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EUと米国の間の再保険規制を巡る動きについて-カバード・アグリーメントがついに署名された-
1―はじめに
前回のレポートで報告したように、米国財務省(The U.S. Department of the Treasury)及び米国通商代表部(Office of the United States Trade Representative:USTR)は、7月14日のプレス・リリースで、「政府は、今後数週間で協定に署名することに加えて、実施に関する米国の政策声明を発表する予定である。」として、カバード・アグリーメントに署名する意向であることを発表1していた。
これを受けて、米国財務省及びUSTRは、9月22日に「カバード・アグリーメントに署名」した旨を公表2し、併せて「政策声明」も公表3した。
今回のレポートでは、これらの公表内容及びこの発表を受けての関係団体の反応を報告する。
1 https://www.treasury.gov/press-center/press-releases/Pages/sm0124.aspx
2 https://www.treasury.gov/press-center/press-releases/Pages/sm0164.aspx
3 https://www.treasury.gov/initiatives/fio/reports-and-notices/Documents/US_Covered_Agreement_Policy_Statement_Issued_September_2017.pdf
2―カバード・アグリーメントと今回の合意の内容
1|カバード・アグリーメントとは
カバード・アグリーメントとは、「米国と1つ以上の外国政府、当局または規制主体との間で締結され、州の保険または再保険規制の下で達成される保護レベルと『実質的に同等』である保険または再保険の消費者のための保護レベルを達成する保険または再保険の事業に関するプルデンシャル(健全性)措置の認識に関連する、保険または再保険の事業に関するプルデンシャル措置に関する、書面による二国間または多国間の合意」として、ドッド・フランク法(Dodd-Frank Act)のTitle Vに定義された特殊なタイプの国際的合意である。
今回、米国財務省及びUSTRは、9月22日のプレス・リリース2で、「財務省、USTRは、EUとのプルデンシャルな保険及び再保険措置に関するカバード・アグリーメント4に署名した」と公表した。
Steven T. Mnuchin財務長官は、「規制上の明確さを提供し、規制上の負担を軽減することで、合意は、米国企業が、EU内でより競争力を高め、国内外の米国の保険会社や再保険会社の機会を増やし、持続的な経済成長という政府の目標を促進することを可能にする。」と述べている。
具体的には、以下の通りである。
2017年9月22日
財務省、USTRは、EUとのプルデンシャルな保険及び再保険措置に関するカバード・アグリーメントに署名した
ワシントン - 米財務省とUSTRは、本日、EUとのプルデンシャルな保険及び再保険措置に関するカバード・アグリーメント(合意)に調印した。財務省とUSTRはまた、米国が合意の一定の条項の実施をどのように見ているかを明確にする政策声明を共同で発表した。
合意は、プルデンシャルな保険監督の3つの分野、すなわちグループ監督、再保険、監督当局間の情報交換に対応している。合意は、米国における保険事業の主な監督者としての州の保険監督当局の役割を含む、米国の保険規制制度を確認している。
Steven T. Mnuchin財務長官は、「広範な利害関係者の関与とレビューの結果、財務省はEUとのカバード・アグリーメントが、米国、米国の保険業界、米国の保険契約者にとって勝利であると結論付けた。」「規制上の明確さを提供し、規制上の負担を軽減することで、合意は、米国企業が、EU内でより競争力を高め、国内外の米国の保険会社や再保険会社の機会を増やし、持続的な経済成長という政府の目標を促進することを可能にする。」と述べた。
Robert Lighthizer USTR代表は、「EUとの合意は、米国保険業界に対して、公平な競争市場を確保し、それによりEUにおける米国の競争力を強化するものである。」「米国の政策声明と整合的に実施される合意は、国内外における消費者を保護し、米国の保険会社がEUの潜在的に過剰な規制要件への遵守を緩和することで、米国の利益を増進させる。」と述べた。
