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まちづくりレポート|みんなで創るマチ 問屋町(といやちょう)-若い店主とオーナーの連携によりさらなるブランド価値向上に挑む岡山市北区問屋町
社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎
そうした状況を改善していくため、ビルオーナーとテナントで連携しようとする動きが組合の方から持ち上がった。ビルオーナーも、駐車マナー問題に加え、問屋町ブームがピークを過ぎたことを実感するようになり、テナントと協力して活性化に取り組んでいく気運が生まれたのだ。そこで、テナント側に連携の受け皿をつくろうという動きになった。こうして、2010年9月に58店舗が加盟して「問屋町テナント会」を発足した。
テナント会は、翌年6月に問屋町マップを製作し、1万5,000部を無料配布した。マップには路上駐車マナーの呼びかけや、組合が無料開放している駐車場を紹介した。さらに9月には、「問屋町マーケット」を開催。組合が所有する集会施設「オレンジホール」前の駐車場を利用したフリーマーケットには、約8,000人の来場者があった。以降、このイベントは問屋町恒例イベントとして定着していった。
組合は、2011年12月に、岡山駅などから問屋町までの電車やバスでのアクセスマップを製作し、配布した。駐車場不足に対応するため、公共交通機関を使っての来訪を呼びかけるものだ。2012年4月からは、日曜・祝日限定で組合加盟企業の従業員用駐車場約120台分を一般に無料開放した。既にオレンジホール前の駐車場約60台分は開放しており、これによって日曜・祝日は180台分が一般に開放された。
このように、駐車マナー対策と活性化に向けて、組合とテナント会が協力した取り組みを積み重ねていった。これにより、ビルオーナーとテナントの総合力でまちづくりに取り組む土壌が整いつつあったた。
3|モノサシ
このタイミングで組合は50周年を迎えた。組合は、2013年4月、組合設立50周年記念として、新たな問屋町マップと、問屋町のロゴマーク及びコンセプトコピーを制作した。
マップに掲載された店舗は、もちろん組合加盟企業だけではない。むしろ、テナント店舗を主体に掲載しており、利用客の利便性を考慮したものになっている。そこに、ロゴマークとコンセプトコピーも掲載している。明石さんが手がけたものだ。明石さんはこれを「モノサシ」と呼ぶ。
「グランドデザインを描いてゴールを見せるだけでは思うとおりには進まないんですね。まちには様々な人が関わっていて、それぞれ立場も主張も異なるので。でもそうした価値観が異なる人同士がまちづくりに関わっていくことが大事です。だからこのまちに関わる人を増やして、みんなが喜ぶようなまちづくりを行う。そのときに必要なのが共通のモノサシ。困ったときはこれで測り直せばいい、行動指針になる」
明石さんは、組合とテナント会が協力していく中で、まちづくりに対する考え方を改めたという。自分自身が前面に出て動いていた頃と異なり、テナント会の若手がまちづくりに対しモチベーションを高めていった。その姿に接し、関係者自身がこのまちにかかわることに喜びを感じることが重要だと気付いたのだ。
明石さんはこうしたまちづくりの考えを組合に話す機会を得た上で、組合からの依頼でこれを制作した。
コンセプトコピーは、「みんなで創るマチ」。提案書には次のように説明されている。
「私たちが目指す“マチ”は形式的なものだけではなく、そこに関わる人々の喜びがプラスされて初めて成立します。だから、誰にでも分かりやすい日常的な言葉を“問屋町コンセプトコピー”として掲げました」 “みんな”(公平性)老若男女この“マチ”に関わるお客様も含めて全ての人々を表現しています。
“創る”(創造性)固定概念にとらわれず自由な発想で育てていきたいという思いを表現しています。 “マチ”(発展性)町や街のような漢字は規模を表します。私たちの思う新しい“マチ”のかたちをイメージさせるためにカタカナを使用しました。
4――みんなで創るマチを具現化する
「カフェ・キネマ」の店主小田墾(おだつとむ)さんが、2014年4月から2代目の「問屋町テナント会」会長となり、副会長に、「ウーヌス」というベイプ(電子たばこ)専門店を経営する明石祥有城(あかしよしゆき)さんが就いてからは、組合との協力関係をよりいっそう深めている。
