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中小企業の「2025年問題」~根深い事業承継問題~

中村 洋介
1――はじめに

1 2017年10月12日 未来投資会議構造改革徹底推進会合(第1回、平成29年10月12日) 資料http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/suishinkaigo2018/chusho/dai1/siryou1.pdf
2 2025年までに経営者が70歳を越える法人の31%、個人事業者の65%が廃業すると仮定。雇用者は2009年から2014年までの間に廃業した中小企業で雇用されていた従業員数の平均値(5.13人)、付加価値は2011年度における法人・個人事業主1者あたりの付加価値をそれぞれ使用(法人:6,065万円、個人:526万円)。
2――中小企業の事業承継を取り巻く現状
また、同アンケートで「後継者は決めていないが、事業は継続したい」と回答した経営者の多くが後継者探索・確保を障害・課題と感じている。しかしながら、そう感じていてもその準備・対策に取組む経営者は少ない(図表6)。日々の経営で精一杯、または何から始めたら良いのか分からないといったことも背景にあるのだろう。後継者を決定して終わりではなく、後継者の育成、承継準備にも時間がかかることを考えると、承継のハードルは年々上がっていくことになる。
3――生産性向上に繋げられるか
事業承継を考える経営者・中小企業は、早めに課題に着手する必要がある。仮に後継者が見つかったとしても、後継者の育成やその準備に数年かかることも多い。M&Aによる株式譲渡、事業譲渡等を考えるにも、実際にM&Aが成立するまでには時間がかかる。買い手がすぐに見つかるとは限らないし、買い手候補が見つかったとしても、企業価値算定・デューデリジェンス・条件交渉(譲渡価格、今後の経営方針、従業員の処遇等)には一定の時間を要する。売り手の時間に余裕がなければ、足もとを見られて買い手ペースで交渉を進めなくてはならないこともあろう。また、所在不明株主が存在する場合には、買い手が嫌がって条件で譲歩せざるを得ないケースもある。そうした所在不明株主の整理等にも時間を要する点には留意が必要だ。また、M&Aによる承継が増えてきたとはいえ、小規模・零細事業者のM&Aの担い手はまだまだ少なく、小規模・零細になるほどハードルも高い。このように、事業承継には時間がかかり、早めの着手が求められるものの、実際には何から手をつけて良いか分からない経営者も多い。地域金融機関、地方自治体、商工会・商工会議所等の支援組織の一層の啓蒙・支援活動に期待したい。
また、親族内承継であっても、親族外承継であっても、如何に企業の魅力を高められるかが重要だ。中小企業庁の「経営者のための事業承継マニュアル」4の中でも、事業承継に向けた経営改善、会社の「磨き上げ」の重要性が強く指摘されている。後継者候補に是非継ぎたいと思わせるように、他の企業から是非買いたい、その事業が欲しいと言われるように、企業の魅力を高めていく必要がある。
継続的に利益を出して成長し、雇用の受け皿となるような魅力や可能性のある中小企業が、後継者がいないという理由で廃業に追い込まれるのは余りに惜しい。事業承継で経営者としてチャレンジしたいという人材を増やしていく必要がある。イノベーション推進・ベンチャー支援策にも共通する点だが、日本はリスクをとって起業等にチャレンジする人が少ないことが長らく指摘されてきた。アントレプレナーシップ(起業家精神)を育む起業家教育や、承継後間もない経営者への支援策、ロールモデルの提示等の更なる推進が必要だろう。
アベノミクスで景況感が改善したものの、中小企業は新たな経営課題に直面している。深刻化する人手不足が中小企業を悩ませている。また、小売や生産の現場等、様々な領域でデジタル化が急速に進もうとしている。今後、IT人材に乏しく、積極的なIT投資に手を打てない中小企業が、競争力を失う可能性もある。後継者がなかなか見つからない状況下、中核人材獲得や生産性向上を果たせず競争力に乏しくなった中小企業の退出(廃業)が一定程度増えていくことは避けられないだろう。ネガティブな話題が先行する事業承継問題だが、むしろこれを契機に、廃業、再編、経営者の若返り等を通じて、産業や経済の新陳代謝を進めていくことも求められる。活力ある中小企業が次々と登場し、日本経済、地方経済を盛り上げていくことが出来るだろうか。今後の展開を見守りたい。
4 中小企業庁 経営者のための事業承継マニュアル http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2017/170410shoukei.pdf
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2018年07月19日「基礎研レター」)
中村 洋介
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