2017年07月18日

欧州保険会社が2016年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その1)-

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1―はじめに

欧州の保険会社各社が5月中旬から6月末にかけて公表した単体及びグループベースのSFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)については、前回のレポートでその全体的な状況について報告した。

今回のレポートでは、欧州大手保険グループのSFCR(含むQRTs(定量的報告テンプレート))の内容から、長期保証措置と移行措置の適用による影響とSCR(ソルベンシー資本要件)とMCR(最低資本要件)の計算方法の説明について報告する。
 

2―長期保証措置と移行措置の適用による影響

2―長期保証措置と移行措置の適用による影響

1|長期保証措置と移行措置について
ソルベンシーIIにおいては、景気循環効果を制限して、ソルベンシーIIの新しい規制枠組みへの円滑な移行を促進し、特に困難なマクロ経済環境に適応するために必要な時間を会社に提供すること等を目的として、1) リスクフリー金利の補外、2) マッチング調整、3) ボラティリティ調整、4) リスクフリー金利の移行措置、 5) 技術的準備金に関する移行措置、6) ソルベンシー資本要件に違反した場合の回復期間の延長、といった「長期保証(LTG)措置」や「移行措置」が導入されている。さらに、今回のレポートでは触れていないが、7) 株式リスクチャージの対称調整メカニズム、8) デュレーションベースの株式リスクサブモジュール、といった「株式リスク措置」も導入されている1
 
1 これらの概要については、保険年金フォーカス「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの報告書の概要報告-」(2017.1.10)等を参照していただきたい。この時のEIOPAの報告書では、「長期保証(LTG)措置」と「移行措置」を合わせて、「長期保証(LTG)措置」と呼んでいた。
2|長期保証措置と移行措置の適用による影響
(1)適格自己資本やSCR(ソルベンシー資本要件)への影響
今回のSFCRのQRTsのS.22.01.22においては、このうちの、2) マッチング調整、3) ボラティリティ調整、4) リスクフリー金利の移行措置、 5) 技術的準備金に関する移行措置、の適用に伴う影響額が開示されている。

以下の図表が、欧州大手保険グループ6社(AXA、Allianz、Generali、Prudential、Aviva、Aegon)の数値をまとめたものである。EIOPA(欧州保険年金監督局)は、2016年12月16日に、「長期保証措置と株式リスク措置に関する報告書2016(Report on long-term guarantees measures and measures on equity risk 2016)」2を公表しているが、ここでは各国別のLTG措置や移行措置の適用状況についての報告が行われていた。今回のSFCRでのQRTs の公表により、個別会社・グループ毎の数値が明らかにされた形になっている。
長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用による影響(2016年末)
これによると、ボラティリティ調整については、各社が適用しており、それによるSCRへの影響額は、英国の保険グループの場合は殆ど無いが、英国以外の保険グループの場合、10%~30%程度と大きなものとなっている。なお、上記の図表の数値は、例えば、ボラティリティ調整を0にした場合の影響額を示している。基本的には、これにより割引率が低下することから、技術的準備金が増加することで、SCRは増加し、適格自己資本は減少することになる。ただし、Allianzの場合、ドイツの生命保険会社において、SCRの増加に伴う利用不可能な控除の減少が適格自己資本にプラスに働く要素が大きくなっていることから、他の5グループとは異なり、適格自己資本への影響がプラスになっている。

一方で、英国の保険グループはマッチング調整の影響が大きなものとなっており、さらに技術的準備金に対する移行措置を適用することで有意な効果を確保している。Aegonの場合、基本的にはボラティリティ調整のみを適用しているが、英国の子会社等でマッチング調整を適用している。
 
(2)SCR比率への影響
上記の影響額に基づいて、SCR比率(=適格自己資本/ソルベンシー資本要件)への影響を試算すると、以下の図表の通りとなる。なお、この長期保証措置や移行措置を適用しなかった場合の数値を開示している会社の場合には、その数値を使用している。

これによると、これらの措置を適用しなかった場合でも、Aviva以外は100%を超えるSCR比率を確保していることになる。なお、Avivaも技術的準備金に関する移行措置のみを非適用とした場合には139%と100%水準を確保している。

