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コラム
2021年07月06日
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1――スタートアップとの連携に前向きな事業会社が増加
日本のスタートアップを巡る環境は、ここ数年で大きく改善してきた。2012年末の第2次安倍政権発足以降、日本銀行による大規模な金融緩和等を受けて、株価は大きく上昇し、景況感が回復する中で、新規上場(IPO)も増加した。スタートアップへの投資妙味が大きく増したことで、ベンチャーキャピタル(VC)等による投資資金の流入は拡大基調をたどった。政府が成長戦略の一環としてスタートアップ支援に注力してきたことも支援材料となった。

新型コロナウイルス感染症の影響で、事業環境の悪化から事業会社の前向きな姿勢が変化し、その投資額が大きく減少することが懸念されたが、2020年の投資額を見る限りは底堅さを見せている。投資や提携先を厳選したり、より慎重に検討するようになった企業もあるだろうが、デジタルシフトの加速等、社会経済が大きく変化を見せる中で、イノベーション創出の重要性が改めて認識された結果とも言えるだろう。また、一時は株価が急落し、新規上場の申請取り下げが相次いだものの、その後株価は大きく上昇し、新規上場数も堅調に推移した。市場環境が大幅に悪化すると、VC等の投資資金の流入が急減し、スタートアップの資金調達が難しくなる。資金調達ができないと、事業の継続や拡大が難しくなり、資本参加や提携を行う事業会社としても失敗するリスクが高くなる。リーマンショックの時と違い、市場やスタートアップの資金調達の環境が大崩れしなかったことも、事業会社の前向きな姿勢をサポートする材料となっただろう。
2――事業会社の本気度が問われる局面
ここ数年、事業会社が競うようにスタートアップとの連携を増やしてきたが、こうした取り組みはすぐに成果が出るわけではなく、長期的な視点で継続的に取り組むことが求められる。新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、事業環境の先行き不透明感が続く中、それでもこの取り組みを継続し、定着させていくのか、まさに各社の本気度が問われる局面と言えるだろう。
なぜスタートアップと連携するのか、連携によって何を目指すのか、といったことをしっかりと見定めた上で、環境の変化に左右されずに長期目線でじっくりと取り組むと腹を決められているか。単に「お試し期間」、「意欲ある社員による課外活動」といった中途半端な位置付けに終わっていないか。CVCで投資したスタートアップの技術やサービスを、本体の事業部に繋いで実用化を進めていくプロセス、仕組みを整える等、スタートアップとの連携を上手に経営の中に組み込めているか。今後、軸足ぶれずに前向きに取り組みを継続できる事業会社と、結果が出ない中で意義や目的を見失って取り組みが尻すぼみになってしまう事業会社に二極化していく可能性もあるだろう。
なぜスタートアップと連携するのか、連携によって何を目指すのか、といったことをしっかりと見定めた上で、環境の変化に左右されずに長期目線でじっくりと取り組むと腹を決められているか。単に「お試し期間」、「意欲ある社員による課外活動」といった中途半端な位置付けに終わっていないか。CVCで投資したスタートアップの技術やサービスを、本体の事業部に繋いで実用化を進めていくプロセス、仕組みを整える等、スタートアップとの連携を上手に経営の中に組み込めているか。今後、軸足ぶれずに前向きに取り組みを継続できる事業会社と、結果が出ない中で意義や目的を見失って取り組みが尻すぼみになってしまう事業会社に二極化していく可能性もあるだろう。


なお、公正取引委員会は、この実態調査の結果を取りまとめた報告書で、独占禁止法が禁止する「優越的地位の濫用」等の問題となり得る行為が見られると指摘し、独占禁止法に違反する行為に対しては厳正に対処していく方針を示した。また、問題行為の未然防止に向けては、公正取引委員会と経済産業省が連名で、問題事例や独占禁止法上の考え方を整理したガイドラインを策定し、公表した。事業会社、スタートアップの双方が、これまで以上に良好な関係を築く契機となることが期待される。
3――おわりに
日本の事業会社によるスタートアップとの連携が一過性のブームに終わることなく定着し、イノベーションが次々と創出されるようになれば、日本のスタートアップ・エコシステムの底上げに繋がるだけでなく、ポストコロナの経済成長、社会変革にも資するだろう。新型コロナウイルス感染症の影響が長期化する中でも、長期目線で軸足ぶれずにスタートアップとの連携に取り組む事業会社が一層増えていくことに期待したい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年07月06日「研究員の眼」)
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