2016年10月19日

通貨スワップ市場の変動要因について考える-通貨スワップの市場環境が与えるヘッジコストへの影響

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任   福本 勇樹

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1――通貨スワップと金利平価の関係

通貨スワップとは、米ドルや円といった異なる通貨のキャッシュフローを交換する取引のことである。通貨スワップは1年以上の比較的長期で取り組まれることが通例であり、外貨投資のための資金調達、外貨建債権・債務の為替リスクのヘッジなどを主な取引目的として利用される。通貨スワップでは取引開始時と取引終了時に元本を交換し、期中と取引終了時に調達した資金に関する金利をお互いに支払う(図表1)。
図表1:通貨スワップ取引の例(米ドルと円の交換)
米ドルと円の通貨スワップを例にすると、最も一般的な通貨スワップは、「米ドル3ヶ月LIBOR」と「3ヶ月円LIBOR+クロスカレンシー・ベーシス・スプレッド(以下、本稿では「スワップ・スプレッド」と呼ぶ)」の形式で変動金利を交換する取引である。

また、通貨スワップと同様の取引に為替スワップがある。為替スワップは1年以下で取り組まれるのが一般的で、取引開始時に直物為替レートにて円貨と外貨を交換し、取引開始時に決定した先物為替レートで取引終了時に外貨と円貨を交換する取引である。よって、為替スワップは、外貨を固定させ、取引開始時に決まるヘッジコスト1(先物為替レートと直物為替レートの差)が取引終了時の円貨から差し引かれる取引として解釈することができる。

従来、先物為替レートは、直物為替レートと内外金利差の関係で決まる(金利平価)と説明されるのが通例であったが、昨今は為替スワップ市場と通貨スワップ市場の間に裁定関係が働いているものとして説明するのが一般的になってきている2。つまり、次式のように外貨投資に伴うヘッジコストは、無リスク金利の差異である「内外金利差」と通貨スワップ市場における各通貨の資金調達コストの差異から無リスク金利の影響を除いた「スワップ・スプレッド」で決定されるとする考え方である。
 
 ヘッジコスト = 直物為替レート×(-1)×[内外金利差+スワップ・スプレッド]×時間
 
よって、スワップ・スプレッドは、外貨の調達コストや為替リスクのヘッジコストを知るための重要な指標だということになる。
 
1 外貨の資金調達コストと同値である。
2 通貨スワップは、その取引開始時と各利払い時に為替スワップを取り組んだ場合と同様の経済効果をもつ。
 

2――通貨スワップの市場環境が運用利回りに与える影響

2――通貨スワップの市場環境が運用利回りに与える影響

スワップ・スプレッドがゼロ近辺にあれば、ヘッジコストは直物為替レートと内外金利差で決まるとする金利平価の考え方が維持される。しかし、スワップ・スプレッドはリーマンショック後よりゼロから乖離しており(図表2)、ヘッジコストへの影響を無視できない環境が現在も続いている。
図表2:スワップ・スプレッドの推移(米ドルと円の交換:月次)
米ドルと円を交換する通貨スワップのスワップ・スプレッドは、2008年後半のリーマンショック時にゼロから大きくマイナス方向に拡大したが、2012年近辺の欧州危機時にはさらにマイナス幅を拡大させた。2014年にマイナス幅を多少縮小したものの、2015年以降は拡大する傾向にあり(2016年9月末時点で約75bp)、ゼロ近辺に回帰するような傾向は見られない。

図表3は通貨スワップや為替スワップを用いたときの米ドル建て投資の考え方についてまとめたものである。スワップ・スプレッドがマイナスのときは、スワップ・スプレッドはヘッジコストを通じて運用利回りが低下する方向に作用してしまうことになる。日銀により量的・質的金融緩和政策が導入されて以降、国債等の円建ての金融商品の利回り低下が進んでおり、外貨建ての金融商品に対する国内投資家のニーズが大きくなっているのだが、このような通貨スワップの市場環境もあり、外貨調達コストや為替リスクのヘッジコストはもはや利回り対比で無視できない状況になっている。
図表3:スワップ・スプレッドの運用利回りへの影響(米ドル建て投資)
スワップ・スプレッドがゼロから乖離する要因として、「(1)各LIBOR市場における銀行システムの信用力」、「(2)各通貨の資本市場間の調達ニーズの偏り」、「(3)各通貨のLIBOR市場間の流動性の違い」といった要因が指摘されることが多い。そこで、これらの3つの要因について順に分析することで、リーマンショック以降の通貨スワップ市場におけるスワップ・スプレッドの変動要因について考えてみたい。本稿では、取引量の観点から米ドルと円を交換する際のスワップ・スプレッドに焦点をあてる。
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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

福本 勇樹 (ふくもと ゆうき)

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リスク管理・価格評価

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