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まちづくりレポート|みんなで創るマチ 問屋町(といやちょう)-若い店主とオーナーの連携によりさらなるブランド価値向上に挑む岡山市北区問屋町
社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎
2――問屋町ブランドを確立するまで
問屋町は、「協同組合岡山県卸センター」(以下、組合)が用地を取得し、1968年に整備したもので、現在も問屋町の多くの土地・建物を組合の構成メンバーが所有している。また、組合が運営する集会施設や駐車場なども保有している。
卸売団地には、繊維卸売業者を中心に多いときで76社が入居していたが、1992年の大規模小売店舗立地法改正以降、大型小売店の進出により、主要な取引先である中小小売店が打撃を受け、必然的に卸売業の経営に影響を与えた。また、卸業者を介さずにメーカーから直接仕入れる流通形態が増加して取引先が減少し、経営環境が急速に悪化した。1990年代後半には廃業、撤退する業者が増えていった。
このような状況を打開するため、一度は大型ショッピングセンターを誘致する再開発計画も検討されたが、最終的に組合が選択したのは別の活路であった。それまで卸売業者以外の入居を認めていなかったが、2000年に定款を変更して他業種の入居を認め、小売り、飲食など幅広い参入を募り始めた。
2|リノベーション
問屋町を訪れて最初に目を引くのは、ビルの屋上にある飛行機だ。倉庫だったビル1棟をリノベーションしたもので、このビルが2003年11月に誕生すると、1階にカフェが入居した。岡山で最初のカフェだという。すぐにここを目指して問屋町を訪れる若い客が増えていった。
後に、次々と問屋町でビルのリノベーションを手がけて現在の問屋町を形作っていったのが、自らもこのまちにオフィスを構える、明石卓巳(あかしたくみ)さん(株式会社レイデックス代表取締役)である。広告プロモーションの企画・制作が専門だった明石さんは、まちづくりにプロモーションの手法を取り入れた。
明石さんが「アンカーを打つ」と表現するこの手法は、まず、メインとなる東西方向の道路沿道にあるいくつかのビルを改装し、吸引力のあるテナントを導入する。そこに客が集まるようになれば、それを核にして新たな店舗が周囲に増えていき、次第に沿道全体が洗練された街並みを形成するというものだ。それ故、アンカーとなる核テナントは、20年後の望ましいこのまちの姿を映し出す、ゴールを指し示すような存在でなければならない。
明石さんはこのグランドデザインに賛同してくれるビルオーナーのビルを対象に、思いを共有できる出資者を募った。そしてオーナーからビル一棟を借りてリノベーションし、テナントを付けてリースする仕組みを実践していった。テナントには岡山県内に本社を持つブランド力の高い企業を誘致した。単に、多様な業種の参入を募るだけでなく、このまちの魅力を活かして、まち全体の価値を高めることに舵を切ったのだ。
アンカーテナントができると、急速に客足が増え、明石さんの構想どおり、次第に周囲に店舗が増えていった。定款を変更した時期に当たる2001年の事業所数が72件、これに対し2006年には90件、2009年には133件まで増加している。(図表2-1)
業種別では、2001年の「卸売業、小売業」は62件で、2006年に59件に減ったものの、2009年には71件、2012年は65件となっている。こうして卸売業と小売業をまとめてみると大きな変化がないようであるが、ここで注目したいのは他の業種である。「宿泊業、飲食サービス業」、「学術研究、専門・技術サービス業」、「生活関連サービス業、娯楽業」は、2001年に皆無だったのが、2009年にそれぞれ、18件、12件、10件立地している。(図表2-2)
このように、店舗が増えたのには別の理由もある。当時の問屋町のテナント賃料は駅周辺の中心部に比べ3~5割低く、新規出店するには優位であった。加えて、広い道路幅員で、卸売団地という性格上、一般の出入りはほとんど無く、従来から路上駐車が規制されていなかったため、店舗側で来客用の駐車場を確保する必要が無かった。
岡山では普段から自家用車で移動する人が多く、客のほとんどが自家用車で来訪することから、路上駐車できることは客にとっても便利だ。路上に自由に停められ、時間を気にすることなく買い物や飲食を楽しむことができる。つまり、路上駐車できることは、客にとってこのまちの魅力の1つであり、店舗側にとってはここに出店する強みとなる。
こうして問屋町はブランドイメージを確立し、高感度な若者を惹きつけるまちになっていった。
3――まちづくりの転機、「みんなで創るマチ」へ
しかし、需要が高まれば当然家賃相場も上がる。先程見たように事業所数が50%近く伸びた2006~2009年の間に、市中心部との家賃差はほとんど無くなっていた。店舗数が増えたことで競争も激しくなり、家賃の値上げに耐えられない店舗は撤退し、すぐに別の店舗が入居した。
明石さんによると、その頃は、いわば、出店すれば儲かる状況だったという。それまで、アンカーテナントが吸引するセンスのいい客層が増えることで、そうした客層のニーズに応える新たな店舗の出店を誘引してきた。それが問屋町ブランドを形づくる上で重要な戦略であった。しかし、それとは関係なく、人が集まるから出店しようという店舗が増え始めた。テナントが埋まれば何でもよいでは、家賃は取れるかもしれないが、まちのブランド価値は下がる。
明石さんのグランドデザインは、決して問屋町オフィシャルなものではない。すべてのビルオーナーが同じ考えでないことはある種当然だった。そこで明石さんは、そうした状況を変えようと、2007年に「テナント会」を結成した。問屋町のブランディングに思いを共有するテナント店主5~6人の有志で、どうすれば問屋町に来てほしい店舗に来てもらうことができるかを考え、実践しようとしたのだ。だが、その時は来客数がピークを迎えた状況で、それぞれ経営が忙しく、実践できなかったそうである。
駐車マナーの問題が顕在化したのもその頃からだ。路上駐車を規制していないといっても、交差点内や逆向き駐車の禁止など法定の規制は当然守らなければならない。来街者の増加によって駐車スペースが不足し、マナー違反が増え、歩行者などから警察に苦情が寄せられるようになった。
(2017年03月29日「基礎研レポート」)
03-3512-1814
- 【職歴】
1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
2004年 ニッセイ基礎研究所
2020年より現職
・技術士(建設部門、都市及び地方計画)
【加入団体等】
・我孫子市都市計画審議会委員
・日本建築学会
・日本都市計画学会
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