2016年03月31日

まちづくりレポート|多摩に広がる共感コミュニティ

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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4――共感コミュニティを育む意義

1|共感コミュニティが地域社会によい効果を与える理由
共感コミュニティが増えていくことは、地域社会によい効果をもたらすと筆者は考えている。理由は次のとおりである。

(1)共感コミュニティの分かち合う関係が暮らしていて心地よい地域社会を形成する
共感コミュニティの参加者は、人とのつながりに価値を見出している人たちである。そして外に開かれた活動によって、同様の人を引き付ける力を持っている。

共感を基につながることは、ゆるやかな相互依存関係をつくることだと考えられる。例えば、本を共感の種にしたコミュニティは、本好きな人が、本について語り会いたいと考えたときに、同じ欲求を持つ人同士を引き合わせる。そこには、本について語り会いたいという欲求に対し、自分が知っている本の話しをお互いに提供するという関係が成り立つ。お互いの欲求に対し、お互いでサービスを提供し合う関係だ。

相互依存関係というと、常にそれに縛られる面倒な関係を連想しがちだが、この場合、自分の好きなことが人のためにもなる、人のためにすることが自分のためにもなるという相互依存関係である。簡単に言えば、分かち合う関係だ。これがなくても普通に生活できるが、あれば心地よいし、楽しいというものである。

共感コミュニティが増えることは、分かち合いの関係を生みだし、暮らしていて心地よい地域社会をもたらすと言えよう。

 (2)共感コミュニティのつぶやきを受け止め合う関係が地域課題を受け止めやすい地域社会を形成する
共感コミュニティには、誰かのつぶやきを受け止め合う関係がある。こんなことができたらいいなという一人のつぶやきを周りの人が受け止め、どうしたらいいかと一緒に語り合い、プロジェクト化して実行する。

こんなことができたらいいなの、こんなことは個人的な興味・関心事で、やれば面白いと思うことが主だ。決して、行政が期待するような課題解決型の活動ではない。しかし、課題解決型の活動についても、日頃から、個人的な興味・関心事から発せられるつぶやきを受け止め合う関係がなければ始まることは難しい。なぜなら、課題解決型の活動が始まるためには、地域課題を住民同士で共有することが必要であり、地域課題を共有するためには、共有しやすい関係がないと難しいからだ。

例えば、「身近で孤独死があったらいやだわ・・・」というつぶやきを、周りの誰かが「そうよね、うちの近所にもひとり暮らしのおばあちゃんがいるわ」と受け止める。「どうにかならない?」といったやり取りが生まれるところから、住民同士の課題の共有につながる。このような、自分が感じていることを、一緒に考えてくれる人が周りにいること、誰かのつぶやきをみんなの言葉にする関係があれば、地域の課題も共有しやすいと考えられる。

こうしたつぶやきを受け止め合う関係は、実は今、地域社会に最も求められていることではないか。地域社会に何のつながりを持とうとしない人達や、逆に何かと干渉し合う濃密な人間関係よりも、誰かのつぶやきを受け止め合うゆるやかなつながりがあることが、地域社会を運営していく上で重要ではないであろうか。それを備えた共感コミュニティが地域社会に増えることは、地域課題を共有しやすい環境を形成することにつながるのである。

(3)共感コミュニティが持つ地域への眼差しが地域の価値を高めることに貢献する
共感コミュニティの参加者は、自分が暮らす地域に関心がある人が多い。地域の魅力を掘り下げる視点、それを形にするスキルを持った人が、地域に眼を向け、地域の素材を抽出し、それを編集することで地域の魅力を普段と違った角度から浮かび上がらせている。地域の素材を使って楽しみ、それを受け止める人とも楽しみを共有し、地域への共感の輪を広げようとしているのである。

共感コミュニティが増えることは、このような共感コミュニティが持つ地域への眼差しによって、地域の素材を活用し、地域の価値を高めることに大きく貢献するだろう。

2|地域社会で共感コミュニティを育むことへの期待
(1)住民への期待
筆者は、地域社会が、より一層共感コミュニティに眼を向けるとともに、共感によるつながりが生まれやすい状況を意識的に用意すべきではないかと考えている。

例えば共感コミュニティの成立に欠かせない要素である、共感の種を蒔くこと、開かれた場所を用意すること、つながる仕組みを工夫することである。

共感の種を蒔くことによって、思いもよらない人とのつながりが生まれ、既存の空間を使い勝手の良い場所にすることで、ゆるやかなつながりを育むことができ、何らかのつながる仕組みを仕掛けることで、つながりが広がっていくことが期待できるだろう。

こうした、共感コミュニティを育む地ならしとも言える取り組みを、是非とも地域社会に属する住民に期待したい。

(2)行政への期待
共感コミュニティのようなゆるやかなつながりの形成は、これまで行政施策の対象として考えられてこなかったと思われるが、地域社会によい効果をもたらす共感コミュニティを育むために、行政が取り組むべき事も多々あると考えられる。

実際に、「キョテン107」と日野市の関係や、「ひのプロ」のメンバーである日野市職員の関わり方は、「キョテン107」の運営に大きく貢献しているのである。

また、5つの事例がいずれも公共施設ではなく民間の賃貸物件を活用している理由は、公共施設の使い勝手の悪さにあると思われる。

このような、共感コミュニティを育むための行政の関わり方や、公共施設をより活用しやすくすること等について、可及的速やかに検討していくべきであろう。
 

5――おわりに

5――おわりに

筆者は、これまで課題解決型のまちづくり活動に、関係者としてあるいは専門家として関わる中で、その限界感や閉塞感を感じることが多かった。しかし、共感コミュニティにはそうした状況を変えていく可能性を感じている。

今回、話しを伺った方々から教えていただいた別の興味深い事例も含めて、ここで取り上げた事例の他にも、研究対象としたい事例が数多くあった。そうした事例を取り上げつつ今後さらに共感コミュニティに関する研究を深めて、共感コミュニティを育む具体方策まで掘り下げていきたいと考えている。

最後になったが、あらためて、本調査研究にご協力くださった皆様に感謝申し上げたい。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

(2016年03月31日「基礎研レポート」)

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