コラム
2016年11月17日

生涯現役促進地域連携事業の本来の意味

生活研究部 主任研究員   前田 展弘

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「生涯現役促進地域連携事業」が本年4月からスタートしている。正確には、10月末の時点で事業を実施する地域が決定されたところであり、これから各地で本格的に始動されていくところである。この事業は、厚生労働省が高年齢者雇用安定法の改正を行った上で主導する事業であり、リタイアした後の高齢者の活躍の場を拡げることに国として本気性を持って取組むことを表明した事業と言える。このことについては本年6月の時点で筆者もその動向を報告したが1“いま地域で何が起こっているのか、その意味合いとは何か”、今一度概説したい。

当事業が創設された背景については、改めて申し上げるまでもないと思われるが、「高齢者の雇用促進」は安倍政権が目指す「一億総活躍社会の実現」に向けた重要な政策課題の一つである。個人にとっても、リタイアした後の活躍の場が拡がるかどうかについては、セカンドライフの設計に大きな影響を及ぼすことである。しかしながら、65歳以上の高齢者が働ける場(仕事)は決して多くはない。リタイアした後、新たな仕事を見つけようとハローワークやシルバー人材センター(会員になる必要がある)に行っても、選択肢が限られるなかで自分が望む仕事を見つけられず、働くことを諦めてしまっている人が少なくないと想像する。こうしたなかで、高齢者の就労希望ニーズに応えつつ、その高齢者の力をそれぞれの地域が有する課題の解決に活かすことを企図して創設されたのが今回の生涯現役促進地域連携事業である。

当事業は、地方自治体(都道府県/市区町村)が中心となって、まず所定の「地域高年齢者就業機会確保計画」を策定し、地域の関係機関(労使関係者や金融機関等)が連携する「協議会」2がその計画を遂行する。協議会の中には事業統括員、事業推進者、支援員からなる事務局が置かれ、協議会メンバーである関係機関と連携しながら、地域内での高齢者の多様な活躍場所の開拓とマッチングを行っていくことが想定されている。

冒頭に少し述べたが、当事業はいきなり全国展開されるわけではなく、今年度は厚生労働省の公募に手を挙げた地方自治体の中から採択された地域のみが実施されることになっている。2回(1次・2次)の公募を経て、最終的には以下の15地域が採択され、今年度から生涯現役促進地域連携事業が進められることになっている。
「生涯現役促進地域連携事業」実施地域(2016年度)
この15地域は少なくとも高齢者雇用促進に積極的な地域であり、先駆的なモデル地域になっていくところと言える。では実際、これらの地域でどのようなことが行われようとしているのか、少しでも理解を促すために図表1を描いてみた。これは「高齢者の仕事の内容(性質)」と「それを開拓し斡旋する機関がカバーする範囲」を付置したものである(あくまで筆者のイメージ)。縦軸には「仕事の難易度(≒賃金の高さ)」、横軸には「企業ニーズが強い仕事と地域ニーズが強い仕事(営利・非営利的な仕事と言い換えても良いかもしれない)」を置いて、この中に「民間の派遣・紹介企業」、「シルバー人材センター」、「ハローワーク」、そして「生涯現役促進地域連携事業(協議会)」を付置した。ここで申し上げたいことは、ご覧のとおり、高齢者が活躍できる仕事の範囲が拡大するということ、特に福祉や子育て、あるいは観光産業の強化、地場産業の担い手不足解消といった地域として有する課題の解決(左側)に生涯現役促進地域連携事業(協議会)が中心となって高齢者の仕事を拡充させていく方向にあるということである。
図表1:地域のおける高齢者の仕事と開拓実施機関のカバー範囲(イメージ)
個人(高齢者)にとっては、活躍できる選択肢が拡がる可能性があり、期待されるところである。しかし、地域社会の制度・システムという見方をしたときに、もともと高齢者に仕事を提供する公的な機関としてハローワークとシルバー人材センターがあったにも関わらず、なぜ生涯現役促進地域連携事業(協議会)を創設する必要があったのか、疑問を持たれたのではないかと思う。限られた社会的なコストを考えても、重複的(重畳的)な取り組みは避けたほうが良いのは当然である。ここで誤解を招きやすいこととして、ハローワークやシルバー人材センターだけでは高齢者雇用の促進が進まない(足りない)から当事業が創設されたと考えられがちだが、決してそうではない。生涯現役促進地域連携事業創設の本来の意味は、高齢者の雇用促進という重要な社会的課題に対して、地域が一体となって取り組む“仕組み”を創ることである。一つの“まちづくり”と言い換えられることである。これまでハローワークやシルバー人材センターだけに高齢者の雇用促進の役割を委ねていたものを、地域における多様な機関が連携して協働していくことを進めようとしているのである。“一人でやるよりみんなで取り組む”ほうが成果が大きくなることは言うまでもない。仮に、生涯現役促進地域連携事業をリードする協議会(事務局)が孤立する形で自分たちのできることだけを行うのであれば、ハローワーク、シルバー人材センターに継ぐ第3極の機関に過ぎないわけで、それでは本来の目的を果たすことにはならない。コストとしても無駄と言わざるを得ない。どうすれば地域一体となって取組むことができるのか、先行する15地域においてはその形(仕組み)づくりが問われているのである。繰り返しになるが重要なことは、協議会を構成する機関が各々主体的に取り組み、有機的な協働体制を確立することである。そのモデルができた先に、高齢者が活き活きと活躍する活力ある地域の未来が訪れることになるであろう。筆者としても期待を込めて今後もその動向を注視していきたい。
 
 
1 前田展弘「高齢者雇用政策の新たな展開~地域における高齢者の多様な就業機会の確保・拡充に向けて」(ニッセイ基礎研Report,2016.6.20) http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=53151?site=nli
2 筆者もメンバーである千葉県柏市の協議会は、柏市(保健福祉部、経済産業部)、柏商工会議所、柏市沼南商工会、柏市社会福祉協議会、柏市シルバー人材センター、日本政策金融金庫(松戸支店)、東京大学高齢社会総合研究機構、一般社団法人セカンドライフファクトリーから構成される。
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生活研究部   主任研究員

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

(2016年11月17日「研究員の眼」)

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