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まちづくりレポート|みんなで創るマチ 問屋町(といやちょう)-若い店主とオーナーの連携によりさらなるブランド価値向上に挑む岡山市北区問屋町
社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎
組合の方から誘われた取り組みもある。チューリップ委員会だ。エリアの東側に、南北に流れる川がある。この川沿いにチューリップを植えて、訪れた人に楽しんでもらおうということから、イルミネーションと一緒に予算化した。組合で球根を用意し、2016年の2月に組合員20人ほどとテナント会5~6人で植え込み作業を行った。
チューリップは見事に咲き誇り、その後、6月に咲き終わった球根を回収、12月にはまた植え込みを行った。いずれも組合とテナント会の共同作業である。
小田さんによると、チューリップが咲いている期間はそれほど長くはないが、むしろこうした共同作業が重要だという。組合理事からも、良好な関係性を継続していくのに必要なことだから、毎年やろうと言われたそうである。
【組合のイベント】
組合は毎年、年4回主催イベントを実施している。3月のフリーマーケット、8月の盆踊りとバーベキュー、10月のハロウィンタウン、12月の問屋町祭りである。これらはテナント会の若手もスタッフとして手伝っているが、最近はテナント会のアイデアを取り入れることが多くなった。
2016年10月のハロウィンでは、祥有城さんの企画で、「キッズフリーマーケット」を開催した。オレンジホールを会場に、子どもたちが出店し、子どもたちが買い物をするフリマである。当日は多くの親子連れが仮装して訪れ、買い物とやり取りを楽しんだ。
祥有城さんは、フリマに参加した子どもが、将来問屋町で店を構えることになるように、定期的に開催しようと組合理事と話しているそうである。
このように、組合とテナント会が一緒になってまちづくりに取り組むようになってきている。まさに「みんなで創るマチ」を具現化しつつあるのだ。
小田さん、祥有城さんは、組合の理事から一緒に飲まないかと誘われることが増えたという。「立場が違うからこそコミュニケーションが重要で、そういう機会は大事にしています。年配の方と普段一緒に飲む機会はそうそうないので、そういう方と一緒に飲んで、一緒に笑いあえる。その仲間意識が純粋に楽しくなりました」と話してくれた。
小田さんと祥有城さんは、テナント会自体も「みんなで創るマチ」に変えようとしている。小田さんが会長になるまでは、会員テナントから年会費を徴収していたがこれを撤廃した。会費を払うだけで、テナント会の活動に参加しないテナントが大勢では意味がないと感じたからだ。加えて、テナントにとって会費に見合う程のメリットがないとも感じていた。だから、強制的に参加を求めるようなこともしない。定例会もなくし、「今は、誰かが何かしたいと思ったときに声を掛けて、面白いと思ったら参加してもらう」スタンスだという。それでも毎回10数人が集まる。
「運営費は自前で稼ぐ仕組みを考えればいいし、テナントが面白いと思わないと、やっていて楽しくない。楽しくないとまちづくりには参加しない」と小田さんは考えている。祥有城さんも「最初は少人数でも、同じ方向を向いて楽しくワイワイしていたら、少しずつでも一緒にやろうとするテナントが増えてくる」という期待がある。
「テナントにとってのメリットは、お客さんが来てくれること。そういう状況になれば、みんな参加してくれるはず」と小田さん。祥有城さんは「まちをビアガーデンにする企画を考えたことがありました。一カ所にブースを出すのが大変であれば、それぞれの店舗の店先に出せばいいという発想。そうすればみんなで創るビアガーデンになる。それぞれの店でビールを出して、集客もすればいい」と話す。
このようにふたりは非常に前向きだ。いつも参加する10数名のモチベーションも高いという。組合と協力することで、まち全体の活性化のために自分たちが面白いと思うことをやればできる手応えを感じているからだろう。
5――現状の課題と第2のブランディング
だが現在、テナントの経営状況は厳しいという。客足はピーク時の7割程で、経営が苦しいテナントもあり、閉店する店舗も増えた。出店してもすぐ閉める店も多くなっている。要因の1つは岡山駅前に大型ショッピングモールができたことだ。2014年にそれがオープンして人の流れが変わったという。
もう一つの要因は、ピーク時と比べたブランド力の低下だ。明石さんが危機感を持って以降、問屋町ブランドの維持が引き続き課題となっている。祥有城さんによると、「もともとは感度がいい、とんがった客が多く、そうではない人は来づらかった。洗練さが薄れて、逆に感度のいい人が来なくなった。当時はプレミアム感があった」という。
冒頭で現在の問屋町の様子を伝えたが、当時はもっと洗練されていて、かつ来街者が多かったのだ。それでも、ふたりはあくまで前向きだ。
「ピーク時のポテンシャルの高さがあったのなら、それをもう一度再現してみようという気持ちはある。その可能性もあると思っています」と小田さんが言うと、祥有城さんは、「客足は減っているけど、問屋町だけが減っているわけではない。状況を変えていく可能性はある。そのための新たな取り組みを提案していきたい」と話してくれた。
活性化の鍵を握るのは、マンション住民だ。2000年の定款変更以降増えたのは、小売店や飲食店などのお店ばかりでなく、実は住宅も増え、それによってエリアの人口も増えたのだ。2000年の問屋町の人口は41人であったが、翌年196人まで増え以降年々増加し、2011年には1,000人を超えた。2015年は1,329人である。2000年から実に32%の増加である。(図表4-1)
年齢別に見ると、30~50代前半及びその子世代が増加してきたことが分かる。卸売業以外の立地を認めていなかったことから、高齢層は限られ、マンションが供給される都度、若い年代層を呼び込んできたのだ。人口構成を見ても問屋町は若々しい。これは問屋町の大きな強みと言えよう。(図表4-2)
ただ、これまで、マンション住民は必ずしも問屋町ユーザーでは無かった。遠くは広島や香川から問屋町を訪れる客がいる中、最も身近なマンション住民が利用することは少ない。問屋町の店舗構成が普段使いするものではないためだ。
「問屋町の飲食店は、毎日ご飯を食べるようなお店ではなく、普通の住民はスーパーにお総菜を買いに行く。マンションから降りてくるきっかけがない」と明石さんは分析する。
(2017年03月29日「基礎研レポート」)
03-3512-1814
- 【職歴】
1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
2004年 ニッセイ基礎研究所
2020年より現職
・技術士(建設部門、都市及び地方計画)
【加入団体等】
・我孫子市都市計画審議会委員
・日本建築学会
・日本都市計画学会
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