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2025年07月01日

日銀短観(6月調査)~トランプ関税の悪影響は今のところ限定的だが、早期の利上げには直結せず

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
 
  1. 6月短観では、注目度の高い大企業製造業で景況感が小幅に改善した。関税の悪影響が一部顕在化したものの影響は限られた一方、価格転嫁の進展や原材料高の一服が景況感の改善に寄与した。非製造業では、物価上昇による消費マインドの低迷が重石となり、景況感が弱含んだ。
     
  2. 先行きの景況感は総じて悪化が示された。製造業では、関税の長期化懸念が重石になった。非製造業では、物価高による消費の腰折れや人手不足等に対する懸念が強く現れたとみられる。
     
  3. 2024年度の設備投資(実績・全規模)は、前年比7.5%増と例年同様、前回からやや下方修正された。2025年度の設備投資計画は、2024年度実績比で6.7%増と前回調査から大きく上方修正された。今回の上方修正幅は6.6%ポイントと例年をやや上回っており、堅調と言える。トランプ関税が投資計画にとって抑制に働いている可能性があるものの、省力化や脱炭素、DXの推進など構造的な課題への対処に向けた投資需要が追い風となったと考えられる。関税についても情勢が極めて流動的であるだけに様子見地合いになっているとみられ、投資計画の取り下げの動きが広がるまでにはまだ至っていないようだ。
     
  4. 企業の「物価全般の見通し」や「販売価格の見通し」は前回からほぼ変わらず、中期的なものも含めて企業のインフレ予想が高止まりしている様子を示唆している。
     
  5. 今回の短観において企業の景況感や設備投資計画などが総じて堅調な結果となり、関税の影響の顕在化が限定的に留まったことは、日銀にとってひとまずの安心材料になりそうだが、早期の利上げに直結するものではないだろう。なぜなら、日本経済にとって最大の不確実性の発生源であり、下振れリスクでもあるトランプ関税を巡る情勢には今のところ変わりがないためだ。日銀は今後数ヵ月にわたって利上げを見送りつつ、トランプ関税の行方とその影響の見定めに専念する可能性が高いと見ている。

 
景況感は製造業・非製造業とも小動きに(大企業)/主な業種別の業況判断DI(大企業)

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(2025年07月01日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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