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東京のオフィス市況は底を打ったと思われますか?
セミナーなどでこの質問させていただくと、出席者の何割かはまだ底を打ったとは思えないとの回答をいただきます。みなさまはどうお考えですか?
東京のオフィス市況はこの一年間で大きく改善しました。主導したのは需要の増加です。実は2012年にも大幅な需要増加があったのですが、2012年問題と呼ばれた大量供給のため、市況改善が目に見えては進みませんでした。今年は、昨年に近い需要増がある一方i、供給は昨年の1/3程度と少なかったため、市況は7月以降に大きく改善しました。
テナントの移転も増え、IT系やアミューズメント系を中心に拡張を伴う移転が大幅に増加していますii。空室率は下落が続き、Aクラスビルの成約賃料指数(オフィスレント・インデックスiii)は底値から35%を上回る上昇となっています。
こうした空室率の低下やAクラスビルを中心とした賃料上昇にもかかわらず、なぜ、誰もが底を打ったと感じる状況にはなっていないのでしょうか。その要因は、まだら模様の市況回復にあると思います。Aクラスビルや好立地の新築ビルで市況改善が進む一方、賃料を下げてもテナントが確保できないビルも多く存在しています。かつての市況回復期には、大規模優良ビルの需要増加が始まれば、ほどなく周辺や築古中小ビルの市況も雁行形態で回復してきました。しかし、今回はそのような状況につながってこないのです。
まだら模様の市況回復は、供給超過の中で物件の二極化が進展しているためといえます。
東日本大震災を契機に、テナント企業はオフィス選択におけるBCP(事業継続計画)を重視するようになりました。特に耐震性に対しては、賃料が安くても震災時に危険があるビルへの入居は、経営者として二の足を踏まざるをえなくなったと考えられますiv。リーマンショック後の需要減退と2012年の大量供給により需給が緩和している下でのBCPの重視は、競争力の違いによるビル間の需要格差を拡大させる大きな契機になったと思われます。
とはいえ、競争力のあるAクラスビル主導による需要の拡大で、リーマンショック後の長い不況から、東京のオフィス市場は回復をはじめています。つまり、市況は底を打ったと考えています。弊社の見通しでは、来年の消費税増税にも関わらず、東京のAクラスビル市況は2015年半ばまで改善が続くと考えています。その後、市況は調整期に入りますが、2017年を底に2021年まで回復が続くと予測していますv。五輪開催効果でさらなる底上げもあるでしょう。
まだ本格的な回復が到来する前の現段階で、オフィス市況の悪化を語るのは時期尚早とお叱りを受けそうですが、2020年の東京オリンピック開催までに一度はオフィス不況期が来るのは避けられません。過去の市況サイクルを考慮しても、上昇期と下降期の期間はともに2~3年程度と考えられます。
東京のオフィス市況は上昇と下降を繰り返してきており、今後もそうしたサイクルが続くと思われます。市況のサイクルを忘れずに早めに対処することが、オフィス事業を続ける上でとても重要な点ではないかと思います。
今後の市況サイクルに関する懸念は、サイクルの軸が長期的に右肩下がりになるのではないかということです。日本は2012年から本格的な人口減少期に突入しており、このままでは国内需要の長期的な減少は避けられません。また、オフィス供給も新規需要を生み出さなければ市況の押し下げ要因となります。
東京五輪が予定されている2020年まであと7年。それまでに日本の「再興」をどれほど達成できるか、オフィス地区の集中と再構築の進展、オフィスの生産性の向上viなど、市場の長期的な成長と市況維持のためには多くの課題があると思われます。東京五輪までの7年間という期間を区切った集中的な対策と改革が、東京のオフィス市場の持続的な成長を促し、世界の中でさらなる地位を確立する契機になることを期待したいと思います。
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竹内 一雅
研究・専門分野
(2013年12月26日「研究員の眼」)
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