- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 経済予測・経済見通し >
- 中期経済見通し(2018~2028年度)
中期経済見通し(2018~2028年度)

経済研究部 経済研究部
このレポートの関連カテゴリ
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
5. 代替シナリオ
楽観シナリオでは、米中貿易摩擦の緩和を受けてメインシナリオに比べ世界経済が順調に回復する。米中貿易協議の進展によって双方は追加関税を打ち切り、米国は鉄鋼・アルミニウム製品に課した追加関税も撤廃を表明する。時限措置となっている個人所得税減税の恒久化等を含む税制改革の成立により、米国経済は高成長を維持する。加えて、インフラ投資の拡大に伴う生産性向上から潜在成長率が上昇する。2020年大統領選挙ではトランプ大統領が再選を果たし、拡張的な財政政策が続くことで今後10年間の平均成長率は2.3%とメインシナリオ(1.9%)を上回る。
中国は「中国製造2025」や「インターネット+」に関連する投資の活発化、中間所得層の増加に伴うサービス消費の拡大など内需主導の経済成長へと転換していき、景気減速を回避する。今後10年間の経済成長率は7.0%前後を維持する。日本は潜在成長率を上回る経済成長が続き、米国の順調な利上げを受けて円安が進むことも追い風となるため、消費者物価は日本銀行の見通しを上回るペースで上昇する。2020年度に2%に到達し、その後も安定的に2%程度の伸びを維持する。なお、消費税率引き上げの前提はメインシナリオと同じとしている。
(悲観シナリオ)
悲観シナリオは、米中貿易摩擦の激化、世界的な保護主義政策の広がりなどから世界経済が低迷を続ける。米中双方の追加関税対象は貿易額全体に及び、米国は輸入車への高関税措置を発動する。これを受けて、世界的に保護主義政策が広がる。貿易摩擦が激化していくことで米国経済の成長率は低下し、2020年大統領選挙ではトランプ大統領は落選する。民主党大統領が関税策の一部を解除するものの、財政政策では増税や個人所得減税の見直しなど緊縮的な政策を実施するため、その後も低成長が続き、今後10年間の平均成長率は1.1%とメインシナリオ(1.9%)を下回る。
中国は米中貿易摩擦の激化や工場の海外流出の加速による輸出の鈍化、国際競争力低下による都市化ペースの減速などにより、経済成長率は今後3.1%と過去10年平均(7.9%)の半分以下にまで低下する。米国の自動車関税賦課や世界経済の低迷を受けて、ユーロ圏、日本は外需が落ち込み、今後10年間の平均成長率はメインシナリオの半分程度に低下する。米国が2019年には利下げに転換することで為替レートは2019年度に1ドル100円を割り込み、2020年度に90円台まで円高ドル安が進む。日本の消費者物価上昇率は2019年度にマイナスに転じるなど低インフレが続き、今後10年間の平均で0.5%にとどまる。2019年度の消費税率引き上げは実施されるが、景気低迷、デフレ基調が継続することからその後は消費税率が据え置かれることを想定した。

メインシナリオの財政収支見通しでは、予測期間末の2028年度までに基礎的財政収支の黒字化は達成されないとしている。楽観シナリオでは、名目GDP成長率が今後10年間の平均で2.7%とメインシナリオよりも0.7%高いため、消費税率が12%に引き上げられる2025年度には基礎的財政収支の黒字化が実現する。ただし、利払い費(ネット)を含む財政収支は予測期間末でも赤字で、メインシナリオに比べて金利の上昇スピードが速いため、基礎的財政収支と財政収支の差はメインシナリオよりも大きくなる。国・地方の債務残高のGDP比を低下させるためには、基礎的財政収支の黒字幅をさらに拡大させることが必要となる。
悲観シナリオでは名目成長率の低迷に伴う税収の伸び悩みが続くことに加え、消費税率が10%で据え置かれることから基礎的財政収支の赤字は拡大傾向が続く。この場合には財政破綻のリスクが高くなるだろう。
(シナリオ別の金融市場見通し)
楽観シナリオでは、米国をはじめとする各国景気が順調に回復するため、メインシナリオと比べて、米国の利上げペースは加速し、利上げ停止の時期も遅れる。ユーロ圏の政策金利引き上げ開始も2019年に前倒しとなる。日本も物価上昇率が順調に高まり、2020年度には物価上昇率が2%に達するため、量的緩和の終了、マイナス金利政策の終了、無担保コールレート誘導目標の復活は同年度に前倒しされ、長期金利誘導目標もその時点で廃止となる。その後、2021年度からは段階的な利上げが実施されることになる。
日本の長期金利は、日銀の誘導目標下にある2019年度までは低位で推移するが、2020年度以降は出口戦略の進展や利上げの段階的な実施、投資家のリスク選好、海外金利の大幅な上昇を受けて、メインシナリオよりも早期かつ大幅に上昇していくことになる。