組合の中に、まちづくり活動の企画、実施を担う「街づくり委員会」がある。小田さんと祥有城さんは、ここに呼ばれることが多くなったという。それまでは組合のイベントをテナントとして手伝うことが主だったが、最近は、街づくり委員会で一緒に企画を検討するようになった。
組合には他にも委員会があり、委員長は組合の理事が担う。そこに小田さん、祥有城さん等テナント会の若手が加わりアイデアを詰めていく。委員長から組合に企画を提案し承認を得て、予算化する仕組みだ。
小田さんは、「最初は、組合の人がどのような人達か知りませんでした。ただ、知り合っていく中で、組合とテナントがもっと仲良くなれば、さらにいい方向に変えていけると思ってきました」と話してくれた。テナント会ができ、組合との協力関係が築かれたが、お互いの理解が不足している面があると感じていた小田さんは、そのタイミングで会長を引き継いだ。
それから小田さんと、祥有城さんが心がけたのは、やれば面白いと思うことを組合と一緒に行うこと、そして、組合理事とのコミュニケーションだ。テナント会のイベントを組合に協力してもらうのではなく、組合主催のイベントにして、組合と一緒にやることが重要だという。そうして動き出したのに、フットサル委員会とイルミネーション委員会がある。
【フットサル】
月に1~2回程度、オレンジホールを使って組合メンバーとテナント会メンバー20人ほどがフットサルで一緒に汗を流す。2015年の夏頃、平日稼働率の低いオレンジホールをもっと活用できないかと組合からテナント会への相談から始まったものだ。
当初は、市内外からチームを募った大会にしようという案もあったが、まずは、組合とテナント会の健康増進を主目的にして、フットサルが好きなそれぞれのメンバーが集まって純粋にゲームを楽しむことにした。テナント会にとっては、ここでしか顔を合わせない理事もいることから、組合との交流を深める貴重な機会にもなっているという。
組合の方からテナント会に相談されたのはこれが初めてだ。ふたりは「テナント会の大きな進歩」と自己評価した。
祥有城さんは、「いずれ、平日の夜、組合の駐車場もフットサル場にしてやりたいですね。卸売業は夜、店を閉めるので駐車場が空きますから。今は、そうしたことを組合に提案できるような関係になりました」と話してくれた。
【イルミネーション】
街路樹にイルミネーションを灯したいという声は、テナント会の中にも以前からあったが、通り全体を灯すには予算の問題もあって実現できずにいた。しかし、2015年の冬、小田さんと祥有城さんは、できるところから始めようと、テナント会の限られた予算を使って、オレンジホールの一角にイルミネーションを設置した。テナント会の若手数名で設置していると、組合の理事が声を掛けてきて、それならイルミネーション委員会をつくってやろうということになり、2016年度の予算が承認された。
テナント会は、メインの通り全体に設置したいと考えていたが、見積もりを取ると予想を超える金額であったことから、オレンジホールの周囲に限定し、電球はテナント会の手作りで、街路樹への設置は、イルミネーションでまちを飾ることに共感してくれた知人に協力してもらった。
デザインは、祥有城さんが買い付けで訪れた海外の街角を参考に、既成の電球を購入していろいろな色にペイントした。
小田さんは、「昨年は、とりあえず設置したという程度のものでしたが、今回は自分たちがいいと思えるものができました」と話す。
イルミネーションが窓から見えるカフェの店主からは、お客さんが増えたと好評で、お客さんが撮影した夜の街並みの投稿を、SNSで目にすることも多くなった。
2016年10月にイルミネーションが点灯すると、各テナントが自主的に店の前をイルミネーションで飾り付けるようになったという。イルミネーションを設置した範囲は限られていても、テナント店主にそのような意識を促す効果があったのである。「いいお金の使い方ができた」と小田さんは評価する。小田さん、祥有城さんは、来年から徐々に設置範囲を広げていきたいと考えているものの、むしろ、このようにテナント各自の自主的な取り組みがさらに広がっていくことを期待している。
(2017年03月29日「基礎研レポート」)
03-3512-1814
- 【職歴】
1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
2004年 ニッセイ基礎研究所
2020年より現職
・技術士(建設部門、都市及び地方計画)
【加入団体等】
・我孫子市都市計画審議会委員
・日本建築学会
・日本都市計画学会
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