2017年11月01日

資本コストから見たPBR効果2~リーマン・ショック以降、なぜ効果が見られにくくなったのか~

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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5――リーマン・ショック前後で残余利益の成長度合いに違いが

では、株式のリターンを「①業績の寄与」、「②成長の寄与」、「③バリュエーションの変化」に分解し、リーマン・ショック前後で(式5)の低PBR銘柄と高PBR銘柄の3つの差がどのように変化したのかをみていきます。
株式のリターン
3つの差の平均値(【図表4】)をみると、「①業績の寄与」と「③バリュエーションの変化」の差の傾向は、ショック前後で変わっていないことが分かります。「①業績の寄与」の差はマイナスでしたが、「③バリュエーションの変化」の差はプラスでした。PBR効果は、バリュエーション変化の違いで生じているといえるでしょう。その一方で「②成長の寄与」の差は、ショックまではプラスでありPBR効果を押し上げていましたが、ショック以降はマイナスでPBR効果を阻害していました(赤点線部分)。この「②成長の寄与」の差の変化が、PBR効果が著しく低下した主な要因であるといえます。
【図表4】 低PBR銘柄と高PBR銘柄の年次平均リターン差の分解
【図表5】 低PBR銘柄と高PBR銘柄の「②成長寄与」の推移
「②成長の寄与」の差の変化を詳しくみるため、年度(本稿では当年6月から翌年5月までとします)ごとに「②成長の寄与」の推移(【図表5】)をみたいと思います。2007年度以前では低PBR銘柄と高PBR銘柄の差の平均値はプラスでしたが、低PBR銘柄が高PBR銘柄を安定して上回っていたわけではありませんでした(黄色線)。それでも11年のうち5年は、低PBR銘柄が優位で差がプラスになっていました。

特に、2000年から7年間続いたバリュー相場のうち4年(2001、2002、2003、2006年度)は、「②成長の寄与」の差がPBR効果を押し上げていました。PBR効果が継続してあらわれるには、成長面での後押しも必要なのかもしれません。PBR効果の主要因である「バリュエーションの変化」は、低PBR銘柄と高PBR銘柄の差が広がれば広がるほど低PBR銘柄の相対的な割安感が消失するため、長続きしにくいためです。

その一方で2008年度以降だと、「②成長の寄与」の差がプラスだったのは2008年度と2013年度の2年だけでした。「②成長の寄与」の差は、多くの年でPBR効果を薄めていたことが分かります。成長面での追い風が少なかったため、PBR効果があらわれても短命で終わり、PBR効果も低下したといえるでしょう。

では、なぜリーマン・ショック以降は低PBR銘柄の「②成長の寄与」が高PBR銘柄と比べて小さい傾向になったのでしょうか。「②成長の寄与」を(式6)の残余利益の成長度合と感応度に分けて、その要因を考えたいと思います。
「成長の寄与」の残余利益の成長度合と感応度の要因
まず、2009年度以降に高PBR銘柄が低PBP銘柄に比べて安定して利益成長していることが挙げられます。低PBR銘柄は2011年度や2015年度はマイナス成長になっていましたが、高PBR銘柄は残余利益の成長具合が2009年度以降は一貫してプラス成長でした【図表6】。

それに加えて、高PBR銘柄の方が低PBR銘柄と比べて資本コストと成長率の差が小さく、感応度が大きいことも挙げられます(【図表7】)。ともに残余利益が成長していても、感応度の大きい高PBR銘柄の方が、株価は相対的に上昇しやすいためです。特に2012年以降、資本コストと成長率の差が高PBR銘柄のみ低下したため、感応度が相対的に大きくなっていました。アベノミクス相場が始まってからPBRが見られにくかった背景には、高PBR銘柄の利益成長をより好感するように市場が変化していたこともあったといえるでしょう。
【図表6】 期初株価に対する残余利益の成長度合の推移
【図表7】 資本コストと成長率の差(r-g)の推移
リーマン・ショック以降、「②成長の寄与」の差がプラスの年が減りマイナスの年が増えてきていることと、その理由について確認してきました。前章(【図表3】左下)でみてきたように、高PBR銘柄は低PBR銘柄と比べて、高い利益成長が期待されています。そのことを踏まえると、2009年度以降の高PBR銘柄が低PBR銘柄と比べて「②成長の寄与」が大きい傾向になっている方が、自然なのかもしれません。逆に「③バリュエーションの変化」だけでなく「②成長の寄与」も低PBR銘柄の方が優位だったリーマン・ショックまでが、特殊であった可能性もあるといえるのではないでしょうか。
 

6――最後に

6――最後に

PBR効果はいつ復活するのでしょうか。

現在、日本企業の業績拡大が続いていることを踏まえると、高PBR銘柄の業績拡大に急ブレーキがかかることは考えにくい状況です。2016年のようにバリュエーション調整によって低PBR銘柄の株価が反発しても、それに追随して利益成長を織り込む過程で高PBR銘柄の株価も徐々に切り上がっていくことが想定されます。そのため、PBR効果の復活は当面ないのではないでしょうか。

また復活したとしても、リーマン・ショックまでのように低PBR銘柄の利益成長に伴う株価上昇が高PBR銘柄と比べて大きくなるとは限らないため、以前のような顕著な効果は期待しないほうが賢明なのかもしれません。
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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

(2017年11月01日「基礎研レポート」)

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