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プレミアムフライデーと休日の格差-新しい格差が広がらないようにより慎重な働き方改革の実施を!-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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3――プレミアムフライデーは休日の格差を広げるのか?
株式会社DeNAトラベルが2017年1月11日から15日の間に実施した調査結果3によると、プレミアムフライデーを導入しているか、導入を予定している企業の割合は調査時点で2.2%に留まっている。導入予定が無い企業が55.0%にも達しており、「わからない」と答えた割合も39.5%を占めている。
プレミアムフライデーがまだ企業に浸透していないことが分かる。そこで、プレミアムフライデーをより普及させ労働時間の短縮や消費の改善につなげるためには、税金や社会保険料の負担増加により大きく伸びていない家計の手取り収入(可処分所得)を増やす政策を展開することが大事である。大企業の場合は増え続けている内部留保(企業の利益の蓄積分)を賃金に回すことを検討すべきである。例えば、2015年度の労働分配率(企業の利益のうち、労働者の取り分)は66.1%(財務省の法人企業統計)で、2007年度(65.8%)以来、低い水準になっていることに比べて、同年度の企業の内部留保は377兆円で4年連続で過去最高を更新している4。将来、労働力不足が懸念されていることを考えると、内部留保を増やす政策だけではなく、優秀な人材を確保し、より長く働ける環境を構築する政策を実施することも重要であるだろう。また、中小企業や零細企業に対しては、賃上げに対するインセンティブを提供するか、助成金を有効に活用するなどの支援をするのが望ましい。
最後に、プレミアムフライデーの実施が「休日の格差」を広げる要因になってはならない。企業規模や産業の間には賃金格差のみならず休日の格差も存在している。厚生労働省の就労条件総合調査5によると、「完全週休2日制」を採用している企業の割合は、従業員数1,000 人以上が69.1%で最も高く、次は300~999 人(60.0%)、100 ~299 人(49.6%)、30~99 人(47.2%)の順である。産業別には、金融業・保険業が 90.7%で最も高いことに比べて、運輸業・郵便業は 25.1%で最も低い。さらに1企業当たり平均年間休日総数も従業員数1,000 人以上が115.3日で最も多いことに比べて従業員数30~99 人は106.8日で最も少ない。産業別には、情報通信業が122.2日で最も多く、宿泊業・飲食サービス業が101.9日で最も少ないという結果となっている。このようなデータを参照すると、現在、日本で実施されているプレミアムフライデーは、一部の企業や産業、そして地域、つまり大企業や福利厚生がより充実した産業や企業、そして都心に位置した企業を中心に実施される可能性が高く、「休日の格差」はさらに広がる恐れがある。実際に調査会社インテージが今年の2月24日から27日の間に首都圏(東京、神奈川、千葉、埼玉)で実施した調査結果4によると、企業規模別のプレミアムフライデーの実施率は、従業員数1000人以上の企業が5.8%であることに比べて、従業員数100人未満の企業は2.4%に留まっていた。
政府は、プレミアムフライデーが「休みの格差」を広げないように働き方改革に基づいたより慎重な議論や対策を実施するべきである。プレミアムフライデーの実施が新しい格差の拡大に繋がらないことを強く望むところである7。
3 株式会社DeNAトラベル(2017)「プレミアムフライデーに関する調査」2017年1月23日。
4 日本経済新聞2016年9月3日朝刊5頁「労働分配率66.1% 低水準に 昨年度、内部留保は最高」を参照。
5 厚生労働省(2017)「平成28年就労条件総合調査結果の概況」。
6 株式会社インテージ(2017)「プレミアムフライデー事後調査」 。
7 本稿では、金明中(2017)「曲がり角の韓国経済第18回 韓国版プレミアムフライデーの実施発表」東洋経済日報2017年4月7日を一部引用している。。
- 株式会社インテージ(2017)「プレミアムフライデー事後調査
- 株式会社DeNAトラベル(2017)「プレミアムフライデーに関する調査」2017年1月23日
- 金明中(2017)「曲がり角の韓国経済第18回 韓国版プレミアムフライデーの実施発表」東洋経済日報2017年4月7日
- 厚生労働省(2017)「平成28年就労条件総合調査結果の概況」
- 厚生労働省(2017)「毎月勤労統計調査 平成29年2月分結果確報」
- 総務省統計局(2017)「家計調査報告(二人以上の世帯)―平成29年(2017年)2月分速報」2017年3月31日
- 内閣府「国民経済計算」
- 日本経済新聞(2016)「労働分配率66.1% 低水準に 昨年度、内部留保は最高」2016年9月3日朝刊5頁
(2017年04月13日「基礎研レター」)
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生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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