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対外証券投資と為替変動リスクのヘッジ-為替予約を用いたリスクヘッジの注意点

金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹
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- 2013年4月の量的・質的金融緩和政策導入後、主要機関投資家が保有する対外証券投資残高は増加しており、円安や世界的な株高・金利低下の効果もあり、収益に貢献してきた。
- 2015年後半より、円安傾向に陰りが見られるようになったこともあり、対外証券投資において、為替変動リスクのヘッジが意識されるかもしれない。
- 為替予約等を用いたときのヘッジコストが無視できず、為替変動リスクをヘッジしながら対外証券投資を行うと運用利回り追求の観点で妙味が薄れてしまう。
■目次
1――対外証券投資の増加と運用環境の変化
2――為替予約のヘッジコストが与える運用利回りへの影響
1――対外証券投資の増加と運用環境の変化
為替変動リスクのヘッジの際には、為替予約(為替フォワード)等の為替デリバティブを用いたヘッジ取引が行われることがある1。特に、機動的に為替変動リスクをヘッジするのであれば、為替予約の利用性が高いものと思われる。
1 外貨の資金調達も兼ねる場合は、為替スワップや通貨スワップを用いるのが通例である。為替予約でのコスト計算の結果は、本質的には為替スワップを用いたときと同様である。為替スワップについては「為替スワップ取引を用いた時のヘッジコストの考え方」(ニッセイ基礎研究所 年金ストラテジー2016年4月号)、通貨スワップについては「通貨スワップの市場環境とヘッジコストに与える影響について」(ニッセイ基礎研究所 年金ストラテジー2015年4月)などを参照されたい。
2――為替予約のヘッジコストが与える運用利回りへの影響
為替予約で重要となるのは、直物為替レートと先物為替レートの関係である。一般的に、先物為替レートは直物為替レートの水準と内外金利差(国内金利-外国金利)で決まると説明される2。
日本は長らく低金利下にあるため、外国金利よりも国内金利の方が低い状況にあることが多く、国内投資家にとって、直物為替レートよりも不利に(つまり、円高方向に)先物為替レートが確定することになる。よって、為替変動リスクをヘッジする場合、取引開始時の直物為替レートと先物為替レートの差は固定的なコストになってしまう。本稿では、この直物為替レートと先物為替レートの差をヘッジコストと呼ぶことにする。
図表2は、為替予約を1年間取り組んだ際の「直物為替レートに対するヘッジコストの割合(ただし、取引手数料等は考慮していない)」を示したものである。例えば、「直物為替レートに対するヘッジコストの割合」が1%のとき、為替予約によるヘッジの対象となる想定元本に対して1%のヘッジコストがかかることを意味している。2001年以降のデータで見ると、2008年のリーマンショックを境に、内外金利差の縮小に伴って、為替予約によるヘッジコストは減少傾向にあったことが分かる。直近は、米ドル/円の為替予約を取り組んだときのヘッジコストが上昇傾向にある。また、ユーロ/円の為替予約を取り組んだときのヘッジコストが、他の主要通貨と比べて最も低い状況にある。
ヘッジコストの運用利回りへの影響を見るため、主要国の10年国債の利回り(図表3)と、為替予約(1年)で為替変動リスクをヘッジしたときの運用利回り(図表4)を比較してみたい3。2016年3月末時点での、主要国の10年国債に投資した場合の利回りの差異は、「ヘッジなし米国債10年:1.77% ⇒ ヘッジ込み米国債10年:0.38%」、「ヘッジなし独国債10年:0.15% ⇒ ヘッジ込み独国債10年:0.07%」、「ヘッジなし英国債10年:1.42% ⇒ ヘッジ込み英国債10年:0.32%」、「ヘッジなし豪国債10年:2.49% ⇒ ヘッジ込み豪国債10年:-0.39%」(ただし、取引手数料等は考慮していない)である。参考までに、日本国債10年の利回りは-0.03%である。つまり、対外証券投資を行い相対的に高い利回りを享受しようと試みても、為替予約で為替変動リスクをヘッジすると、ヘッジコストの影響により運用利回りの妙味が薄れてしまうということである。
2 実際には、先物為替レートは、直物為替レートの水準や内外金利差だけではなく、異なる2通貨の需給や調達コストの差異なども反映して決定される。例えば、国内投資家が対外投資を行う等の理由により、多額の米ドル調達を行うような環境下にあれば、先物為替レートは、国内投資家にとってさらに円高の水準で確定することになる。実際に、現在は内外金利差よりも異なる2通貨の需給や調達コストの差異の影響の方が大きい環境下にある。詳細については、「為替スワップ取引を用いた時のヘッジコストの考え方」(ニッセイ基礎研究所 年金ストラテジー2016年4月号)等を参照のこと。
3 ヘッジ対象となる国債を為替予約(1年)用いてヘッジを繰り返す場合、内外金利差等が変動するために、将来のヘッジコストも変動する。よって、同水準のヘッジコストにて繰り返しヘッジ取引が可能とは限らないことに注意されたい。
(2016年04月22日「基礎研レター」)

03-3512-1848
- 【職歴】
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
2021年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)
【著書】
成城大学経済研究所 研究報告No.88
『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
出版社:成城大学経済研究所
発行年月:2020年02月
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