2017年11月08日

中期経済見通し(2017~2027年度)

基礎研REPORT(冊子版)11月号

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―先進国の低インフレが継続

世界経済は緩やかな回復が続いている。世界の実質GDP成長率は2010年の5%台をピークに減速を続け、2016年には3%台前半となったが、2017年は3%台半ばまで持ち直すことが見込まれている。日米欧では潜在成長率を上回る成長が続いたことで、世界金融危機以降、大幅なマイナスが続いていたGDPギャップは大きく縮小し、日本ではすでにプラスに転じているとみられる。

景気が堅調に推移する一方で、賃金、物価の伸びは依然として低い。米国はすでに利上げ局面に入っており、ユーロ圏も量的緩和の縮小に向かっているが、物価上昇率はインフレ目標に達していない。労働需給の引き締まりが続く中でも賃金、物価上昇率が高まらないという状態は、デフレに苦しんできた日本だけでなく、先進国共通の現象となりつつある。

先行きの世界経済を展望すると、予測期間前半の2020年頃にかけては中国以外の新興国の持ち直しを主因として世界の経済成長率は4%近くまで回復するだろう。しかし、その後はすでに生産年齢人口が減少に転じている中国の成長率低下を受けて、新興国全体の成長率も鈍化し、予測期間末(2027年)には世界の成長率も3%台半ばまで減速することが予想される。

2―日本経済の見通し

1|消費低迷の主因
日本経済は2016年1-3月期以降、6四半期連続でプラス成長を記録するなど着実な回復を続けているが、個人消費の伸びは緩やかなものにとどまっている。

消費低迷の理由として、家計の節約志向や将来不安に伴う過剰貯蓄が挙げられることも多いが、これは消費停滞の主因ではない。家計消費支出と可処分所得の関係をみると、両者はもともと連動性が高かったが、2000年頃から消費支出の伸びが可処分所得の伸びを上回る傾向が強まっている。この点は家計の貯蓄率が長期にわたり低下傾向が続き、足もとでほぼゼロ%となっていることと整合的である。貯蓄率ゼロ%は可処分所得を全て消費していることを意味する。消費低迷の主因は可処分所得の伸び悩みにあると考えられる。

2015年度の家計の可処分所得は295.6兆円で、現行統計で遡ることが可能な1994年度の301.6兆円よりも6.0兆円少ない。その主因は超低金利の長期化によって利子所得(純)が急減したことから財産所得(純)が1994年度の35.0兆円から24.9兆円へと10.1兆円減少したことだ[図表1]。
図表1:家計の可処分所得(純)の増減要因
国全体の可処分所得(国民可処分所得)は1994年度の397.2兆円から2015年度の428.9兆円まで31.7兆円増えているが、そのほとんどは企業によるもので、企業(非金融法人)の可処分所得は約20年間で38.0兆円増加している。内訳を見ると、本業で上げた利益に相当する営業余剰はピーク時(2006年度)の水準を依然として下回っているが、超低金利の長期化に伴う支払利子の大幅減少や対外資産からの利子、配当の増加が財産所得(純)の改善をもたらしている。非金融法人の財産所得(純)は1994年度の▲29.6兆円から2015年度には▲4.8兆円とマイナス幅が24.8兆円縮小している。

企業部門は貯蓄の拡大傾向が続く一方、設備投資の伸びが限定的にとどまっているため、貯蓄超過の状態が恒常化している。企業に滞留する余剰資金を家計部門に還元することが個人消費回復の近道だろう。
2|人口減少に過度の悲観は不要
人口はすでに減少局面に入っており、このことが経済成長率の低迷をもたらしているとの見方は根強い。しかし、国全体の経済成長率を大きく左右するのは人口増加率よりも一人当たりGDPの伸び率のほうである。

