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金融政策の超長期国債金利への影響について考える-金融政策による超長期国債金利の押し下げ効果の測定

金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹
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第3項は、日本のマクロ経済予想との関係を示しており、実質GDP成長率予想が1%上昇するとスプレッドが0.033%拡大することを意味している。ただし、係数は有意ではない。
第4項と第5項は、日本国債金利(10年物)のときと同様に、物価の安定目標の導入による時間軸効果を示すものである。オーバーシュート型コミットメントの導入前は、2%と期待インフレ率の差が1%広がるとスプレッドが0.005%拡大し、導入後は0.200%縮小することを意味している。ただし、オーバーシュート型コミットメント導入前の係数は有意ではないが、導入後の係数が有意になっている点に注意が必要である。
第6項と第7項は、日本銀行による国債買入がスプレッドに与える影響を見ることを目的としている。日本銀行の全体に占める国債保有比率について、残存7年超の国債保有割合よりも残存1年以上7年未満の国債保有割合が1%上昇するとスプレッドが0.033%拡大し、残存1年以上3年未満と残存15年超の国債保有割合よりも残存3年以上15年未満の国債保有割合が1%上昇すると0.005%拡大することを意味している3。
第8項と第9項は、マイナス金利政策のみの場合と、YCCを組み合わせた場合の金融政策の効果とその違いを見ることを目的としたものである。マイナス金利政策の導入により0.309%縮小したが、YCCの導入によって0.337%(= 0.309%+0.028%)拡大したことが分かる。
3 これらの残存年限の区切りは「主成分分析の観点から見た日本国債金利と米国債金利の連動性-アベノミクス下のイールドカーブの変化を振り返る」における主成分分析の結果(傾きファクターと曲率ファクター)に基づいている。
これらの分析結果は、日本国債金利(10年物)とスプレッドにおける物価の安定目標やマイナス金利政策の導入効果の影響が、YCCとオーバーシュート型コミットメントの導入によって変容したことを示唆している。具体的には、日本国債金利(10年物)はYCC導入により0.283%低下し、2%と期待インフレ率の差分との連動性が失われた一方で、スプレッドはYCC導入後に0.337%拡大して、2%と期待インフレ率の差との連動性が新たに生じている。
これらの現象は次のように解釈できるものと考えられる。第1に、日本国債金利(20年物)はYCCの導入効果によって、全体的に0.054%(0.337%-0.283%)上昇しているが、スプレッドはマイナス金利政策によって低下した分をおおよそ回復している。一方で、日本国債金利(10年物)はマイナス金利政策の効果を維持しており、さらにYCCの導入によって押し下げられている。
第2に、YCCとオーバーシュート型コミットメントの導入までは、日本国債金利(10年物)が物価の安定目標に関する情報を織り込んでいたことで、日本国債金利(20年物)は期待インフレ率と連動していた。しかし、YCCの導入によって日本国債金利(10年物)がゼロ%周辺を推移するようになったことで、日本国債金利(10年物)と期待インフレ率の連動性が失われた。その一方で、スプレッドが期待インフレ率と連動するようになり、物価の安定目標に関する情報を織り込むように変容したことで、日本国債金利(20年物)は全体で見ると、引き続き物価の安定目標の情報を織り込んでおり、期待インフレ率と連動している状況が維持されているということである。
3――金融政策による押し下げ効果の測定

この分析に基づくと、包括緩和政策の期間(2010年10月末~2013年3月末)において、日本国債金利(10年物)はすでに0.538%押し下げられていたことになる。さらに、量的・質的金融緩和政策の導入によって、押し下げ効果はさらに大きくなり、2017年9月末時点でモデル値よりも1.262%押し下げられている。よって、量的・質的金融緩和政策以降の押し下げ効果は0.724%(= 1.262%-0.538%)で、その内訳が、日本銀行による国債買入よる押し下げ効果の0.532%、物価の安定目標による押し上げ効果の0.250%、マイナス金利政策とYCCの組み合わせによる押し下げ効果の0.442%ということになる4。
4 「金融政策の10年国債金利への影響を振り返る-金融政策による金利の押し下げ効果の測定」の結果と乖離がある。これは、本項の分析により、マイナス金利政策とYCCによる押し下げ効果の一部が、物価の安定目標による押し上げ効果として分解されたためである。
(2017年10月16日「基礎研レポート」)

03-3512-1848
- 【職歴】
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
2021年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)
【著書】
成城大学経済研究所 研究報告No.88
『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
出版社:成城大学経済研究所
発行年月:2020年02月
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