪化を、プレミアム増資に伴う1口当たり純資産(BPS)の上昇が補うことでDPSにプラス寄与する。
DPS成長率(今後5年間)はメインシナリオで+6%(▲2%~+14%)の見通し
最後に、上記で想定した各種シナリオを組み合わせることでDPS成長率(今後5年間)を試算した(図表―14)。オフィス賃料(標準)と金利(メインシナリオ)を組み合わせた場合、DPS成長率は+6%(年率+1.2%)となり増配基調を維持する結果となった(内訳は内部成長で+4%、外部成長で+2%、財務で0%)。また、オフィス賃料上振れ(楽観)と金利低下(景気悲観)を組み合わせた場合、DPS成長率は+14%(年率+2.8%)と最も高くなる。一方で、オフィス賃料下振れ(悲観)と金利上昇(景気楽観)を組み合わせた場合、DPS成長率は▲2%(年率▲0.4%)となり、DPSは2023年から下落に向かう結果となった。
[図表-14] :今後5年間のDPS見通し(2019年上期=100)

4――おわりに

4――おわりに

本稿では、現在の環境下において各種シナリオを想定し今後5年間のDPS成長率を試算した。最も悪いシナリオでもDPS成長率は▲2%にとどまり、引き続き安定した業績推移が期待できそうだ。もっとも、DPSの成長ドライバーは保有物件の収益拡大(内部成長)に依存し、物件取得(外部成長)や借入利率低下(財務)によるDPSへの貢献は限定的となる見通しである(メインシナリオ)。そのため、内部成長に関してテナントの賃料負担力に上限があるとするならば、市場全体のDPS水準は自ずと天井に近づきつつあると言える5

現在、J-REIT市場は業績の安定成長が評価されて株式の代替投資先として資金が流入しているが、投資家は株式とは異なるJ-REIT特有のDPSの天井にも注意を払う必要があると思われる。
主な前提条件
 
5 一般に、J-REITは利益全額を分配するため(内部留保率=0%)、内部投資のみで実現できるサスティナブル成長率(=株主資本利益率×内部留保率」は0%である。
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

(2019年11月07日「基礎研レポート」)

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