日本の人口は2008年をピークに10年近く減少傾向が続いているが、減少ペースは今のところ年率▲0.1%程度にすぎない。国立社会保障・人口問題研究所が5年毎に公表している「日本の将来推計人口」を振り返ってみると、約10年前の2006年時点では、2016年の人口減少ペースは年率▲0.4%程度が見込まれていた(中位推計、以下同じ)。しかし、実際には当時の想定に比べ死亡率が低めに推移していること、外国人居住者が予想以上に増えていることなどから、想定よりも上振れている。

かつて、将来推計人口は改定のたびに下方修正されることが常だったが、出生率の上方修正、死亡率の下方修正を反映し、2006年推計を底に2012年推計、2017年推計と2回連続で上方修正された[図表2]。最新の「将来推計人口」(2017年4月公表)では、今回の予測期間末の2027年時点の人口減少ペースは年率▲0.5%となっているが、実際の減少ペースはそれよりも緩やかにとどまる可能性もある。少なくとも今後10年程度は、人口減少による経済成長への悪影響を過度に悲観する必要はないだろう。
図表2:将来推計人口の推移(中位推計)
日本は少子・高齢化が急速に進展しているため、人口以上に労働力が減少し経済成長の制約要因になるとの見方もある。確かに生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに20年にわたって減少を続けており、団塊世代が65歳を迎えた2012年以降は減少ペースが加速している。しかし、生産年齢人口の減少が労働力人口の減少に直結するわけではない。労働力人口は生産年齢人口に含まれない65歳以上の人がどれだけ働くかによっても左右されるためだ。

労働力人口は1990年代後半から減少傾向が続いてきたが、2013年からは4年連続で増加し、2017年も増加が確実となっている。15歳以上人口の減少、高齢化の進展が労働力人口の押し下げ要因となっているが、女性、高齢者を中心とした年齢階級別の労働力率の大幅上昇がそれを打ち消す形となっている。少なくとも現時点では労働力人口の減少が経済を下押しする形とはなっていない。
3|潜在成長率は1%弱まで回復
1980年代には4%台であった日本の潜在成長率は、バブル崩壊後の1990年代初頭から急速に低下し、1990年代終わり頃には1%を割り込む水準にまで低下した。2002年以降の戦後最長の景気回復局面では一時1%を上回る局面もあったが、世界金融危機による急激な落ち込みにからほぼゼロ%となった後、徐々に持ち直し、足もとでは0.8%となっている(当研究所の推計値)。

先行きの潜在成長率は、好調な企業収益を背景に設備投資が底堅く推移することから資本ストックのプラス寄与が拡大することを主因として、東京オリンピックが開催される2020年度頃には1%台前半まで伸びを高める可能性が高い。その後は人口減少ペースの加速に伴い労働投入量の伸びが小幅なマイナスに転じるため、1%を若干割り込む水準まで緩やかに低下するだろう。
4|今後10年間の平均成長率は1.0%
今後10年間の日本経済を展望すると、2019年10月には消費税率の引き上げ(8%→10%)が予定されているが、軽減税率の導入で景気への悪影響が緩和されること、2020年度に向けて東京オリンピック・パラリンピック開催に伴う押し上げ効果も期待できることから、景気の落ち込みは回避されそうだ。

東京オリンピック開催による実質GDPの押し上げ幅は2014年度から2020年度までの7年間の累計で2%弱(約10兆円)、成長率の押し上げ幅は年平均0.2~0.3%程度と試算している。東京オリンピック開催翌年の2021年度、消費税率の再引き上げ(10%→12%)が想定される2024年度には成長率がいったん低下するものの、2026年度までの平均成長率は1.0%となり、過去10年平均の0.5%から伸びが高まると予想する[図表3]。
図表3:実質GDP成長率の推移
人口減少下で経済成長率を高めるためには、女性、高齢者の労働参加拡大を中心とした供給力の向上と、高齢化に対応した潜在的な需要の掘り起こしを同時に進めることが重要と考えられる。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2017年11月08日「基礎研マンスリー」)

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