コラム
2019年08月02日

現代消費文化を覗く-あなたの知らないオタクの世界(5)

生活研究部 研究員   廣瀨 涼

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1.オタクという記号

今回で5回目の「オタク」関連記事であるが、筆者は、まだオタクに対する明確な定義を書いていない。書いてないというより、書けないといった方が正しいかもしれない。筆者は10年以上オタクに関する研究をしているが、定義づけが不可能だと結論付けている。その理由は「オタク」という語彙が担う意味がその生態のみならず、オタクを取り巻く現象や文化までを含むようになったからだ。

実際に「おたく」という言葉が登場した1980年頃はアニメやSFなど限られた領域の人たちをオタクと呼んでいた。しかし今では、こだわりの強さを表す言葉として幅広く定着し、「マニア」、「コレクター」とほぼ同義として使われるようになった。また同時に「萌え」ブームが新たにオタクに「萌え」という要素を付与させ我々の中のオタクのイメージが再構成された。その結果「オタク的な」モノ、ヒトを含む諸領域を全般的に「オタク」と表すようになったため、オタク研究自体も多様化し、対象も複雑化していったのである。筆者は、オタク自体が記号化したが、その意味するものは刻々と変容し続けていると考えている

2.オタクごっこ

ところで“シミュラークル”という言葉を聞いたことはあるだろうか。シミュラークルとは、簡単に言うと「コピーとしてのみ存在し、実体をもたない記号のことである」。秋葉原の観光地化によりアキバは以前のようなオタクが中心の街ではなくなった1。しかし観光客はオタクっぽいものを求めるため、オタク風の施設が乱立するオタク文化のシミュラークルが生まれている。記号化された「アキバ」「オタク」はそれ自身が価値を持つようになり、オタクの存在の有無と関係なく「秋葉原」を成り立たせようとしているのである。これは秋葉原がテーマパーク化したという紛れもない事実である。そして「オタク」という現象が独り歩きした証拠でもある。これは、オタクの容姿、生態、文化が一般人に知られたことでオタクそのものが「記号化」し、消費対象になったからであるといえる2。ゲームセンターのUFOキャッチャーを想像してほしい。いかにもネタとして「オタク的消費(オタクごっこ)」をしている層が、露出度の高い萌え系のフィギュアを獲得するために躍起になっている。いわばオタクの神聖領域であり、唯一の特権であった社会的に異色の目で見られた美少女系キャ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ラクター・・・・は「ネタ」として社会から容認され、皮肉にもそれがオタクの領域を侵略している。

我々がよくイメージしがちな、バンダナにネルシャツ、ケミカルウォッシュのジーンズにポスターのはみ出たリュックサックを身に着けているような、容姿に気を配らないオタクは、すべてのオタクに適用できるわけではない。オタクにも社交的、活動的で人との交流を好むものもいる。多種多様なオタクのそれぞれの特徴的な点が蓄積されて生まれたのが、我々の中にイメージとして存在する「オタク」であり、そのイメージこそが記号化した「オタク」であるといえる。
 
1 森川嘉一郎(2012)「メディアが起した“アキバブーム”が秋葉原を変えた」『日刊SPA! 2012年7月9日』
2 矢部謙太郎(2009)『消費社会と現代人の生活 分析ツールとしてのボードリヤール』学文社

3.ベンツに乗っている人は金持ちだ

実際かどうかは別として、ベンツを持っている人は裕福なんだろうな、というイメージを持つのは筆者だけではないだろう。街で「タピってる(タピオカドリンクを飲む)」若者を見ると流行に敏感なんだな、って思うだろう。現代の消費文化は、モノの使用価値ではなく、そのモノに付与された社会的な意味による他人との差別化の側面が強くなっている。ブランド物のバッグや時計を何万円も出して買うことをイメージすればわかりやすい話である。もしくは記号消費を通して自分が仲間になりたい、流行に遅れたくないと、集団への所属を示すこともある。若者が「みんなが持ってるから買って!」というのは、まさにこの一側面で、記号を通して他人と繋がりを持とうとするわけだ。

ここまでを整理すると
「我々はモノを購入する際に、そのモノが持つ記号・・(ブランド)が欲しいわけであり、さらに掘り下げるとその記号の持つ社会的意味・・・・・を求めている」と言える3
 
3 白石哲郎(2010)「顕示的消費とシミュラークル 記号消費論の一断面」『佛教大学大学院紀要社会学研究科篇』,38,pp.1-18

4.オタクというブランド

オタクが記号化し消費対象となった背景には、このようにオタクという言葉、イメージが持つ意味を消費することで、他人との差別化、もしくは帰属化、承認されることが目的であると筆者は考えている。「オタクのブランド化」とでも言おうか。このブランドとなった・・・・・・・・オタクを消費している層が俗に言う「にわかファン」や「ライトオタク」4,5と呼ばれる消者層であると筆者は考えている。「ライトオタク」という言葉も実態よりもイメージが先行される。理由はオタク自体も実態がなく、オタクのイメージを纏うことでライトオタクが成立するからである。いわばライトオタクはオタクのシミュラークルといえるかもしれない。

では、なぜ「オタクという記号(ブランド)」を消費するのか。筆者は、彼らがオタクになりたいという欲求をもっていると考えている。より厳密に言うと、彼らは「どのようにすれば他人からオタクとして見てもらえるか」と考えており、自身がオタクであると認識される手段として、オタクという記号(ブランド)を消費している。ではなぜ彼らはオタクになる必要があるのだろうか。また、なぜ彼らは「ライト」なのだろうか。「キャラ化」「他のオタクからの承認」「島宇宙化」の3つの視点から考えていく。(続)
 
4 コンテンツを好んで消費するものの、その消費のあり方がこれまでのオタクに比べて極めて“軽い(light)” 人々を揶揄する言葉
5 Baudrillard, Jean. (1970) La société de consummation
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廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

(2019年08月02日「研究員の眼」)

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