ドル円レートについては、米国経済の回復加速と急ピッチの利上げに伴う日米金利差拡大が大幅なドル高に繋がり、2020年度には1ドル122円まで円安ドル高が進む。その後は米国の利上げ打ち止めと日銀の利上げ継続を受けて円高ドル安基調に転じるが、期間を通じたリスク選好地合いや日本の期待インフレ率が高水準に保たれることなどから、予測期間終盤にかけてメインシナリオよりも円安ドル高水準での推移となる。
ユーロドルについては、ユーロの金融政策正常化が急ピッチで進むうえ、ユーロの信認が高まることから、メインシナリオよりも若干ユーロ高となり、予測期間末には1ユーロ1.35ドルまで水準を切り上げる。既述の通り、ドル円ではメインシナリオよりも円安ドル高となるため、ユーロ円でも大幅な円安ユーロ高となる。
日本の長期金利は、日銀が円高進行と中立金利低下への対応として、予測期間序盤に長期金利誘導目標をやや引き下げることで低下し、中盤にかけて過去最低レベルとなる▲0.3%で推移する。予測期間終盤には、長期金利を大幅なマイナス圏に据え置くことによる副作用への配慮から、金利水準がやや引き上げられるが、小幅なマイナス圏での推移となる。
ドル円レートについては、米景気の失速によって大幅な利下げが実施されること、世界的に市場がリスク回避的になることから、予測期間序盤に急速な円高ドル安が進行、2020年度にかけて1ドル90円まで円高が進む。以降は米金利がやや持ち直すことでドルが底入れするが、予測期間末にかけて1ドル90円をやや上回る程度の円高水準が続く。
ユーロドルレートに関しては、景気失速に伴う出口戦略の開始取りやめや政治リスクの上昇からユーロ安圧力が強まり、予測期間序盤に1ユーロ1.06ドルまで低下する。その後、独長期金利の底入れに伴ってユーロがやや持ち直すが、1.10ドル弱での低迷が続く。既述の通り、ドル円ではメインシナリオよりも円高ドル安が進むため、ユーロ円では序盤に1ユーロ95円、その後も100円程度の大幅な円高ユーロ安水準に留まり、主要先進国通貨では円が独歩高の構図になる。
(2018年10月12日「Weekly エコノミスト・レター」)
このレポートの関連カテゴリ
関連レポート
- 中期経済見通し(2017~2027年度)
- 2018・2019年度経済見通し-18年4-6月期GDP2次速報後改定
- 米国経済の見通し-減税、拡張的な財政政策などから当面は堅調見通しも、通商政策や中間選挙動向が不安要因
- 欧州経済見通し-景気拡大持続でも内憂外患
- 中国経済見通し-18年下期は6.3%前後へ減速、米中貿易戦争が激化すればさらなる下振れも
- 【アジア・新興国】東南アジアの経済見通し~貿易摩擦の過熱で下振れリスクが強まるも、底堅い成長を維持
- インド経済見通し~公共投資と農村部の回復で7%台半ばの成長を維持
- オーストラリア経済の見通し-1-3月期GDPは前期比1.0%増。18年以降は成長が加速
- ブラジル経済の見通し-4-6月期GDPは停滞感が見られる。18年は低成長が続く見通し
- ロシア経済の見通し-1-3月期GDPは前年比1.3%増。当面は1%台の低成長が継続と予想
経済研究部
経済研究部
経済研究部のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/10/11 | 中期経済見通し(2024~2034年度) | 経済研究部 | Weekly エコノミスト・レター |
2023/10/12 | 中期経済見通し(2023~2033年度) | 経済研究部 | Weekly エコノミスト・レター |
2022/12/20 | Medium-Term Economic Outlook (FY2022 to FY2032)(October 2022) | 経済研究部 | Weekly エコノミスト・レター |
2022/10/12 | 中期経済見通し(2022~2032年度) | 経済研究部 | Weekly エコノミスト・レター |
新着記事
-
2025年05月01日
日本を米国車が走りまわる日-掃除機は「でかくてがさつ」から脱却- -
2025年05月01日
米個人所得・消費支出(25年3月)-個人消費(前月比)が上振れする一方、PCE価格指数(前月比)は総合、コアともに横這い -
2025年05月01日
米GDP(25年1-3月期)-前期比年率▲0.3%と22年1-3月期以来のマイナス、市場予想も下回る -
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【中期経済見通し(2018~2028年度)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
中期経済見通し(2018~2028年度)のレポート Topへ