2024年04月12日

新NISA、積立投資と一括投資、どっちにしたら良いのか-なぜ米国株式型が強かったのか

金融研究部 研究員 熊 紫云

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4――米国株式型が何故良いパフォーマンスだったのか

投資期間10年、20年の結果から見れば、米国株式型(S&P500、ナスダック100)の最終時価残高やリターンの平均値が先進国株式型や全世界株式型よりも大きく、最もパフォーマンスが良い。
【図表5】世界GDP・MSCI ACWI・MSCIコクサイの国別構成
米国株式型がなぜ最も良いパフォーマンスだったのか、結果論になるが、米国企業が結局一番元気だったからである。

投資商品の連動指数として幅広く活用されているMSCIシリーズを見てみよう【図表5】。MSCI社は簡単に言うと、株式指数では、業績が優良で時価総額が大きく、将来の業績が見込める銘柄を選んでいる。2023年の米国のGDPは国別で首位にあるが、世界のGDPに占める割合は25.8%で、4分の1程度に過ぎない。一方、全世界株式型の連動指数であるMSCI ACWIは先進国23か国と新興国24か国の株式で構成されているが、そのうち米国株式が63.82%を占めている。自由で競争が厳しい米国の環境で育った米国企業は、競争に打ち勝つことで世界的にビジネスを成功させており、より収益を挙げ、業績面や将来性、時価総額において、日本企業を含めて、他の先進国や新興国の企業を圧倒していると言える。ちなみに、先進国株式型の連動指数であるMSCIコクサイは日本を除く22か国の先進国株式が組み入れられており、米国株式が75.53%も占めており、残りのイギリスやフランスやカナダなどの先進国企業のウェイトは4分の1程度に過ぎない。

例えば、米国の株式市場動向を広く反映しているS&P500の構成銘柄を詳しく見る(図表6)と、時価総額が最も高い企業には、マイクロソフト、アップル、エヌビディア、アルファベット(Googleの親会社)、アマゾン、メタ(旧Facebook)などが含まれている。

2024年3月末時点、トヨタは時価総額が62兆円で日本企業では最大だが、S&P500の構成銘柄で最大のマイクロソフトの時価総額は449 兆円もあり、米国企業の規模の大きさがよく分かる。

マイクロソフト社が提供するオペレーティングシステム(以下、OS)WindowsやOfficeアプリは多くの会社の日常業務に欠かせない存在である。アップルはiPhone、iPad、Mac、Apple Watch等を多くの人々に提供している。グーグルの親会社であるアルファベットは、Google検索、Googleマップ、YouTubeおよびスマートフォン向けのOSであるAndroidを提供している。また、アマゾンも総合ECサイトの大手として家電や玩具、衣料品、食料品に至るまで幅広いジャンルの商品をオンラインで販売しており、映像(アマゾンプライムビデオ)、音楽(アマゾンミュージック)等のエンターテインメントコンテンツを多くの人々に提供し、クラウドサービス(AWS)を多くの企業に提供している。これらの米国企業は多くの人々の暮らしや企業の事業活動で不可欠な役割を果たしている。

ちなみに、短期的な価格変動リスクが更に高いナスダック100にはITやバイオテクノロジーなどの最新技術を持つ企業と米国に上場している海外企業が含まれているが、時価総額トップ6位までの上位企業はS&P500と同じである。これらの企業は人々の生活に欠かせない商品やサービスを提供し、その価値が市場で認められていることになる。

時価総額上位各社は多くの人々や企業のコミュニケーションや活動等を支える各種インフラ、DX、人工知能、流通、自動運転等で欠かせない企業であり、今後も技術革新とイノベーションを通して持続的な成長が期待できる。さらに、世界の大学ランキングでも米国の大学が常に多数上位に入っている。米国では高等教育が充実しており、世界で最も多くの外国人留学生を受け入れている等、優秀な人材を育成する環境が整っている。米国企業も優秀人材を高給で採用し、そうした人材が活躍して、米国のイノベーションに更なる力を注いでいる。
【図表6】S&P500とナスダック100の時価総額上位20企業(2024年3月末時点)
以上のような理由から、当面の間は、米国企業に代わる存在がそう簡単に現れることはないと考えている。政治や経済状況からの影響はあると思われるが、米国企業の競争力が強いという状況が今後もしばらく持続するのではないかと見ている。

