コラム
2018年12月12日

増えるベンチャーとの連携、大企業によるアクセラレータプログラム

中村 洋介

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1――ベンチャーとの連携に動く大企業

日本の大企業とベンチャーの連携が増えている。AI・IoT等の革新的な技術が登場する中で、オープンイノベーションへの関心・需要が高まっていること等が背景にある。ベンチャー関連のイベントはどこも盛況で、大企業の担当者らしき方々が、熱心に情報収集している姿が見られる。大企業がベンチャーと協業(共同研究等)、資本提携(出資)することも増えた。そして、ベンチャー投資専門組織であるコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)の設立も多く見られている1。大企業各社が、ベンチャーとの接点を増やし、我先に有望な先を見つけようと動いている。
 
1 大企業によるCVC設立動向については、拙稿「大企業のコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)~大企業によるオープンイノベーション~(2018年7月5日)」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=59010?site=nliも参照されたい。

2――増加するコーポレートアクセラレータプログラム

【図表1】日本の大企業によるアクセラレータプログラムの一例 こうした中、有望ベンチャー企業を発掘し、囲い込むための1つの方策として、日本の大企業によるアクセラレータプログラムの実施事例が増えている(図表1)。ほんの一例を挙げたが、業種も、製造業、金融、鉄道、メディア等と幅広い。

アクセラレータプログラムとは、募集をかけた中から選抜したベンチャー企業に対して、出資のほか、一定期間にわたる経営支援プログラムを提供し、その事業成長を加速させる(accelerate)取組みである。こうしたプログラムのはしりとして、2005年に活動を開始した米国の投資家(アクセラレータ)、Y Combinatorが有名だ。民泊のAirbnb等を育てたことで知られている。同社の成功もあって、同様のプログラムを行う投資家が日本を含む各国で登場したほか、大企業も有望ベンチャーの発掘等にその手法を取り入れる事例が見られてきた。
【図表2】日本の大企業によるプログラム運営(例) 日本の大企業によるアクセラレータプログラムの典型的な例(図表2)では、経営支援プログラムとして、大企業の内部人材や外部専門家による経営指導、大企業の資産やリソースの提供(オフィススペース、設備・店舗等の活用による実証実験環境等)を行っている。一定期間のプログラム終了後には、デモデイと呼ばれる最終発表会を開催し、プログラム参加ベンチャーがプレゼンテーション(売り込み)を行う。ベンチャー投資家やメディア関係者を招待して、対外的にも成果を「お披露目」することが多い。プログラムに参加しているベンチャーの中で有望な先に対しては、出資や提携等を実施する。(一方、投資家/アクセラレータによるプログラムは、選抜したベンチャー全てに出資してプログラムを実施することが主流である。)

参加するベンチャー側のメリットとしては、大企業の資産やリソースを活用できること、事業に精通した人材によるメンタリングを受けられること、大企業に選抜されたという信用を得られること等が挙げられる。デモデイで他の投資家の目に止まれば、更なる出資・事業拡大に繋がる可能性もある。

大企業側のニーズも高いことから、Creww株式会社、株式会社ゼロワンブースター(いずれも東京都)のように、プログラム運営を支援する企業も登場し、活動を広げている。ベンチャーとの接点が少なくノウハウの乏しい大企業でも、こうした運営支援企業と組むことで、アクセラレータプログラムに取り組めるようになってきた。

3――大企業とベンチャーの連携が一層増えていくことに期待

プログラム運営を通じて、有望ベンチャーの発掘だけでなく、ベンチャーとの連携に積極的だというイメージも打ち出せる。また、社内の多くの部署、人が関与して運営していく中で、ベンチャーに理解のある人材を増やし、ベンチャーとの連携に前向きな機運を社内に醸成することも出来る。

一方、大企業だけでなく、投資家や地方自治体のアクセラレータプログラムも増えている。ベンチャーにとってのメリットを打ち出し、差別化していかないと有望なベンチャーが集まらない。プログラムへの参加が、必ずしも出資や提携に結びつくわけではなく、メリットのないプログラムは力のあるベンチャーには見向きもされない。また、プログラム参加者の不満の声が、ベンチャー・コミュニティ内で共有化されてしまい、ベンチャー側から組むのを敬遠されてしまうこともあるだろう。

また、売上や利益の規模が大きい大企業が満足するようなシナジーを、創業間もないベンチャーが即座に生み出せるわけではない。プログラム終了後も、ベンチャーの成長を見守り、関係を続けていく中で、やっとシナジーが見えてくることもあろう。時間がかかる取組みだという認識が必要だ。

得てしてこのようなイベントは、開催そのものが目的化してしまいがちである。参加するベンチャーにとって魅力的になるようプログラムの質的向上を進めていくと同時に、「長期目線」で有望なベンチャーを発掘し、積極的に接点を構築する中で、ベンチャーとWin-Winなるような連携を生み出していこうという気概が必要だろう。

日本のベンチャー・エコシステムの更なる発展には、大企業とベンチャーの連携が質、量ともに充実していくことが欠かせない。大企業の取組みが一層広がっていくことに期待したい。
 
 

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(2018年12月12日「研究員の眼」)

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