米国は、合意が実施される際に、米国保険会社、米国再保険会社、米国保険監督者、米国消費者、米国経済の利益を促進することにコミットしている。米国は、合意の実施の進展の上で、利害関係者と州監督当局との関与を継続する。
今回のカバード・アグリーメントにより、米国で活動するEUの再保険会社の担保要件が排除され、米国の再保険規制をソルベンシーIIと同等のものとして認識することで、EUで活動する米国の再保険会社に課せられる障壁が取り除かれることになる。
より、具体的には、今回のカバード・アグリーメントは、健全性保険監督の3つの分野、(1)再保険、(2)グループの監督、(3)監督者間の保険情報の交換、をカバーしている。
「(1)再保険」に関しては、消費者保護が強化され、EU及び米国の市場で事業を展開するEU及び米国の再保険会社に対する担保及び現地のプレゼンス要件の廃止につながることになる。
「(2)グループの監督」に関しては、米国とEUの保険会社は、自国の管轄地域の監督者による世界的なプルデンシャル保険グループ監督のみの対象となり、米国及びEUのそれぞれの監督当局の自国の監督の優位性が保持されることになる。ただし、各監督者は、その監督領域における保険契約者の利益や金融の安定性を損なう可能性のある世界的な活動についての情報を要求し入手する資格は保持する。
「(3)監督者間の保険情報の交換」に関しては、米国とEUの保険監督当局は、米国及びEU市場で活動する保険会社及び再保険会社に関する監督情報を引き続き交換することを奨励し、このような情報交換を支援するためのモデル覚書の規定を含めている。
今回の合意は、米国にとってはドッド・フランク法の意味での「カバード・アグリーメント」であるが、一方で、EUにとっては「EU機能条約第218条に基づく合意」である。
今回の署名を経て、EUと米国は、合意に従って、仮出願(Provisional Application)に移行することになる。また、欧州連合は、正式にこの協定を締結するために、「EU機能条約」に基づいてEU理事会と欧州議会を含む、必要な措置を講じていくことになる。
以下は、米国財務省及びUSTRのプレス・リリースに先立って、同じ9月22日に、米国とEUによって行われた共同声明5の内容である。
2017年9月22日
保険と再保険のプルデンシャル措置に関するEUと米国の二国間協定の今後の署名に関する共同声明
ワシントン/ブリュッセル - 米国とEUは、9月22日金曜日の午後に行われるプルデンシャルな保険と再保険措置に関するEU-US合意の来るべき署名を発表することを喜ばしく思う。両当事者は、2017年7月14日に同意書に署名する意向を発表した。
この合意は、保険及び再保険に関する米国とEUの協力の大きな前進を表しており、堅牢な消費者保護を維持しながら、規制の確実性を強化することにより、大西洋を横断して活動するEUと米国の保険会社及び再保険会社に利益をもたらす。
この合意は、米国にとってはドッド・フランク法の意味での「カバード・アグリーメント」であり、EUにとっては欧州連合機能条約第218条に基づく合意であり、プルデンシャルな保険監督の3つの領域:(1)再保険、(2)グループ監督、(3)監督者間の保険情報の交換、に対処している。
再保険に関して、合意は、お互いの市場で事業を行うEU再保険会社及び米国再保険会社に対する担保及び現地プレゼンス要件の廃止につながる。
グループ監督に関しては、この合意により、他の市場で営業している米国及びEUの保険会社は、自国の管轄地域の監督者による世界的なプルデンシャルな保険グループ監督の対象となる。
また、合意は、米国及びEUの保険監督当局が、米国及びEU市場で活動する保険会社及び再保険会社に関する監督情報を引き続き交換するように奨励している。このような監督当局間の情報交換を支援するため、合意にはモデル情報共有覚書規定が含まれている。
米国とEUは、合意により設立された合同委員会を含む、合意の実施の成功を期待している。この合意は、米国及びEUの保険の消費者ならびに両市場で事業を行う米国とEUの保険会社及び再保険会社にとって、有意義な利益をもたらす。当事者は、本合意に従って仮出願に移行する。欧州連合はまた、正式にこの協定を締結するために、EU機能条約に基づいてEU理事会と欧州議会を含む、必要な措置を講じる。
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