5――まとめ

5――まとめ

このレポートでは、10年および20年という投資期間を設定し、過去のデータを用いて試算を行い、同じ元本での積立投資と一括投資の投資結果を比較した。結果として、積立投資と一括投資とのリターンや元本割れリスクの差はあまりないが、実質的な投資金額×投資期間が大きい一括投資の方が資産形成のスピードが速く、最終時価残高が大きくなる可能性が高いことが分かった。
 
また、リターンがあまり変わらない積立投資と一括投資の選択よりも、適切な投資対象の選択の方がよほど重要であることが分かった。投資期間が長くなるにつれ、積立投資でも一括投資でも価格変動リスクに見合うリターンを得られると考えられる。つまり、投資対象を短期的な価格変動リスクに注目して、リスクが低い投資対象を選択してしまうと、それに見合う低いリターンしか得られなくなる。このことは投資の本質でもあり、多くの人が理解すべきことであると思う。逆に価格変動リスクが高い投資対象を適切に選ぶと、長期的にそれに相応しい高いリターンを獲得できる可能性が高いということだ。
 
これまで説明してきたように、過去のデータでは投資期間が10年と20年の場合、投資方法は積立投資でも一括投資でも、最終時価残高の平均値・最大値は、大きい方から概ね米国株式型(ナスダック100・S&P500)、先進国株式型、全世界株式型、外国債券型、国内債券型の順となっている。10年とか20年以上の長期投資では、価格変動リスクが高くても、米国株式型、先進国株式型など、高いリターンが期待できる投資対象へ投資したほうが実際に大きい最終時価残高を獲得する可能性が高い。
 
米国企業は日常生活や仕事に欠かせない商品やサービスを提供しており、収益の成長源である技術革新や新商品を次々と生み出してきた。今後も、米国企業に代わる存在がそう簡単に現れることがないと思われるので、当面の間、米国企業は競争力が続くであろうと考えている。米国株式型(S&P500やナスダック100)は将来的にも長期的に高いリターンが期待できる投資対象と見ている。

尚、日本株式は2012年末以降に投資特性が大きく変わったので、今後の日本株式の投資判断では今回紹介した過去のデータによる試算結果のみで判断すべきではないという点は注意が必要である。
 
以上を踏まえて、投資期間が長くこれから資産形成を始めたい人や資金的に余裕のある人は、まず米国株式型(ナスダック100・S&P500)、先進国株式型など、高いリターンが期待できる市場インデックス型商品を検討すべきであると考える。
 
投資初心者は少額でも良いので、高いリターンが期待できる投資対象に無理のない範囲内で積立投資をコツコツと長期的に継続することが大切である。積極的にリスクを取ることで、資産形成が速く進むことになる。さらに、資産形成が順調に進み、資金的に余裕が出てきたら、あまりタイミングを気にせずに一括投資すれば、将来の資産形成や資金使途についての選択肢拡大につながると思う。

勿論、投資に自信がある人や資金的に余裕がある人は、資産形成のスピードがより速い一括投資をして、更なる資産残高の増加を目指せば良い。但し、銘柄分散は大切であるので、今回紹介したような市場インデックス型投資は問題ないが、個別株投資には十分な注意が必要である。
 
また、今後の長い投資期間中、株価が暴落し、元本が一時的に毀損するようなこともあると思うが、けっして慌てて売ることなく、気長に株価の回復を待つことが大切であると思う。 
 
いずれにせよ、投資期間は長い方が良いので、なるべく早めに時間を味方に付けることが重要である。実際に新NISAや確定拠出年金等の税制優遇制度を積極的に活用して、今すぐにでも投資をスタートしてみてはどうだろうか。
【ご参考】各インデックスの推移(2024年3月末まで)
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   研究員

熊 紫云 (ゆう しうん)

研究・専門分野
資産運用・資産形成

経歴
  • 【職歴】
     2020年   日本生命保険相互会社入社
     2021年4月 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2024年04月12日「基礎研レポート」)

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