この図表からは、英国の保険グループの長期保証措置や経過措置の適用への依存度の大きさが一層際立つ形で見てとれる。
長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用によるSCR比率への影響(2016年)
 (参考)Generaliの説明
Generaliは、ボラティリティ調整の使用に関して、「適用される規制において明示的に予見されており、保険者のソルベンシー・ポジションの計算において不可欠な部分である。負債にも当てはまる流動性の特性のために、資産の価格に埋め込まれた流動性プレミアムから企業が利益を得ることができる保険事業の経済的性質を反映している。」として、その使用の妥当性を説明している。さらに、「ボラティリティ調整を伴わないソルベンシー比率に関する以下の情報が提供されるが、当グループの見地からすれば、これは経済的に適切な指標と見なされるべきではない。」と説明している。

E.6.2. ボラティリティ調整の影響
ソルベンシーIIの枠組みの中で認められている長期措置のうち、Generali Groupは、保険負債の流動性のない性質を反映して、金利曲線にボラティリティ調整(VA)を適用している。

ソルベンシー評価のためのボラティリティ調整の使用は、適用される規制において明示的に予見されており、保険者のソルベンシー・ポジションの計算において不可欠な部分である。負債にも当てはまる流動性の特性のために、資産の価格に埋め込まれた流動性プレミアムから企業が利益を得ることができる保険事業の経済的性質を反映している。

当該調整の規模を評価するために、規制によって要求されるように、ボラティリティ調整を伴わないソルベンシー比率に関する以下の情報が提供されるが、当グループの見地からすれば、これは経済的に適切な指標と見なされるべきではない。

以下の表は、ボラティリティ調整を考慮しないソルベンシー計算の結果をまとめたものである。

Generaliのボラティリティ調整の影響

各通貨のボラティリティ調整のゼロへの変更は、生命保険BEL(最良推定負債)総額 18.62億ユーロおよび損害保険BEL 166.8百万ユーロの増加に相当する。その結果、適格自己資本は、税及び移転可能性およびマイノリティー・フィルターを減少させるSCRの増加による間接的な効果を差し引いた後で12.65億ユーロ減少する。

SCRは、自己資本が信用スプレッドの動きに対してよりボラタイルになるにつれて大幅に増加する。

ボラティリティ調整を適用しなくても、ソルベンシー比率は、SCR比率133.2%、MCR比率198.5%で、それぞれ臨界値をはるかに上回っている。

3|長期保証措置と移行措置の適用対象
長期保証措置と移行措置の適用対象について、各社は以下の通り説明している(なお、ここでは、MA(マッチング調整)、VA(ボラティリティ調整)の略称を使用している)。

(1)AXA
一般勘定契約については、VAの100%を適用、ユニットリンク契約には0%

(2)Allianz
生命保険契約については、VAは変額年金を除く全ての契約に対して適用(VAの適用率は65%)
損害保険契約については、監督当局が適用を承認した会社に対して適用(技術的準備金の82%)

(3)Generali
生命保険ポートフォリオの約96%に対して使用
損害保険ポートフォリオの大部分に対して使用

(4)Prudential
VAは、香港の米ドル建の有配当契約に対して、最良推定負債のCFを割り引くためのリスクフリー曲線に適用される。リスクマージンを計算する際にはVAは適用されない。PRAの承認を得て、2016年12月末の米ドルのVAは50bp
MAは、英国の年金契約に対して、最良推定負債のCFを割り引くためのリスクフリー曲線に適用される。リスクマージンを計算する際にはMAは適用されない。PRAの承認を得て、2016年12月末の英国の年金に対するMAは62bp

(5)Aviva
MAは、英国の生命保険(UKA、UKLAP NP、FLL、FLP)、AII、スペインの生命保険に対して適用
VAは、UKA、UKLAP、FLL(生命保険)。AIL(損害保険)、AII(生命&損害保険)への適用の承認をPRAから得た。フランス、イタリア、スペインでは申請はいらない。適用可能な場合、英国生保におけるユニットリンク契約を除いて、MAが適用されない全ての負債に対して、VAが適用される。
技術的準備金に対する移行措置はUKA、UKLAP、FLL、FLP、AII、スペインの保険会社に適用
各措置の適用対象や承認の状況等を附属資料に添付

(6)Aegon
MAは、Aegon UK、Aegon Spainに適用
VAは、Aegon the Netherlands、Aegon UK、Aegon Spainに適用
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中村 亮一

研究・専門分野

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