2023年11月28日

堅調を維持している2023年上期米国個人生命保険販売-下半期も引き続き増加基調か-ニーズ取り込みに課題も-

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1――米国における個人生命保険2023年上半期の新契約販売業績の概況

米国における生保・年金のマーケティングに関する代表的な調査・教育機関であるLIMRAが発表したデータ1によれば、2023年上半期の個人生命保険販売は、新契約保険料こそ若干減少したものの、新契約高、新契約件数とも増加した。記録的な増加率2となった2021年以降、堅調を維持しているといえよう。

(図表1)は、新契約保険料(=販売された新契約の保険料を、一時払保険料は10分の1して年換算した数値3)、新契約高(=販売された新契約の死亡保険金額の合計額)、新契約件数(=販売された契約の件数)、という3つの指標で見た個人生命保険販売業績である4
【図表1】米国 個人生命保険販売業績
(図表2)は、2022年以降の新契約販売実績について、四半期毎に見たものである。
【図表2】米国 個人生命保険販売業績【四半期毎】
これによると、2022年後半は減速傾向にあったものの、2023年に入り再び増加傾向に転じているものと考えられ、LIMRAでは、下半期も引き続き増加傾向になることを予想している5
 
1 LIMRA「U.S. Retail Individual Life Insurance Sales Survey-Summary Report」(SECOND QUARTER 2023)。
2 2021年の米国個人生命保険の新契約販売の状況については、小著「コロナ禍を契機に伸び始めた米国の個人生命保険販売」『基礎研レポート』(2022年6月30日)において、その背景含め紹介している。
3 前掲注釈1のLIMRA調査結果ではAnnualized Premiumと表記されており、「新契約年換算保険料」と記載すべきところとも考えられるが、わかりやすさの観点より、ここでは「新契約保険料」としている。
4 なお、LIMRAによれば、上記データの米国生保市場のカバー率は、新契約保険料で85%、新契約高で90%、新契約件数で60%である。
5 LIMRA News Release 「LIMRA: Improving Economic Conditions Buoy Second Quarter U.S. Life Insurance Sales」(2023年9月7日)。

2――消費者ニーズは必ずしも取り込み切れていないとの見方も

2――消費者ニーズは必ずしも取り込み切れていないとの見方も

上記のとおり、米国の個人生命保険販売業績は、引き続き堅調を維持していると言われている。

一方、2023年1月に実施されたLIMRAによる調査結果によれば、生命保険について「十分な保険に加入していない」と感じている人は41%と高く(図表3)、「今後1年で生命保険への加入の意向を持っている人は、過去最高の39%に達した、中でもZ世代(1997-2012年生まれ)とミレニアル世代(1981-1996年生まれ)は、それぞれ44%、50%とさらに高い」(図表なし)、とされている6
【図表3】米国における生保ニーズギャップ
上記調査結果に基づけば、例えば18歳以上65歳未満の米国の人口でみると、約8000万人7が1年以内に保険加入意向を持っていることになり、販売拡大余地はまだ大きいといえよう。

LIMRAも、2023年9月5日付ニュースリリース「Three Misconceptions May Deter Americans from Getting the Life Insurance They Need」において8、2023年上半期の米国の生命保険販売について、「堅実な成長」とする一方で、「今年保険加入しようと思っている多くの消費者の意図を反映できていない」としている。

米国の消費者は、生命保険に対するニーズも高まっており、成長余地も大きいと考えられ、マーケット状況については、引き続き、注視を続けたい。また、当レポートに続いて、生保業界が消費者のニーズを取り込み切れていない原因についても紹介していきたい。
 
6 LIMRA News Release 「New Study Shows Interest in Life Insurance at All-Time High in 2023」(2023年4月24日)。Barometer Study」。
7 米国の全人口、18歳以上人口(JETRO「米国勢調査の最新結果から人口動態変化を読み解く」(2021年10月14日))、2020年時点における65歳以上が全人口に占める割合16.8%(Forbes JAPAN「米国の人口構成変化が加速 少子高齢化進む」」(2023年6月11日))より、筆者にて概算したもの。
8 LIMRA News Release 「Three Misconceptions May Deter Americans from Getting the Life Insurance They Need」(2023年9月5日)。
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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

(2023年11月28日「保険・年金フォーカス」)

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